はじめに
〜〜 登場人物紹介 〜〜
先手及び聞き手・最近になってようやく『銀を溶かしても水銀にはならない』事を
知った"目覚めた者"。
後手及び解説・最近の口癖は『ステーキ肉から出る赤い汁、あれ血じゃなくて水に
溶けたタンパク質なんだぜ』……な"偉大なる魂"。
※※ 前提その一 ※※
本稿における『表現の自由』とは、日本国憲法第二十一条『集会、結社及び言
論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない』
……の事を指しているものとする。
また、状況によっては『言論の自由』など別の表現を用いる場合もあるが、表現上の都合であり、同じ意味であると考えて差し支えない。
※※ 前提その二 ※※
本稿において、実在の人物の名前を記載する場合があるが、それらは全て敬称略とさせて頂く。
※※ 前提その二 ※※
個人の趣味嗜好に関する点、個人の感情に起因する点などについては、
『お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな』
……の姿勢を筆者、読者問わず標準のものとする。
上記前提にご納得の上、お読み下さい。
「オレはおこったぞ――――!! 後手――――ッ!!」
「毎度の事だが取りあえず落ち着け先手。……一体どうしたんだ?」
「聞いてくれよ後手! 俺は重大な真実を知ってしまったんだ! 実は、日本人の先祖は古代イスラエル人だったんだよ!」
「"日ユ同祖論"ね。何でそうオカルト方向へ力強く突っ走るんだ君は」
「その説を裏付ける証拠に、"君が代"の歌詞にも"ソーラン節"の歌詞にも、ヘブライ語で神を称えるメッセージが隠されているんだ! これはもう日本とイスラエルは魂で結ばれた兄弟と言っても過言ではないだろう!」
「許容ラインを五〇〇メートルくらいぶっちぎっての過言だよ」
「俺は湧き上がる感動に任せるがまま、この真実をネットの掲示板に書き込んだんだ!
……そうしたら掲示板の奴ら、一体何て言ったと思う? 揃いも揃って『日ユ同祖論ね。オカルトじゃねーか』『単なるこじつけ』『無理やりすぎクソワロタ』
……ってな感じで侮辱しやがるんだ! 許せねぇよなぁ!!」
「ステイクール。ステイクールだ先手」
「これは明白に古代イスラエル人へのヘイトスピーチであると言えるだろう! かくなる上は、何をしてでも奴ら全員から発言の機会を取り上げて卑劣なるヘイトスピーチを阻止し、古代イスラエル人達の人権を守らねばなるまい! そのためにもぜひ君に協力を頼みたいんだ!」
「……まあ、ひとまず事情は理解したが……」
「おお、分かってくれたか友よ!」
「……一応は確認しておこうか。君は"人権を守る"と言いつつ、むしろ"他人の人権を侵害しようとしている"んだが、その行為に対しての自覚はあるのか?」
「……はい?」
「やはり自覚ゼロか。……君が今しがた発した『奴ら全員から発言の機会を取り上げて』……って発言は、"他人に対する人権侵害"を提案している内容なんだぞ。まずそこを認識しておくべきだ」
「ちょい待て!? なぜに俺の発言が人権侵害に当たるんだよ!?」
「その前に尋ねよう。"表現の自由"って知っているか?」
「……? 当たり前じゃん。憲法で認められている、"人は何でも自由に表現していい"ってアレだろ?」
「それでは、そもそも"人権"とは何だ?」
「……改めて言われると答えづらいな。……ええと、人としての権利……とか?」「正確ではないがその通りだ。
整理して言えば、
『人が生まれつき持ち、国家権力によっても侵されない基本的な諸権利(『Wikipedia・人権』より)』
……となる。
こうした『人間が生まれつき持つ諸権利』を、具体的な形で守るために制定されたものが『憲法』と言う訳なんだ。
一体"誰"から守るのか? それは主に"国家"からだ。
他の国民や国家の利益を守るために、国民の自由に制限を課すものが『法律』であり、
国民の権利を守るために、国家の政策、法案に制限を課すものが『憲法』である
……と、ざっくり覚えておけばいい。
もちろん、『"憲法は国家への制限"って事は、国民が国民の権利を侵害する分には問題ないって事だな!』……なんて訳ではないので注意が必要だ。
それはともかくとして、日本国憲法第十一条にこうある。
『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる(衆議院・日本国憲法より。読みやすくするため、一部改変)』
……と」
「はあ……」
「そして、日本国憲法において定められているこの『基本的人権』の中には、『表現の自由』も含まれている。
具体的には第二十一条、
『集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない』
……と言う風に」
「ははあ……」
「……つまり、"表現の自由"は立派な"人権"の一つであり、君が言った『奴ら全員から発言の機会を取り上げて』……と言う"他者から表現の自由を取り上げる"旨の発言は、れっきとした"人権侵害"に当たるんだ。
……君は人権を守ると言いつつ、憲法で保護されている他人の人権を取り上げる提案をしているんだぞ。俺は明らかに矛盾した言動だと思うんだが、その辺りどう考えているんだ?」
「」
「その様子だと考えなしか。……まあ、ただ単に知らなかっただけなんだし、限られたごく狭い範囲内での発言だ。何より、実際に行動へ移したって訳じゃないんだから、そう気にするな。
それに、当然君にだって"表現の自由"は認められている。君が『日ユ同祖論』を唱えようが、『古代宇宙飛行士説』を唱えようが、それは君の自由なんだ。
……せっかくの機会だ。次回から本格的に"表現の自由"について解説をしていこうか」
「そ……そうだな! この機会に、古代地球文明は宇宙から飛来した異星人達に授けられたって事を声
高に訴えなければな!」
「……君、そっちもカバーしてたのか……」
お付き合いいただきありがとうございます。
よろしければ、広告下部のブックマーク及びポイント評価(☆マーク)を
お願いいたします。
作者の苦労が報われます。
よろしければこちらもお願いします。
対話形式で考察する『誤謬・詭弁とその対処方法』(全25話&参考リンク)
https://ncode.syosetu.com/n4186fo/