にんぎょのゆめをみる
いつだったかな。静海くんが珍しく風邪をひいて寝込んじゃったとき。
「大丈夫! 静海くんは寝てて? 家族には友達の家に泊るって言ったから」
「……や、悪いよ。折角の休みに」
私は薬局やスーパーで色んなものを買い込んで、彼の家に向かった。
彼は「何に使うのさ」と呆れ笑いを浮かべていたけど、私を家に入れてくれて
「だから寝ててってば」
お茶なんて用意しようとするから、無理やり布団に押し込んだんだよね。
頭に手を置いたらすっごく熱くてびっくりした。
彼も私の手が冷たいことで自分の熱が予想以上に高いことに気が付いてびっくりしてた。
「熱とか測らなかったの?」
「んー、寝てればいいかなって」
もう。と大げさに怒って見せると、彼はまたいつものようにたははと笑った。
本当に会社の時と違って適当なんだから。
「でも、そんな静海くんを知ってるのって、家族以外だと私くらいだよね」
なんて笑うと、彼は「うん。穏月だけだね」って、熱で赤い顔を緩ませて笑った。
私は照れちゃって。照れ隠しに彼のほっぺをつんつんする。
「幼馴染の高丘も、よく一緒にいるけどこんな姿までは知らないと思う。あいつ、結構自分の時間を大切にするタイプだからさ」
「そうなの? ちょっと意外かも」
熱さまシートを頭に貼って、氷嚢を首の下に置くと、少し楽になったようで、静海くんはぽつぽつといろんな話をしてくれた。
「幼馴染って言っても、むちゃくちゃ仲が良いって訳じゃないんだよねな。高丘は誰にでも優しいからそう見えるだけだよ。嫉妬でもしてた?」
「……えへへ、ちょっとだけ」
「ふふ」
私の言葉に、彼は満足気に笑った。
彼につられて、私も笑った。
「あ、おかゆとか作ろうか。梅と卵と鮭、何入れたい? 全部?」
「……じゃあ、梅干し。炊飯器に『おかゆ』のモードがあるから、それで作って」
「分かった! じゃあちゃんと寝ててね?」
そう言って私は部屋を後にしたんだけど、彼は私の後を付いて台所に来てしまった。
「……静海くん」
非難の目で見つめるけど、そっぽを向かれてしまう。
「そんなに心配されると、逆に悲しくなっちゃうんだけど」
と、口を尖らせた。
……のだけど、目の前の彼も同じ顔をしていて。
「察して」
なんて、言われたら。可愛くてもう、何も言えなかった。
寂しいんだ。そっかぁ。とか、野暮なことは言わないでいようね。
お米を洗って、水を入れて、炊飯器のボタンを押す。
ぼんやりと立っていた彼を布団まで連行して、隣に座った。
「出来るまでだいぶん時間掛かりそうだよね。テレビでも見る?」
「ん、いいよ」
リモコンを受け取って、テレビを付けてみる。
でも、時間帯のせいか頭の固い話題しかやっていなかった。
適当にチャンネルを変えて、最終的に子供向け番組に落ち着く。
「人魚姫だって」
有名な童話がきらびやかな絵と音楽と共に繰り広げられる。
でも、どんなに飾られても最後は人魚姫の失恋で終わる物語であることには変わらない。
「人魚姫のお話、もう少し救いがあればいいのに」
「そう? 僕は救われてると思うけどな」
「だって、王子様は結局、隣の国のお姫様と結婚するんでしょ」
「そうだね」
「……人間になった人魚姫にも一時心を動かされてたのに」
「でも、隣国のお姫様が命の恩人だと思っちゃったからね」
私は頬を膨らませて呟いた。
「なんかこう……王子様も後を追って海に沈むような最後でも良くない?」
「いや……それはちょっと」
静海くんの同意は得られなかったみたいで、むぅ。と不満の声を漏らした。
「でも、僕は恩を貰ったこと。忘れないよ」
そんな私に静海くんが声を掛ける。
「例えば今日、穏月が一緒に居てくれた。ってこととか」
そう言うと、彼は照れを隠す様に布団を被った。
そしてそのまま目を閉じてしまう。
「……静海くん」
炊飯器の炊飯完了のメロディが鳴った。
「えっ? あっ、静海くん! おかゆ出来ちゃったよ! 今から寝ちゃうの!?」
炊飯器のメロディが鳴り響いている。
響いている。
鳴り。
――ジリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!
炊飯器じゃないな。これ。
「目覚まし……」
朝だ。仕事行かなきゃな。
僕は目覚ましを止めると、まずは朝の挨拶をしに浴槽へと向かう。
「おはよう。穏月」
彼女は僕の声に振り向いて、笑顔を浮かべた。
「……そう言えば今日。穏月の夢を見たよ。というより、穏月になる夢を見た」
きっと長くなるから。この話は帰ってからね。
それじゃあ。準備したらすぐに会社だから。
そう言って、僕は風呂場の扉を閉めた。
行ってきます。
12月20日の誕生花『クリスマスローズ』
花言葉は主に5つあるらしいです。
『追憶』




