竜の魔女
「あのスフィアドラゴンが認めた獣人…か…」
私が驚いて後ろを振り返るとそこには依頼人の女性にそっくりな少女がいた。
少女は私の目を見て言う。
「先程は無礼な振る舞いをしてすまなかったね。私は竜の魔女…名はドライア。スフィアドラゴンは自分の認めた相手にしか卵を渡さない。だから、スフィアドラゴンの卵を持ってくれば、竜の魔女である私の後継者に選ぶつもりだった。これはその試練と言うわけさ。」
ドライアは淡々とそう言う。
キリアは複雑そうな声で言う。
「全く…貴様の戯れに勝手に我を利用しよって…」
「おや?君、ずいぶんと可愛らしい姿になったね。」
「ふん。我はこの姿は好かぬ。見た目が弱そうだしな。」
「良いんじゃない?その姿なら見た目だけでなく、君の中身も見てもらえるのだからさ。」
ドライアとキリアには確かな絆があるように見受けられた。
ドライアはキリアの頭を撫でて言う。
「にしても、君がわざわざヒトと…それも獣人と契約するとはね。」
「ふん。我とていつまでも子供では無いのだ。」
私は少し気になってドライアに言う。
「あの…ドライアさんはキリアとどう言う関係だったのですか?」
「そうだねぇ…」
ドライアはそういうと少しだけ楽しそうに微笑む。
「可愛くて頼れるお姉ちゃんかな。」
キリアがキッパリと言う。
「凶暴で恐ろしいメスゴリラだな。」
もちろん、この後、ドライアにかなりシバかれていた。
キリアはピクピクと痙攣していた。
「可愛そうですけど、これは自業自得ですね…」
私はドライアに今後はどうするのかと聞いてみる。
「ん?鍛錬とかあるんじゃないかって事かな?だったら、この先は自分の力を信じて冒険しなさいとしか言えないかな。私、魔女だけど、魔法はからっきしだからね。あ、でも、少し大人の姿になる魔法は使えるんだった。」
そう言って、ドライアはガハガハと元気に笑うが少しだけ悲しそうな気がした。
「魔法が使えないのに魔女なんですか…」
ドライアは真面目な顔をして言う。
「うん。でも、竜の魔女の名に恥じない魔力の保有量はあるし、契約したドラゴンの力を最大限に引き出して限界を超えた力を与えれるのも、私が竜の魔女と呼ばれる最大の理由なんだ。なんでも、私の一族に稀に現れる"稀子"ってやつの能力みたいでね。魔法はほとんど使えないけど、ドラゴンの扱いにおいては右に出る者は居ないんだ。だから、この子…キリアちゃんの調子が悪そうな時は私のところに連れてきてね。ドラゴンの事なら、だいたい私が解決出来るから!」
いつの間にか、意識を取り戻したキリアが少しだけ不安そうに言う。
「今の我は竜人ってやつになると思うのだが、竜の魔女はそれも専門内なのか?」
ドライアは少しだけ考えて言う。
「そうだねぇ…まあ、野良の火の竜人を観た事があるから、多分大丈夫かな。イケメンでハンサムで竜人なのに人間を見下したりしないし、すっごく礼儀正しくて、優しい子だったなぁ…」
ドライアがもの凄くだらしない顔になる。
キリアがかなり顔を引きつらせながら言う。
「今、すっごく気色悪い顔になってるぞ…」
ドライアにまたキリアがシバかれていた。
「…キリアさん、大丈夫ですか?」
キリアがピクピクと痙攣していた。
ドライアはニコッと微笑んで言う。
「大丈夫よ。瀕死になる程度に力加減はしてるから!」
「そ、そうですか…」
私はこの人だけは怒らせないようにしようとひっそり誓った。
ドライアは見かけには華奢な少女だが、かなり力持ちみたいだ。
なんでも一番初めに契約したドラゴンの身体能力をそのまま継承しているからなんだとか。
それ故に見た目は若いがかなり歳をとっているんだとか。
1000歳から数えるのは辞めたらしいけど、見た目的には14歳程度じゃないかと思う。
ギルドカードで見たけど、今の私が12歳みたいだし…
ドライアは小さく欠伸をして言う。
「まあ、私の依頼はちゃんと達成してくれたから、後でギルドに報告に来てよ。きっと、私のお墨付きだから、パーティの参加要請も殺到するだろうし!」
ドライアはそう言うとスタスタと歩いて帰り始める。
キリアがボロボロの状態で立ち上がりながら言う。
「いてて…あのメスゴリラめ…少しは加減というものをすれば良いものを…全く…」
「キリアさん、あまりそのように仰ってはいけませんよ。また怒られてしまいますからね。」
「わかっておるわい…」
キリアはやれやれと言いたげにため息をついてドライアの向かった方へと歩き出す。
「ご主人、ボクたちも行こう?」
「そうですね…行きましょうか。」
私とマルモフものんびりと帰り道を歩いて帰る。