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浴槽の人魚  作者: 骨魚
5/9

いたくないよ。だいじょうぶ

前半はむっつりな主人公が悶々しています。

下ネタが苦手な方は ◇ まで読み飛ばして下さいまし。

読まなくてもお話は繋がるのでご安心ください。

でも書いてる側はノリノリでした。もっと書きt(自重)


 穏月(しずく)が僕のところに来てから、僕の生活は大きく変わった。


 彼女はひとりで動くことが出来ないからもっぱら浴槽の住人だ。

 僕の家のお風呂はあの日から常に暖かなお湯が張られている状態になっている。

 追い焚き機能のお風呂があるマンションにして良かった。まさかこんな役の立ち方をするとは思わなかったけど。


 僕は会社から帰ると、真っ先にお風呂場へと向かう。

 そして夜が更けるまで穏月と話し込むんだ。


 彼女は喋ることが出来ないから、僕がずっと話している形になるのだけれど

 その代わりに彼女は両手で、尾で、表情で返事をしてくれる。


 幸せだ。


「あ、もうこんな時間か。穏月。お風呂にしてもいい?」


 最初は困りに困ったお風呂も、もう慣れた。

 別の部屋で待っていてもらったこともあったのだけど、毎回運ぶのも面倒になり、数日前から一緒に入っている。


 いや……やましいことは……あの……別に……。

 でもまぁ……穏月は僕の彼女だし……穏月も気にしていなさそうだし……。

 ……良いよね? 良いと思う。


 バスタオルと着替えを用意し、脱いだ服は洗濯機に放り込む。

 お風呂場の浴槽では彼女が変わらない表情で待っていた。

 かわいい。


 シャワーで頭を掻きまわしながら、そんな時でも考えるのは穏月のこと。

 僕も男だから。やましいことはと言いながらもやっぱりそういうことはそれなりに考える。

 彼女は服を着ているとは言え、下半身か魚になっているから上しか身に着けていない。

 つまりはそういう状態と考えても良いのではないだろうか。

 まぁ、入れられるであろう場所も魚になっている(というか致せるのかどうかも分からない)んだけど。


 でもそうだとしても。僕の彼女はお風呂場に居て。僕は真っ裸で。

 穏月が嫌な顔ひとつしないというのは、やはり僕のことをそういう意味でも好きなのだろうと期待してしまっても良いと思う。

 入れられないにしても穏月は胸があるから(サイズは聞いていないけれども)僕はそっちでも大歓迎だ。


 ……何時だったか高丘(たかおか)に「静海(しずか)はむっつりだと思う」と言われたことがあったけど、もう否定できる気がしないな。


 頭を洗い、体を洗う。

 でも浴槽には入らない。流石にそれはと今は踏みとどまっている。


「上がったら、ご飯にしようか。今日は見つかると良いね。穏月の食べられるもの」





 彼女と過ごし始めて、今一番悩んでいることは彼女の食事だった。

 人魚になって以来、彼女は何も口にしていない。

 どうやら人間の頃に食べていたものは口に出来ないようだった。

 でも、お腹を空かせているような素振りをよく見る気がするんだ。

 可哀そうで仕方がない。


「そう言えば、前から食事担当は僕だったよね。穏月、料理下手だから」


 僕の言葉に彼女は恥ずかしそうに顔を覆った。

 穏月の料理はあんまり美味しくない。懸命に作ってくはくれるのだけど、ぼんやりしている間に焦がしたり、卵が上手に割れなかったりする。

 でも僕が作ったご飯をそれはそれは大絶賛して、美味しそうに食べてくれた。

 もう彼女に料理を作ってあげられないのは残念だけど、それでもまた彼女が笑顔で食事をする姿が見たかった。


「今日は魚介類だと牡蠣、マグロ、ウナギ。肉は牛のヒレ。野菜でカボチャ、ブロッコリー、エリンギ。果物がブドウとキウイで買ってきてみたよ。それでもダメだったら秘密兵器も試してみよう」


 穏月は『秘密兵器』という言葉に首を傾げつつも頷いた。

 彼女の口元に食べ物を運ぶ。生で、焼いて、蒸して、揚げて。いつものように考えられる全ての方法で試してみたが、今日も穏月は何も口にしなかった。

 

 悲し気に尾を垂らす彼女を眺め、僕は決意を固めた。


「ちょっと、待っててね」


 そう言って、僕は台所から果物ナイフを持ち出した。

 彼女が居る浴槽に戻る。


「人魚の伝説のひとつでは、人魚は歌で旅人を誘って食べちゃうんだって」


 そう言って、僕は僕の手首に赤い線を引いた。

 ぷくり、と赤い玉が浮かぶと、そのまま重力に誘われていく。


 穏月の前に腕を差し出して、赤い汁を落とした。

 それは彼女の白い肌を伝って、口へと滑り込んでいく。

 その表情はぞわりとする程に妖艶で、僕は思わず唾を飲み込んだ。


「おいしい?」


 彼女は舌なめずりで答える。

 あぁ、良かった。秘密兵器(僕の血)は大当たりだったようだ。


「……肉も食べたい?」


 その言葉には首を振った。

 僕はほっとしたような、どこか残念なような気持ちになる。


「   ?」


 穏月が口を動かす。

 悲しそうな顔をしていた。


「痛くないよ。大丈夫。ありがとう」


 僕は笑顔でそう答えた。


「穏月の為なら、僕はなんだって出来るんだからさ」


 もうご飯を作ってあげる事は出来ないけど。

 これからは毎日僕の血をあげるから。


 その代わり、もう僕の前から居なくならないで。穏月。


12月20日の誕生花『クリスマスローズ』

花言葉は主に5つあるらしいです。


『私の心を慰めて』

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