(株)飛田印刷工場
俺の名前は 飛田ガイガー。35歳。おっさんだ。
俺は父親の経営する印刷工場の社員であり、顧問弁護士だ。
しかし、顧問弁護士など名ばかりで、この工場の案件なんて扱ったことがない。
普段は工場内で他の社員と一緒に通常業務を行っている。
俺の務める(株)飛田印刷工場 はとある地方にある中規模企業で、昭和58年に創業し、現在社員47名。
太い得意先をいくつも抱えているため、この前の不況もしっかり乗り切った。
不況を乗り切ったのは今回が初めてではない。
地方の中小企業なんて風が吹けば簡単に吹き飛んでしまう。
35年以上も辺鄙な田舎の小さな工場が続けてこれたのは、経営者たる父・飛田白次郎が創業から長年かけてお客様たちと信用を築き上げてきた証拠だ。
また、そういった不況の中で、給料カットや5年以上もボーナスが出ない時期もあった中で、社員がついてきてくれた。それも白次郎の人望であろう。
それに、この工場には、何人ものベテランさんがいる。業界内で、技術と品質では少し名の知れた会社でやっていけてるのは、彼らがしっかりやってくれているおかげである。
その証として昨年、その技術を称えた黄綬褒章を天皇陛下より賜った。
真面目に誠実に仕事をし、認められてきた。俺にとって自慢の父であり、素晴らしい工場だと思う。
しかし、良い面ばかりではない。
儲けの少ない地方の中小にとっては設備投資なんて簡単にできるわけではない。
フルオートメーション、AI化が叫ばれている昨今、そんなものは夢のお話で、基本は手作業である。
時代遅れもその程度で済めばいいが、田舎の工場である。もちろん、少子高齢化のあおりを受け、社員の平均年齢は45歳を超えている。若者や優秀な人は大手企業や都市部に流れるため、後続となる人材も入社はしない。
社員の年齢が高いということは、テクノロジーにも疎くなっていく。
チャットツールや動画アプリなど子どものおもちゃくらいの感覚なのだろう。良くてもPCメール、休憩前になると電話が飛び交う。
このままでいいのか、と思うのが俺の本音である。
そんなある日、この工場にも変化の時が訪れたのだった。