俺だって、普通に怒ることくらいある 後編
「よぉ、デカ物。
良い物持ってんじゃねーか」
そんなふうに声をかけた俺を見て、その巨躯の魔族はニタリ笑った。
かと思うと、
「ほんとに来やがった!!」
なんて言って、食べかけの死体をポイッと捨てる。
死体は力なく転がった。
「なにやってんだ、あいつは!!」
ミーアの声が背後から聞こえる。
そして、三人がこっちに駆け寄ってくるのも気配でわかった。
それを、俺は魔族を見据えたまま止める。
「ここは、まかせろ」
怒気と殺気を向けたら、三人の足が止まったのがわかった。
けれど、
「で、でも!」
今度はエールが何か言おうとする。
俺は、比較的穏やかに返した。
それでも、声が低くなってしまう。
「二度、言わせるな」
後ろの三人は、それ以上近づいてこないようだ。
よしよし。
こっちの魔族と戦うなんて初めてだからな。
邪魔されたくないんだ。
あと、巻き込んで怪我されたら大変だし。
正直、本気を出しそうで怖いんだ。
「泣かせるねぇ。
コイツらを助けに来たんだろ?
それと、俺はいいから先にいけ~ってお涙頂戴の物語の再現か??」
「は?
何言ってんだお前」
俺は跳んで、魔族の顔の位置まで来ると、横っ面を蹴りつけた。
さすがに吹っ飛びはしなかった。
魔族は、軽く、倒れそうになっただけだ。
「魔族とタイマンなんて、そうそう出来ねぇだろ。
だから邪魔されたくないだけだ」
俺は食い散らかされてる、死体を見た。
尊厳もなにもない扱いを受けている、それを見た。
価値観が違う。
だから、これはこの鬼に言っても無駄だろう。
それ以上は、俺は言葉を続けなかった。
怒りで理性が効かなくなるのを、深呼吸して抑える。
俺は着地した。
「いいねぇ、今のは効いたぜ?
久しぶりだよ、痛ぇって感覚は」
硬ぇな。
まぁ、魔族だもんな。
防御力、攻撃力、その他諸々、その辺に生息してる有象無象の魔物とは違う、か。
「おや、褒められるとは」
なんて、俺は軽口を叩く。
魔族は、近くに置いてあった巨大な棍棒のようなものを手にする。
それをパシパシとやりながら、俺を見た。
「コイツらよりは楽しませてくれそうだな、チビ」
「そっちこそ」
魔族が、棍棒を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
それを避ける。
「!?」
魔族が驚きの表情を浮かべ、すぐにそれが笑みへと変わる。
「いいねぇ、楽しめそうだ!!」
さらに、俺に向かって棍棒が襲ってくる。
それを避けて、避けて、避けまくってかーらーのー。
蹴りっと!
今度はさっきと逆の横っ面を蹴った。
「ちぃっ!」
まさか二発目を食らうとは思っていなかったのだろう。
魔族が、怒りで俺を睨みつける。
「おい、デカ物。
口程にもねぇなぁ??
そんなんで、俺を殺せると思ってんのか??」
魔族の口の端が切れている。
そこを手の甲で拭って、魔族は俺を見た。
「てめぇ、得物も使わずバカにするか?!」
「相棒のことか?
だって、使わなくても、俺お前のこと倒せるもん」
ビキビキビキィっと、魔族の顔が怒りで歪んだ。
「言わせておけば!!」
よし。
怒りに飲まれたらこっちのもんだ。
「そうだ、ひとつ面白いこと教えてやるよ」
怒りで襲いかかってきた魔族へ、俺は言葉を投げる。
自分でもゾッとするほどの、静かな声で言葉を投げる。
「俺、まだスキル使ってねーんだよ」
その意味を、魔族が理解する時間があったかはわからない。
俺はスキル【身体強化】を使用する。
そして、魔族の頭より少し上に跳んで、踵落としを食らわせた。
ここの天井が高くて助かった。
俺の踵落としは、魔族の脳天に直撃する。
そして、骨が砕け、頭を覆っている皮も裂ける。
中から、生命活動に必要な脳みそが飛び出してくる。
勢いで、眼球も飛び出した。
そして、そのまま、魔族は倒れて動かなくなった。
「倒しちゃった」
エールの声が、背後から届く。
俺は、そっちを振り返る。
エールがこちらに駆けてきた。
「すごい!すごいです!!
魔族に一人で勝っちゃうなんて!!
あ、怪我はないですか?」
「とりあえず、大丈夫。
でも、んー、これはビクターの生存も怪しいかな??」
なにしろ、ビクターがここに来て数日が経過している。
この死体の山の中には、それらしい死体は、見たところ無い。
全部食われているなら、見つからなくても仕方ないけど。
「ビクターのこともですが、そもそも、なんでこんなところに魔族がいるんでしょう?」
ラインハルトも考えつつ、そう口にする。
「凶暴化と関係はありそうだけど、あのデカ物が知ってたかどうか」
まぁ、もう倒したから確認は出来ない。
「ただ、あのデカ物が誰かに救助にくる人間のことを聞いていた可能性はあるんだよなぁ。
で、あからさまに通路を塞いでたわけだし」
「君が遭遇した青年も、実験のようなことをしていたという話でしたしね。
繋がりがあるかは分かりませんが、王国内で似た事案が重なるのは、やはり怪しいです」
俺はラインハルトの言葉に、ポリポリ頭をかいた。
「とにかく、進むしかないか」
と、先を急ごうとした俺の肩を、ラインハルトは掴む。
そして、
「相手は魔族です。慎重に行きましょう」
そう念押しされた。
「……わかってるよ」
答えた俺の顔を見て、しかしラインハルトは首を傾げる。
「どうしたんです。
君らしくもない」
「……別に」
俺は知らなかっただけ。
この世界の魔族にとって、人間に対する扱いを知らなさすぎた。
それだけ。
そう、それだけのことでしかない。
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