料理
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい。急に帰ってくるなんて珍しいわね。」
「ちょっと疲れちゃって。明日お休みだし、久々に実家帰ろうかなぁって、仕事終わりに思い立ったから、そのまま来ちゃった。迷惑だったかな?」
「あなたの実家なんだから、いつでも帰ってきていいのよ。ところで、疲れは大丈夫なの?」
「とりあえずは。今は何よりお腹空いた。」
「いつまでも玄関で話すのも変ね。夕飯できてるから、手洗ったらリビングにね。お父さんも待ってるし早くご飯にしましょう。」
「お母さんのご飯久しぶりだ。美味しい。」
「そう言ってもらえると、より一層、作り甲斐があるわね。」
「痩せ細ってないから大丈夫だとは思うけど、ちゃんと飯食ってるか?」
「ふふふ、お父さん言い方。自炊はほとんどしてないけど、一応朝昼晩食べてるよ。」
「あら、あなた料理出来たはずよね?」
「振舞う相手もいないし、自分だけだと思うと作るの面倒で。」
「働いてるし、日々疲れてると思うけど、たまには自炊した方がいいわよ?」
「女子力になるし?」
「いや、そこは女子力じゃなくて、生活力よ。料理することに性別は関係ないし、誰だって出来るに越したことはないって。たまには自分に振舞ってあげても良いんじゃないかしら。それに何かあったら、いつでも外で料理が提供されるとも言い切れないのだし。」
「なるほどねぇ。生活力かぁ。比較的元気な日は腕慣らしに作ってみようかな!」
「美味しくできたり、いいレシピがあったら、私にも教えてね。」
「お母さんのご飯には敵わないかもよ?」
「ふふ、そこはきっと馴染みの問題ね。」
「じゃあ、たまに帰ってくるから、お母さんのレシピも教えてね。」
「わかった。約束ね。」
「父さんだけ、蚊帳の外なんだが。」
「お父さんは…、あれだ。お母さんの味の再現度合いを確認する係と、お父さんが唯一作れる味噌汁の担当で。」
「…喜んで引き受けよう。」
食べ慣れた味はホッとして、とても美味しく感じられる。ミルキーじゃなくても母の味。
そして、いつからか普通に使われ始めた「女子力」という言葉。そんなものは何の基準にもならないし、そこに囚われてはいけない。