3 ヨシオはもう何も喋ってはいけない
そして校舎の玄関をくぐって中に入ると、靴箱の所で学級委員のハナミが靴を履き替えていた。
こいつには昨日、オレの夏休みの宿題をかなり手伝ってもらったという恩があるので
(第二巻おまけドラマ参照)、そのお礼をしようと声をかけた。
「よう、おはようさん」
するとハナミは顔を上げ、オレの顔を見るなり『げっ』という顔をした。
ハナミと顔を合わせると、いつもオレの方がそういう顔をするんやけど、今日は何やら様子が違う。
ちなみにハナミの隣にはシンジ君も居るんやけど、
ハナミの奴はそのシンジ君をチラチラ横目で気にしている。
一体何なんやこいつは?
こいつも夏休みに何らかの変化があったんやろうか?
髪型は左右に分けてくくるいつものスタイルやけど。
まあええわ、とりあえずお礼だけは言うとこ。
そう思ったオレは、至って好意的な口調で
「ハナミ、昨日は──────」
宿題を手伝ってくれてありがとうな。
と言おうとしたが、その言葉はハナミの
「わぁーっ!」
という叫び声にかき消された。
「な、何やねんいきなりでっかい声出して!ビックリするやないか!」
オレは思わずそう叫んだが、それに対するハナミの言葉はこうやった。
「うるさーい!あんたはもう何も喋るな!」
「どええっ⁉朝会うて何でいきなりそんな事言われなあかんねん⁉オレはただ昨日の──────」
とオレが言おうとすると、ハナミはまたもや
「わぁーっ!」
と叫びながら、あろう事かオレの頬にビンタをぶちかました!
ぶゎちこぉん!
「ぶっふぅっ⁉」
それをまともに食らったオレは、そのまま床に倒れ込んだ。
ていうか何で⁉
もう何が何やら訳が分からんオレは、ぶたれた頬をさすりながらハナミに問うた。
「な、何で?」
するとハナミは怒り心頭の様子でオレにこう続けた。
「うるさーい!とにかく喋るなって言うたら喋るな!
ええか⁉あんたは今後一切何も喋ったらあかんで⁉」
「何でやねん⁉せめて理由を言え!」
オレはそう言ったが、ハナミが、
「うるさーい!何も喋るなって言うてるやろ!」
と言って再び右手を振り上げるので、
「分かった分かった!もう喋らんから殴らんといてください!」
と言って両手で顔をガードした。
するとハナミは
「分かったらええねん」
と言い、踵を返してシンジ君と一緒に行ってしもうた。
「な、何やねん一体・・・・・・」
顔を引きつらせながら呟くオレ。
そんなオレの肩にポンと手を置き、マサノブは言った。
「ヨシオ、一体何をやらかしたんか知らんけど、後でちゃんとハナミちゃんに謝っとけよ?」
「そやかてオレ、あいつに謝らなあかん事なんかしてないぞ?」
「じゃあ何でハナミちゃんはあんなに怒ってたんや?あの怒り方は尋常やなかったぞ?」
「ま、まあ、そうやけどやな・・・・・・」
やっぱり、昨日オレの宿題をほとんどやらせた上に、
そのお礼が使いかけの消しゴムっちゅうのが気に入らんかったんかな?
でも宿題はあいつが率先して手伝ってくれたし、
お礼の消しゴムだって、あいつがそれでええっちゅうから渡したのに。
ホンマに、女心はよう分からんわ。