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午後6時。夕方のニュースです。


本日、午後3時に東京都世田谷区の住宅街で男性が死体で発見されました。


遺体は、内臓が全て綺麗にえぐり取られ、室内には奇妙な模様が血で描かれていたとの事です。


警察はテロリスト集団「クレアトール」の犯行と断定し、連続殺人事件として捜査を始めています。


テロリスト集団「クレアトール」の犯行を受けて政府は関東地方に戒厳令を施行しています。


該当の地域にお住まいの方は午後10時以降の外出をしないでください。


繰り返します....


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ガタガタと揺れ、風を切る電車。


小さな駅を通り過ぎてさらに加速する。


電車の勢いに反して車内は閑散としている。


その中で青年はぽつんと座り、スマホでニュースを視聴していた。


大学生だろうか。


青年はジーパンにTシャツといったラフな格好で不格好な大きなリュックを前に抱え、リュックに顎をのせスマホを持っている。


真面目な顔でニュースを見るには不似合なほど髪はぎらつく金に綺麗に染められており、耳にはピアスがいくつもあった。




ふっとため息をつくと青年はニュースが流れているスマホの画面をそのまま切り、乱雑にリュックに投げ込む。


目頭を押さえ、少し伸びをして窓の外をふいに見ると外はどんよりとした曇から雨がぽつぽつと降っている。


まるで暗いニュースを映し出しているようだった。



最近のニュース番組はこの内容ばかりだった。


物騒な世の中になったな


青年はそう呑気に考えながらバスの揺れに身を任せ、瞼を閉じた。





「お客さん、終点ですよ、お客さん!」


乱暴に起こされ目を開けると、渋々目を見開くとそこは見慣れた駅だった。


起こしてくれた駅員に感謝を伝え、よだれを拭き慌てて電車を出ると外は真っ暗だった。


いつの間にか雨が本降りになったようだ。


戒厳令が出ているからかまだ19時なのに人気は少なく、雨音だけが駅構内に響く。


「うわ、傘を持ってない日に限って雨が強く降るんだよなあ。朝、母さんと喧嘩してないで素直に傘を持ってくればよかった」


そう呟くと青年は今日の朝の出来事を思い出す。


たわいのない一言からの喧嘩だった。


明らかに自分が悪いのは分かっているが、意地を張り謝罪が出来ていなかった。


出かける前に雨が降るからと傘を持ってきた手を振り払ってしまったことがよぎり罪悪感を感じる。


大学生にもなってなにをやってるんだろうか、自分は。


自分の幼稚な行いを反省し、帰宅したら謝ろうと青年は決意した。




改札を出るとザーザー振りの中、チカチカと蛍光灯が異様に光っているのが見える。


青年は見慣れた帰路のはずなのに悪寒を感じた。


妙に嫌な予感がして慌てて駅を飛び出す。


すぐ髪も服もぐしょぐしょになり、頬に雨粒が当たる。


ひんやりとした水が全身を伝い、頭が冷えてくる。


頭が冷えれば冷静になれるはずなのに、それでも何故か嫌な感じが払拭できず、なにも考えずにひたすら走った。





家に着くと、窓から光が漏れていた。


いつもの光景にほっとし、足を緩める。


排気口からはカレーの匂いがする。


今日の夜ご飯は自分の好物で口角が上がりながら玄関を開ける。


「母さん、ただいまー」


家に入ると、すぐ異変に気が付いた。


普段なら返ってくる母の返答がない。


母のせわしない食事の準備の音が聞こえない。


そしてなにより、この異臭はなんだ。


カレーの匂いにまざって匂うむせ返るような"鉄の匂い"はなんだ。




まさか自分の嫌な予感が的中しているわけがない。


自然と足が速くなる。


勢いよくリビングの扉を開ける。




すると赤が目に入った。




「ぁ、、、う、うそだ…ちがう、なんで、、」



「あああああああああああああああああああああああ」




血の海の真ん中で臓器を綺麗に抜かれた母親が横たわっていた。





どれくらい時間が経っただろうか。


青年は現実を受け止められず、ふらふらと母親に近づくと血で汚れるのもお構いなしに膝から崩れ落ち、吐いた。


吐いて、吐いて、それでもこの匂いは纏わりついて、涙がボロボロと出る。


悲しくて、信じられなくて、犯人が憎くて、助けを求めたくて、誰かにすがりたかった。


いろんな感情が同時に頭の中を乗っ取ってぐしゃぐしゃにしていく。もう、何も考えられなかった。


青年は動物の様に泣いて、叫んで、いつのまにか声が枯れてうめく事しか出来なくなった。


それでも青年は母親の側を離れられなくて側にいた。




ピチピチと外で小鳥が鳴く。気がついたら雨はやみ、太陽の光がさしていた。


寝不足で精神的にも身体的にも疲労困憊な青年は母親を発見したときのまま、母親にすがりつき呆然としていた。




うつろな目で母を見ていると、


ピンポーン


青年の最悪な気分とは裏腹に明るいチャイムのふいに音が鳴った。


「ぁ…」


ふらふらと重い足取りで玄関に向かい、涙を拭って扉を開く。何かをしなければ正気を保てなかった。


すると目の前には綺麗な女性が立っていた。


出会い頭、彼女はこういった。


「ねえ君、復讐したくない?」


この人は何を言ってるのだろうか。


一晩中泣き叫び意識が朦朧としている青年には理解が追いつかなかった。


そして、人に会ったことで緊張が解けたのだろう。


女性に倒れ込むようにして意識を失った。



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