1 夏休みの報告会
「ヨシオーッ!来たでー!」
オレが台所で朝飯を食べていると、玄関の方からマサノブの声が聞こえてきた。
「ほら、マサノブ君来てくれたで。ちゃっちゃと食べてちゃっちゃと学校行きや」
お母ちゃんが急かすようにオレに言う。
しかしオレは優雅にみそ汁をすすりながらこう返す。
「ズズゥーッ。そんなに慌てんでも、どうせマサノブやねんから待たしとったらええねん」
「ええ訳ないやろ!いつも迎えに来てくれるし、しかも今日は新学期の初日やねんからさっさと行き!」
「うるさいなぁ。そんなに怒鳴らんでも今から行くがな」
朝飯を食い終えたオレはそう言って立ち上がり、隣の椅子に置いといたランドセルを背負い、
「そいじゃあ行って来るわ」
と言って台所を出た。
そして靴を履いて玄関を出ると、門の所にマサノブが立っていた。
イソモトマサノブ。
隣の家に住むオレと同い年の幼なじみ。
オレよりも少ぉ~しだけ背が高くて男前で女子にモテる、何とも生意気な男や。
家が隣同士やなかったらツレになってないでマッタク。
そんなマサノブと一緒に、オレは庵地小学校へ向かって歩き出した。
「なあヨシオ、神戸はどうやった?カスミちゃんと何か進展あったか?」
歩きながらマサノブが、興味津々(きょうみしんしん)な顔でオレに聞いてくる。
それに対してオレは素っ気なくこう返した。
「まあ、色々大変な事もあったけど楽しかったわ。
ただ、お前が期待するような進展は何もなかったけどな」
「え~?もったいないなぁ。チュウのひとつもせんかったんかいな」
「する訳ないやろ!相手は九歳やぞ⁉」
「恋に歳の差は関係ないよヨシオ君」
「そういう事やなくてやな!オレは年上の女性が好きやねん!カスミは恋愛対象には入らへん!」
「うわぁ、それをカスミちゃんが聞いたら悲しむやろうなぁ」
「何でやねん!カスミかって別にオレの事をそういう風には思うてないわい!」
「そうかなぁ?」
「そうやっちゅうに!それよりお前の方はどうやねん⁉」
「どうって何が?」
「こないだ会うた時に言うてたやろ!女子高生の彼女ができたって!」
「ああ、アミちゃんの事かいな」
「そうや!お前、その人とはどないなってるんや⁉おぉ⁉」
「そりゃあもうラブラブやで?聞かせたろうか?おれとアミちゃんのラブ話」
「う・・・・・・やっぱりええわ。聞くと却ってストレスが溜まりそうやから」
「いや~しかし、女の子と付き合うっちゅうのは楽しい事もある半面、
結構気を遣う事も多いんやで?ホラ、女の子ってデリケートな生き物やろ?」
「デリケートかどうかは知らんけど、訳が分からんというのは分かる」
「だから何やかんや言うても、こうしてお前と一緒に居る時が一番楽しいわ」
マサノブはそう言うと、やにわにオレの肩に手をまわしてくっついてきた。
「何やねんいきなり⁉気持ち悪いやっちゃなぁ!」
「愛してるで、ヨシオ」
「やめんかい!」
とか言いながら歩いているうちに、オレ達は庵地小学校にたどり着いた。