7 大根を引っこ抜く要領で
「ふんぬっ!」
しかしカバトンの体はピクリとも動かない。
なのでオレは両手でカバトンの手を掴み、それを思いっきり引っ張った。
「ぐぬぬぬぬっ!」
そやけどカバトンの体が路地から抜ける気配はない。
なのでオレはカバトンの手を掴んだまま左右の塀に両足をかけ、
畑の大根を引っこ抜く要領でカバトンの腕を引っ張った!
「うぉおりゃあぁっ!抜けろぉっ!」
しかしなかなかカバトンの体は抜けない!
まるでぶっとい株を引っこ抜くみたいや!
するとカバトンも苦しそうに顔を歪めながら声を上げる。
「ヌでが痛いよヨシオ君!ノれにお腹も苦しい!」
「出産する時の妊婦さんはもっと苦しいんや!それくらいラマーズ呼吸で切り抜けろ!」
我ながらムチャクチャなアドバイスやなとは思うたけど、カバトンはそれを実行に移した。
「ニィニィ、ヌーン。ニィニィ、ヌーン」
そんな呼吸をしたら余計に赤ちゃんが産まれてけぇへん気がしたけど、
それが功を奏したのかして、カバトンの腹が塀の間からスポンと抜けた!
「のわぁっ⁉」
全身全霊の力を込めて引っ張っていたオレは後ろに吹っ飛び、
そのまま背中を地面に打ち付ける!
それだけでもかなりのダメージやったけど、
そんなオレの上にカバトンの巨体がドスゥンとのしかかってきた!
「ぐええぇっっ!」
カバトンの巨体に押しつぶされるオレ!
オレは漬物か!
するとカバトンはそんなオレに頬ずりしながら言った。
「ノわかったよヨシオく~ん。ノく、ニぬかと思った~」
ちなみに今はオレが死にそうになっているので、必死にカバトンに訴えた。
「わ、分かったから!ぐええっ!早くどけ!今度はオレが死ぬ!」
「あ、ノめん」
カバトンはそう言うと、ようやくその巨体をどかしてのっそり立ち上がった。
「ゼハーッ、ゼハーッ。し、死ぬかと思うた・・・・・・・」
圧死の危機を免れたオレは、虫の息で言った。
「ノシオ君大丈夫?」
心配そうに問いかけるカバトンにオレは
「おう、何とかな」
と答えて立ち上がり、路地の奥に落ちていたカバトンの帽子を拾ってカバトンに渡した。
「ホレ、風に飛ばされんように今度はしっかりかぶれよ」
「ナりがとうヨシオ君。ナらだが小さいと、ノういう時便利だよね」
「喧嘩売っとんのかお前は⁉」
「ニ、ニがうよう。ノめたんだよう」
「世間ではそういうのを嫌味って言うんや!」
「ノくは心で思った事をそのまま言っただけなのに・・・・・・」
「尚更傷つくからそういう事言うな!それよりお前、何やねんその腹は?
夏休み前よりでっかくなってるんとちゃうんか?」
そう言ってオレが指さしたカバトンの腹は、確実に夏休み前よりでっぷりと肥えていた。
するとカバトンは頭をかきながら言った。
「ニョっとイメージチェンジを」
「アホか!ただ太っただけやろ!夏休みの間中食っちゃ寝ばっかりしとったんとちゃうんか!」
「ナって僕、ナべ盛りだし・・・・・・」
「盛り過ぎやろ!このままやとお前、完全にメタボになるぞ!」
「え?ノたもち?」
「メタボやメタボ!何でぼたもちと聞き違えんねん⁉ちょっとは食う事から離れろや!」
「ノなか空いたなぁ・・・・・・」
「言うてるケツからこいつは!」
「あ、ノうだヨシオ君。ノかったら今から僕のうちに来ない?
ナすけてくれたお礼にお昼ご飯を御馳走するよ」
「ええ?別にそんな気ぃ遣うてくれんでもええがな」
「ニいからいいから。ノら、ニこう」
カバトンはそう言うと、オレの腕をガシッと掴んで歩きだした。
「お、おいカバトン」
こいつよりガタイがふたまわり以上小さいオレは、
そのままカバトンに引っ張られて行ったのやった。