まずは目標設定だ
翌日。
とにかく、今後のことについてエールと話し合った。
冒険者クラン【神龍の巣】を、王国一のクランにするために何をすべきか?
「テッペンを目指すために名前を売るってのはそうなんだけど、具体的にどうすればいいと思う?」
エールが淹れたお茶を一口飲んで、俺は訊ねた。
なにしろ、俺は冒険者になったばかりだ。
ド素人もいいところだ。
しかし、エールは冒険者としても、クランの運営に関しても大先輩なわけで。
表向きは、俺がこのクランのリーダーだけれど実質的なリーダーはエールと言っていいだろう。
「そうですね。
やはり、大きな依頼を達成していく、というのがいいかなと」
もっと具体的なことを言ってしまえば、高額な依頼だ。
国際指名手配されている賞金首を捕まえるだとか。
災害級とされているモンスターを討伐するだとか。
そんな依頼をこなして、知名度アップをしていくしかない。
しかし、ある意味出来たてホヤホヤといっても過言ではない、【神龍の巣】に、そんな依頼を回すだろうか?
答えはNO。
受付で、遠回しに別の依頼を勧められるのがオチだ。
俺は、その考えを口にした。
「ですよねぇ」
エールもその点は考えていたようだ。
「結局、地道にコツコツとやっていくしかないですね」
ちなみに、個人の冒険者にもだが、クランにも格付けというものが存在しているらしい。
依頼の達成率が多ければ多いほど、上位になるらしい。
もちろん、高難度の依頼達成率も多ければそれだけランクは上になる。
名前を売る。
知名度を上げる。
そうすれば、今は俺たち二人しかいないこのクランにも、人が集まって来るはずだ。
「それはそれとして、メンバー募集はしておきましょう。
やはり人数も必要ですし」
「それな」
俺は賛成した。
もしかしたら、俺みたいにあちこちのクランをたらい回しにされてる人が、最後の藁として掴みに来るかもしれないからだ。
とりあえず、当面の目標は決まった。
あ、そうだ。
「そういえば、聞いておきたいんだけど」
「はい?」
「エールは、この新生【神龍の巣】をどんなクランにしたい??」
「どんな??」
「そう、あるでしょ?
こう、滅茶苦茶強いクランにしたい、とか。
強きをくじき、弱いものを助けるクランにしたい、とか。
そういうの」
「そう、ですね」
むむむ、とエールは眉をよせて考えはじめた。
そして、どこか懐かしそうに。
「お兄ちゃんが生きていた頃の、あんな優しい場所にしたいです」
優しい場所。
ちょっとふわっとしてるなぁ。
「それじゃ、聞かせて欲しい。
お兄さんが創ったクラン、先代【神龍の巣】はどんなクランだったのか?」
そうして、色々話を聞いてわかったのは、エールのお兄さんはどうもヒトが良すぎた、ということだった。
誰も彼もが断っていた割に合わない依頼を中心に、嫌な顔をせず受けていた。
そのことが、エールの記憶の中には【優しい場所】として残っていたのだ。
それが幸をそうしたのか、彼の周りにはいつしか仲間が集うようになっていたのだという。
そして、気づけば王国一のクランとなっていた。
最高であり、最強として先代【神龍の巣】はテッペンに君臨していた。
「なるほど」
ただテッペンを目指すだけじゃなく、そんなクランにするのも目標だな。
「難しいのはわかってるんです。
私にはお兄ちゃんみたいな、誰かに慕われるような才能はないし。
だから、誰もいなくなっちゃったんです。
そして、人も集まらなかった」
「大丈夫大丈夫」
急にエールが暗くなった。
なので、俺は手をパタパタ振って続けた。
「結果なんて後からついてくる。
まずは、先代のやっていたことを真似ていこう。
知ってる?
真似るは学ぶに通じてるんだ。
なにもかも、全て新しく始めることはないと、俺は思う」
「はい!」
俺が笑って言うと、エールも笑顔になった。
うん、この子には笑顔がピッタリだ。
今後の活動について、大体のことを決めた。
当面は地道に仕事を受けて、アジトの維持費のためにエールがしていた借金を返済しなければならない。
運営って金かかるよね。
わかる。
その後、俺とエールは冒険者ギルドへとやってきた。
仕事を受けるためだ。
「それで、お兄さんは、どんな依頼を中心に受けてた?」
依頼が張り出された掲示板。
それを見ながら、俺はエールに訊ねた。
しかし、エールはキョロキョロと周囲を見て落ち着かないようだった。
「どうした??」
「あ、その。
なんか、見られてる感じが」
言われて、俺も周囲をみた。
たしかに、冒険者ギルド内にいた冒険者たちが、俺たちを見てコソコソとなにか話している。
感じ悪いな。
「うん、見られてる。
エール、なにか悪いことでもした??」
「し、してませんよ!」
冗談で言ったら、エールがそう返してきた。
「知ってるよ。
うん、これはエールのせいじゃない。
多分、俺のせいだから。
気にしない気にしない」
「え?」
エールが、わけがわからないとばかりに疑問符を浮かべる。
この空気を、俺はよく知っていた。
俺の妹と弟をイジメた、歳上の不良集団を壊滅させたあと、世間から向けられた空気によく似ていたのだ。
「あ、これにしよう!
ゴブリン退治、ちょうど相棒も使いたかっ」
俺の言葉は途中で止まる。
なぜなら、いきなりぶん殴られそうになったからだ。
俺は、飛んできた拳を片手で受け止める。
そして、殴ろうとしてきた相手を見た
あっぶねぇ。
エールも巻き添えくうところだっだぞ、これ。
「ウィンさん?!」
エールから驚きの声があがった。
それに構わず、俺は殴りかかってきた相手の拳をギリギリと握る。
そして、
「ご挨拶にしては、些か乱暴ではないですか?」
殴りかかってきた相手へ、俺はそんな言葉を投げた。
それは、昨夜に続いてまたもガラの悪い男だった。
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