先代って結構恨み買ってたのね 後編
その足で、今でもエールとは交流があるという先代【神龍の巣】メンバーが経営しているという喫茶店へ向かう。
そこでも先代の話を聞くためだ。
エールから事前に手紙を送ってもらっているので、今日、俺が行くことは伝わっているはずだ。
商店街の一角に、その喫茶店はあった。
店の名前は【星空の幻燈】というらしい。
扉を開くと、取り付けられた鈴がチリンチリンと音を立てた。
すぐに店員が出てくる。
店長と約束していることを伝えると、その店員は厨房に引っ込んだ。
そしてすぐに店長が出てきた。
それは、腰の曲がったおばあちゃん店長だった。
白髪を大きなお団子にして、エプロンをつけている。
「あらあら、今の総長さんは随分可愛らしい方なのね」
ホワホワとおばあちゃん店長は笑うと、俺を客席へと案内した。
客席はほどよく空いていた。
「それで、以前の【星空の幻燈】の何が聞きたいのかしら?」
…………ん??
「【星空の幻燈】?
え、【神龍の巣】じゃないんですか??」
俺とおばあちゃん店長が顔を見合わせ、互いに首を傾げ合う。
「あら??」
「んんん???」
少しして、ぽん、とおばあちゃん店長は手を叩いた。
「あ、クィンズ君が名前を変えたんだったわね」
なんて言ってきた。
「え、ということは、元々は違う名前だったんですか??
それが、【星空の幻燈】?」
「そうそう!
そうなの!
元々は私が作ったクランのなのよ。
これでも初代総長だったの。
でも、怪我が原因で別の人に【星空の幻燈】の総長をやってもらって、私は裏方にまわったの。
まぁ、雑用係ね。
クィンズ君の代で、たしか十代目だったかしら」
つまりは先代【神龍の巣】の前身となったクランがあった。
それを作ったのがこの人だったと。
というか初代総長だったのか。
「クィンズ君が新しい総長になって、だいぶクランの雰囲気が変わったのは覚えてる。
王国一の強いクランにするんだーって言ってたわ。
私はそのお手伝いをしてた。
そうして、気づいた時には名前が変わってた」
え、気づいた時にはって。
俺は耳を疑った。
だから、つい、
「……嫌じゃなかったですか?」
そんな質問が俺から滑りでた。
俺の質問に、おばあちゃん店長は目を丸くした。
「あら、なんでそんなふうに思うの??」
「え、だって、自分が作って来た物が否定されたように感じません?
雰囲気が変わる、メンバーが変わる、代替わりするのは組織として仕方の無いことです。
でも、勝手に名前を変えてしまうのは……」
ましてや、前身だったクランのメンバーが残っているにも関わらず、なんの相談もなく変えたというのは、かなり問題がある気がした。
「名前に、拘るのね」
「俺の育ての親が言ってました。
名前というのはとても大事なものなんです。
極端な話、魔力が無くても誰にでも使える魔法の一種なのだと」
【呪】といえば、しっくり来るかもしれない。
この人がなにか思いを込めて名付けた名前だったはずだ。
それを、この人に断りなく変えてしまった。
「なるほど、そんな考えもあるのね」
寂しそうに、おばあちゃん店長は呟いた。
この人はきっと、その名前に思い入れがあったはすだ。
そうでなければ、自分が作ったクランと同じ名前を店名にしたりはしないだろう。
ここで俺の中に、ずっと考えていたことが形を成してきた。
テッペンをとったクラン。
依頼は完璧にこなし、失敗はなかった。
羨望を集めていただろう、そんな先代のクラン。
「あの、とても失礼なことを聞いていいですか?」
「なにかしら?」
「店長さん、あなたはクィンズという男を、そんな彼が作ったクランを憎んでいましたか??」
おばあちゃん店長は、やっぱり悲しそうな顔をした。
そして、
「思うところが無かったか、と言われると否定はできないわね。
でも、死んで欲しいとまでは思わなかった。
可愛らしい総長さん、あなたが聞きたいのはそういうことでしょう??」
「……はい」
「正直者ね。それに、素直。
だから、これは貴方にだけ言うわ。
エールちゃんには言わないで」
おばあちゃん店長は、そう前置きをする。
俺は頷いた。
「私はたしかにそう思わなかった。
けれど、私とは違う考えの人間はたしかにいた」
おばあちゃん店長は優しい目をして、俺を見つめ返してくる。
「具体的には、クィンズ君の【神龍の巣】を憎み、潰したい、殺したいって考えてる人はいた。
そうでなければ、あんなことにはならなかったと思うの」
あんなこと、とは、先代達が帰らぬ人となった討伐依頼の事だろう。
俺は、更に尋ねた。
「その時のことも、覚えている限りでいいんで教えてください」
おばあちゃん店長は、微笑んだ。
そして、色々教えてくれた。
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