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対等契約

私は宿の部屋に入ってベットに転がりながら言う。


「はぁ…今日も一日中動いて、やっと宿に入れて頂けました…」


私、見習い冒険者のリッカは転生者なのだが、よくあるチート能力も無いまま転生したらしい…

私が何故転生してしまったのか…

遡る事、かなり前の話である…




騒がしい大通りに季節はずれの長袖のブレザーを着た少女が歩いていた。


彼女の名前は高橋(タカハシ)結花(ユイカ)


とある私立高校に通っており、成績優秀で容姿端麗であったが、彼女は学校で酷い虐めを受けていた。

校内で使う上履きはトイレに捨てられ、上履きを取りにトイレに行くとトイレの水をかけられて、集団で殴られ、蹴られ、教室に入れば陰口を言われ、椅子はチョークの粉まみれ、机には一輪の花が入った瓶を置かれている。

教師ですら、彼女の事を居ない様に扱い、無視されていた。

彼女にとってはそれはいつもの事であり、既に見慣れた日常だった。


それだけなら、まだ彼女にとってはまだ良かっただろう…


彼女は家でも家族からの暴力や罵倒、食事の禁止や酷い時は家に帰る事すら許してもらえなかった。

彼女がご飯を食べようとしただけで、父から顔が腫れ上がるほど殴られたりもした。

そんな生活を当たり前の様に彼女は過ごしていた。


帰るのが遅いと母や兄に蹴られて殴られて、バカだアホだゴミだと罵倒される。

逆に帰るのが早過ぎても兄に蹴られ殴られて、血まみれになる事もあった。

風邪を引いて咳をすれば姉に顔をビンタされ、血を吐くまで鳩尾を何度も殴られた。

それすら、彼女にとっては当たり前の日常だったのだ。

痛みで体が思う様に動かない日もあったが、そんな日でも彼女は暴力を日々受けていた。

彼女は体の傷を隠す為に長袖のブレザーを常に着ていた。

夏の暑くて倒れそうな日も変わらずブレザーを着ていた。

その事についてだけは誰も何も言わなかったし、何もしてこなかったからである。

そんな彼女が18の誕生日を迎えた日である…

5月18日の午前0時、彼女は突然、姉に「私が三浪しても大学入試に落ちたのはお前のせいだ」と言われ、怒った母によって家から追い出されて、薄い寝間着のまま外を歩いていた。

幸いにも、自分で買ったスマホが無事だったのは奇跡と言えるであろうか…

真横からピーッ!と言う車のクラクションの音が聞こえ振り返るが、視界が眩しかっただけだった。




ここまでは私も覚えていた。

その後に何があったかは覚えてないが、気がついたら私は見習として、この世界で冒険者をしていた。

私は冒険者になっていた事より、体に痛みも無く、痣も傷も無くなっていた事が何より驚きだった。

そして、誰も私を殴らない事にさらに驚いた。


これが私の転生するまでの流れである。

今は普通の人間の姿では無くて、人間と同じような容姿に猫耳としなやかな猫の尻尾を足した種族、ニャルスターと呼ばれる獣人種族だった。

け〇のフレ〇ズのスナ〇コみたいな見た目と言ったら、想像がしやすいだろう。

そんな種族だからこそ感じる悩みもあったが、今はさほど気にならないかな。


「ここに来てから随分経ちますけど、未だに何故ここに来たのか分からないんですよね…わかっているのは私はリッカでニャルスターと言う種族である事に加えて、この世界では役に立たないとされる呪言が使える事…そして、この世界の言葉と文字を日本語として理解し、私に伝える意思があれば私の日本語が勝手にこの世界の言葉として翻訳されて口から出る事くらいですし…」


私はベットに転がりながら、自分が元の世界で持っていたものと同じスマホを見る。

その中から呪術再転と書いてあるアプリを開く。


「この謎のアプリのおかげで私は日本語で呪言が使えるわけですけど、一体誰がこんなものを作ったのでしょうか…」


私はホームボタンでスマホをホーム画面に戻して、スマホの電池残量を見ながら、1つ気がついた事があった。


「そう言えば、ここに来てからかなり経ちますが、電池残量は100%のままですね…一体、いつまで持つのでしょうか…」


私は世界誌と言うアプリを開く。

このアプリは説明書を読む限りだと、世界中の人々の今を見れるらしい…

私はイヌのフレ〇ズみたいな人の顔をタップする。

動画がすぐに始まる。

その人が画面に映し出される。


「この人、こんなに細くて小さいのに自分の背丈よりも大きな剣を軽々と振ってる…」


捻ればすぐに折れそうで潰れそうななほど華奢な見た目だが、その両手には自分の背丈よりも倍ほどの長さの細い剣を片手に4本ずつの両手合わせて8本も持っていた。

それぞれ色合いも長さも違う剣をまるで自分の手足の様に器用に扱いながら、美しい剣技を振るっていた。

かなり激しく動いているが、表情は落ち着いており、息も荒くなるどころか肩で息をする事すら無いのだ。


「凄いなぁ…こんな人が仲間なら心強いんだけどなぁ…」


私はスマホの時間が午前2時を示していることに気がついて、スマホをホームに戻し、軽く電源ボタンを押してスリープ状態にして眠りにつく。




翌朝、私は6時20分に起きて、冒険者ギルドに依頼を受けに行く用意をする。


「朝は一昨日の依頼で貰ったリンゴみたいな奴の残りを食べれば良いですね。」


私は少しだけ残っているリンゴみたいな真っ赤な果実を食べる。


本音を言えば、まだお腹はペコペコだが、食料を買うお金も宿のご飯を食べるお金も無いので、これで我慢するしかないのだ。


私はバッグの中の食料の残りを見る。


「うーん…2日くらい野宿して、食費を確保するしかないですね。」


私は宿を出て歩いてすぐの場所にあるギルドに入り、掲示板を見る。


「今日の依頼は…」


【難易度★2 ゴブリンを3体倒す 報酬:300G(ガルド)

【難易度★2 ポイズンサーペントを1体倒す 報酬:450G】


「うーん…今日は★1クエストは無いのでしょうか…」


そんな事を呟きながら依頼書を見ていると報酬額が凄いものを見つけた。


「難易度★1で56000Gですか?!」


思わず叫んでしまった為、近くに居た冒険者に睨まれてしまったので軽く頭を下げて謝っておく。


【難易度★1 内容は依頼者に確認してください。 報酬:56000G ★10アイテム:ゴールデンダイヤ10個 ★10武器】


私はこの依頼を受付に持って行く…

受付係のお姉さんが若干引きつった笑顔で言う。


「リッカさん、ほんとにこの依頼を受けられるんですか?」

「はい!受けます!だって、★1でこんなに報酬額が大きなものって見た事ありませんし、やるしかないですよ!」

「わ、わかりました…では、確かに承りましたので…」


いつもは見せない私の元気さに隣の受付のお兄さんも引いていたが私には関係ない。

だって、56000Gだよ!56000G!

いつもやってるお使いみたいなクエストで一日50Gくらいだから、それの1120倍だもん!

ゴールデンダイヤも凄く貴重な物だから、小さな物でも1個で1000万Gくらいの値がつくと思うし、やるしかないよ!


私は意気揚々と地図を持って依頼人の元へと行く。


「ふんふん♪ふふん♪ふんふーん♪ふふーん♪今夜は美味しいお肉を食べちゃうぞ〜♪」


そんな鼻歌を歌いながら、私は依頼人の住んでいる家の木の扉をコンコンと叩く。

中から、若い女性が出てくる。


「あんた、誰?」


ぶっきらぼうに女性が言う。


「私、ギルドの依頼書を見てやって来ました!リッカと言う者です!まだまだ新人ですが、よろしくお願いします!」


私は丁寧にお辞儀をして言う。


「あっそ。じゃあ、あの山の上の巣から1個で良いから、卵を取ってきてよ。じゃ、頼んだから。」


女性はそれだけを言うとさっさと家の中に入って、バタン!と強く扉を閉める。


「はぁ…私、何か悪い事でもしたんですかねぇ…」


私は地図を見ながら、街の外へ出る。


「初めての街の外です。風が心地よくて良い天気ですね!」


私はスマホで周囲の状況を確認する。

どういうわけか、このスマホは地図にもなるレーダーアプリも使えるのだ。

周囲に敵が居たら、赤いアイコンで教えてくれるみたい。

青いアイコンは目的のアイテムがある時のアイコンで、黄色アイコンが人や動物のアイコン、緑アイコンが通常のアイテムアイコンって事みたいだ。

まあ、さすがに街中では紙の地図を使うけどね。


私は赤いアイコンの近くを通らない様にしながら、散策をする。


「うーん…スマホを見ながら歩いてるけど、目的のものは見つからないし、山の上のどこにあるんでしょう…」


(ガサガサッ!)


「ひゃっ!」


私は突然の物音に驚いて音のした方を振り向く。


「くう〜ん?」


まるで秋田犬とうさぎを合わせたかのようなもふもふで長い耳の凛々しい顔つきの動物が不思議そうにこっちを見ていた。


「犬ですか…びっくりしましたよ…」


私はそのもふもふな犬のようなうさぎ…いや、うさぎのような犬?


「うーん…丸いし、もふもふしてるから、マルモフって呼びましょうか…」


マルモフは驚いた顔をしていたが、すぐに「わふっ!」と返事をして私の元に飛びついてきた。


「わあっ?!危ないですから、急に飛びつかないでください〜!」

「くぅん…」


私が驚いて強くそう言うとマルモフはまるでごめんなさいと言っているかのように耳を垂れる。

心做しか表情も少し申し訳なさそうだった。


「ごめんなさい…ボク、初めてヒトと契約したから、嬉しくてつい飛びついちゃいました…」


私にはマルモフが喋ったように見えて驚いているとマルモフが不思議そうに首を傾げる。


「あれ?ご主人、獣人なのにボクの声聞こえてないのかな…」


間違いない!

今度こそ、マルモフが喋った!


「貴方、人の言葉を喋れたんですか?!」


私が驚いているとマルモフはキョトンとした顔で言う。


「ん?ボクの事…なのかな…」


私はマルモフの顔を見てもう一度言う。


「マルモフさん、貴方の事ですよ!」

「うわぁぁぁぁ!ご主人、ボクの言葉理解出来たの?!」


マルモフは驚いたように耳をピーンと立てながら言う。


「いや、理解出来るも何も…普通に人間の言葉を話してるじゃないですか…」


私がそう言うとマルモフは不思議そうに首を傾げて言う。


「え?ボクにはそんな力は無いよ?ご主人は冗談が好きなんだね!」

「え?そうなんですか?」


私のスマホのアプリの恩恵かな?

試しにスマホを開いて、アプリの翻訳履歴を見る。

しかし、そこにはマルモフの鳴き声しか入っておらず、翻訳された結果は犬の声とかそんなものだった。


「あれ?これのおかげじゃないんですか…」


マルモフが不思議そうに首を傾げて言う。


「ご主人、その面白そうな板はなあに?ボクにも見せてよ!」


私はマルモフにスマホを見せて言う。


「これはスマホって機械ですよ。」

「スマホ?機械?何だか、よくわからないけど、凄そうだね!」


マルモフはまるで自分の事の様に嬉しそうに目を細める。

「そう言えば…」と私が言うとマルモフがどうしたの?と言いたげに私の顔を見る。


「さっき、マルモフは私がマルモフって呼んだ時に契約がどうとかって言ってたと思うんですけど…」


マルモフは不思議そうに首を傾げて言う。


「んーとね…ボクたち魔物はヒトから固有名詞をつけてもらって、ボクたちがそれを受け入れたら、契約が成立するように神様が定めてるんだよ。ちなみにボクとご主人の間にはボクがご主人のサポートをする事とボクがご主人をご主人と呼ぶ契約になってるんだ。」

「そうだったんですね…軽率に名前をつけてしまってごめんなさい…」


私がそう言うとマルモフは不思議そうに首を傾げて言う。


「どうしてご主人が謝るの?」

「だって、私は貴方が魔物で魔物に名付けるって事の意味を知らずに軽率に名前をつけてしまったんです…ちゃんと育ててあげられるお金も無いのに…」


マルモフはなるほどと納得した様子で言う。


「それなら、大丈夫だよ!ボクたちは契約したら、契約者の魔力を貰って生きる様になるんだ。だから、自分の魔力より強い魔物とヒトは契約出来ないんだ。もちろん、例外はあるんだけど、ボクはそれに当てはまらない種族だから食べ物のことは心配いらないよ!」


マルモフはそう言うと突然パチパチと音を立てながら、凄まじい電撃を私の後ろの大きな岩にぶつけて粉々にする。


「ボクは雷属性の攻撃が得意なんだよ!今のはご主人にも分かりやすくする為に弱い力で電撃を当ててみたんだけど、どうかな?」


マルモフは嬉しそうに私の顔を見て言う。


「マルモフって、可愛い見かけによらず凄く強いんですねぇ…」

「えっへん!ボクたち、ライデンはあの上位ドラゴン族のブレイズドラゴンも軽々と倒しちゃう種族だからね!ボクはその中でも一番強いライデンなんだよ。でも、大きくなったら、もっと強いライガンって種族に変異出来るんだ!」


マルモフは誇らしげに私の顔を見て言う。


「そうなんですね!…とは言っても、私は初めて街の外に出たので、よくわからないんですけどね。」


マルモフはそれを聞いた途端、ガーン!って言う効果音が流れそうなほどショックを受けた顔をしていた。

しかし、すぐにやる気のある顔をして言う。


「それなら、この先にスフィアドラゴンの巣があるから、ボクの力を見せてあげるよ!」


マルモフはそう言うと私が目指している山の方へと駆けていく。

私は慌てて、その後を追いかける。

しばらく、森の中を歩くとかなり開けた場所に出る。

マルモフは待ってたよと言わんがばかりに耳を立てる。


「や、やっと…追いつきました…」


私が肩で息をしながら言うとマルモフは辺りを警戒する様に見回しながら言う。


「ご主人、スフィアドラゴンがこっちに来てるよ!ボクの力、よく見ててね!」

「え?ちょ…」


(ギャオオオオオオオオオ!)


そんな大きな雄叫びをあげながら、巨大な氷の鱗を纏ったドラゴンが氷の塊を降らせながら降りてくる。


「うわぁ…最悪じゃないですか…」


私がそんな感じで絶望しているとマルモフが威勢よく言う。


「やい!スフィアドラゴン!お前の相手はこのボクだ!かかってこい!」


ドラゴンはマルモフを見て言う。


「ふん。貴様の様なちんちくりんがワシの相手じゃと?笑わせてくれるわ!」


ドラゴンが大きく息を吸いこむと、ドラゴンの口から冷気が出てくるのが見える。


「うわぁ…ヤバそうだなぁ…"私が火属性の魔法を使える"と良かったんだけどなぁ…」


ドラゴンが息を吐き出す。

マルモフは体に見合わない力強さで地を蹴って空中へと逃げる。


終わった…

私の人生が呆気なく終わった…


私はせめて痛みを感じずに死にたいと"祈りを捧げた"。


『汝、(ホムラ)を望むか?ならば、我が神炎(シンエン)をさずけようぞ。』


そんな声が聞こえた気がした。

私は死を覚悟して目を閉じる。


「…あれ?寒くない…」


私はいつまでたっても冷気が来ないので恐る恐る目を開ける。


「な、何これぇ?!」


私の体を守るように炎の鎧が出来ていた。

マルモフから慌てふためくような声が聞こえる。


「ご主人が燃えてる?!助けなきゃっ!でも、あのドラゴンもやっつけなきゃいけないし…どうしよう!どうしよう!」


ドラゴンが驚いた様に言う。


「バカな?!我のブレスが効いておらぬだと!獣人程度の魔力で我のブレスが防げるわけが無いはず!」


私自身もよくわからないけど、これなら私も戦えるかもっ!


私は一歩ドラゴンの方に足を出す。


「すみません。ドラゴンのブレスって、この程度なんですか?そよ風にもなりませんけど…」


先程の口ぶりだとやつはブレス攻撃に自信があるんだろう。

そして、獣人種族は魔力が弱い、もしくは正しく使えない可能性もある。

おそらく、これが先程のやつの口から出た言葉の真意だろう。


ドラゴンは激高して突撃してくるかと思われたが、一歩後ろに下がって言う。


「我のブレスをそよ風にもならんだと…?!こやつ、一体何者なんだ…」


私がまた一歩足を出すとドラゴンも一歩後ろに下がる。

マルモフは私の炎は大丈夫だと察したらしく、緊張した様子でその様子を見ていた。

ドラゴンも顔をこわばらせながら私をじっと見る。

私はゆっくりとドラゴンの方に歩き始める。

ドラゴンはじっと私を見て言う。


「の、のう…お前さん、我と取引をしないか?」


私はドラゴンの足元でピタッと止まって言う。


「私が応えれるものであるなら、その取引に応じましょう。」

「お、応じれない場合はどうなるんだ?」


私は自然と出た笑顔で言う。


「さあ?ドラゴンは調理した事はありませんし…」


ドラゴンは本能的にこいつはヤバいと言う顔をしていた。

すぐにでも逃げなければ自分の身が危ない事もわかっていたが、逃げたところで死ぬ事には変わりがないと悟る。


「我と契約を結んでくれ。条件は我の命を保証する事だ。どうだ?悪い話ではないだろう?」


私は一歩前に出てドラゴンの右足に触れる。

ドラゴンの心臓が激しく鼓動するのが手に取る様にわかった。


「では、こちらからも貴方と私が契約するにあたっての条件を2つ言います。」


ドラゴンが唾を飲んだような気がした。


「まず一つ目、私は人の街で暮らしてます。なので、貴方にも人の暮らしに馴染んでもらいます。次に二つ目、私の命令には従う事です。これは他の人とのトラブルを避けるためです。この二つが守れるならば、契約いたします。どうしますか?」


ドラゴンは少しだけ嫌そうな顔をしていたが、背に腹はかえられぬと言うような声で言う。


「承知した…」


ドラゴンは三歩ほど後ろに下がると頭を屈ませて、私の前にさしだす。


「では、貴方の名前はキリアです。そういうわけですので、これからもよろしくお願いしますね。」


私はドラゴンの頭を撫でる。

ドラゴンは静かに目を閉じる。

その瞬間、ドラゴンから眩い光が発せられて、姿が変わる。


「わ、我の体が人間みたいになったぞ?!どういう事だ…!」


輝く様な水色の長い髪に可愛らしい少女の顔、背中には姿が変わる前と同じ大きく立派で美しい氷の翼、そして、しなやかでたくましい尻尾が揺れていた。


「貴方、そう言う趣味があったのですか?」


全裸の彼女に私は呆れた素振りを見せながら言う。

キリアは焦った様子で言う。


「ち、違うぞ!我はこんな姿は望んで無いぞ!我だって、どうしてこうなったのかわからないんだし!」


マルモフが楽しそうに言う。


「アハハ!キリア、人間さんみたいになっちゃったね!」


キリアは若干怒ったようにマルモフに言う。


「えぇい!野良犬風情が喧しいわっ!」


マルモフも負けじと言う。


「ふふ〜ん!ボクの方が先にご主人と契約したんだから、ボクの方が先輩だし、野良犬じゃなくて、ライデンだもんね!」

「は?お前も"アレ"と契約してんの?」


私はキリアからの扱いに苦笑しながら言う。


「その時は私も知らずに名前をつけちゃったんですよね。後々、凄い子だと知って驚きましたけど…」

「…お前、バカなのか?」

「失礼なっ!これでも頭は良いんですからねっ!」

「ふーん…そうは見えんがな。」


キリアはそんな事を言いながら、体を見て納得の行かない様子で言う。


「しかし、何故我だけこの様な姿になったのだ…」


マルモフが大欠伸をしながら言う。


「そう言えば、昔、人間さんに聞いた事なんだけど、ボクたちライデンは人との繋がりが深いから契約しても姿は変わらない事が多いけど、他の種族は妖精種と一部の例外を除いて全ての種族で姿が人型に変わって強くなるって聞いた事があるよ!キリアも今までより強くなれたんじゃない?」


キリアはそう言われればと言うように言う。


「そうだな…この姿については気に入らぬが、確かに力が溢れるような感覚はあるな。今なら"コレ"も倒せそうだわい。」


私はキリアはそんな事をしないとは思ったけど、一応念の為に言っておく。


「一応、言っておきますけど、私に向かってくるなら焼きますよ。」

「ふん。そんな事、百も承知だわい!それに我とて契約者殺しの汚名は背負いたくないしな。」


キリアは苛立ちを隠す事無く言う。


「ところで…ご主人?」

「マルモフさん、どうしましたか?」

「ご主人はどうしてここまで来たの?滅多に人の来るところじゃないのに…」


私は考える。


何をやるんだったかな…

確か山の上にある…あっ!


「思い出しました!山の上にある巣の卵を取ってこいって依頼を受けてたんですよ!」


キリアがそれを聞いて嫌そうに顔をしかめる。


「それ…我の巣の卵なんだが…依頼になってたのか…」

「そうだったのですか?!貴方のものと知らずこんな依頼受けて、ごめんなさい!依頼は失敗した事にしますので…許してください…」


私がキリアに頭を下げて謝るとキリアが少し驚いた様に声を荒らげる。


「お、おい!お前は我の契約者だろ!頭なんか下げずに我に卵を持ってこいと命令すればいいはずだ!」


私は頭を上げてキリアの目を見る。

キリアは少しだけ悲しげな目をしていたが、覚悟は出来ていると言う様な表情だった。


「私は…」


マルモフが心配そうに私とキリアを交互に見る。


「私は…貴方の契約者ですが、貴方は奴隷ではありません。ですので、貴方が嫌だと思う命令は私には下せません。私も貴方も対等の立場にあると思ってます。それはマルモフさんも同じです。」

「お前…それは本気で言ってんのかい?」


私はキリアの目を見る。

キリアもじっと私の目を見る。

しばらく沈黙した見つめあいが続く…

キリアがポツリと言う。


「全く…バカなやつだな…お前は…」


キリアが後ろに振り向く。


「ついてきな。我の巣に案内してやる。チビ犬、お前も来るといい。」


キリアはそれだけを言うとスタスタと歩き始める。

マルモフが私の顔を見ながら言う。


「ご主人、行こう?」


私はマルモフを見る。


「そうですね…行きましょう。」


私たちもキリアの後を追う。

少し歩くと綺麗な銀世界の真ん中に大きな氷の巣が現れる。

キリアがその巣の前で立ち止まって言う。


「我は長い間、ここで1人で暮らしていた。最近は金目当ての人間どもが多くてうんざりしていたが…」


キリアは軽くジャンプして素の中に入り、中から人の顔ほどの大きさの卵を抱えて持ってくる。


「お前が困っているなら、我の卵などいくらでもくれてやる。どうせ、卵なんぞいくらでも産めるしな!だから、遠慮なく依頼者に渡せ。」


キリアは卵を私に差し出しす。


「キリア…」


私はキリアから卵を預かる。


「貴方のお気づかい…感謝いたします…」


キリアはニヤリと笑いながら言う。


「何、礼など要らんよ。我を…魔物を対等の立場にあると言ってくれた。それだけでも我が命を捧げる理由にもなるし、こんなものでは足りぬほどだ。我ら魔物にとって契約者と対等にあると言うのは、それほど重要な事なのだ。特に我のようなドラゴン族はプライドが高く、自らより弱き人の下につく事を良しとしないからな…契約例も他の種族に比べると圧倒的に少ないんだ。」


そうだったのね…

私にとっては当然でもキリアたちにとって、それはとても凄い事なんだね…


「そうだったんですね…私にとって仲間は平等で対等なのは当たり前でしたから、当然のようなものだとばかり思ってました。」


そう…良い意味でも悪い意味でも対等だった…

あいつらは私に苦痛を与える為だけに躍起になって対等に意見し合い、私を苦しめた…


それが憎しみと苦しみに溺れた結花にとっての"対等"だった。


この世界に来てからは、皆優しかった。

特に故郷の村の皆は互いに助け合い、からかいあいながら、姿の違う私を対等に受け入れてくれた。


それがリッカの初めて触れた人の温もりと言う名の"対等"だった。

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