2章・17文化祭 1
ついにやってきた文化祭当日。
三学年九クラスのうち四クラスが講堂を使って劇の披露。三クラスが展示。一クラスが中庭で食品販売、もうひとクラスが謎の執事喫茶だった。
劇の順番はくじ引きで決められた。あたしたちのクラスは午後の一番目、全体からみれば三番目という順番。
なぜかバレンに、劇の上演が終わったらウォルフと二人、衣装のままで彼のクラスのお化け屋敷に来いと命令されている。
お化け屋敷はいいけれど、衣装のままなんて絶対に嫌だと断ったんだけど。俺様バレンに
「言うことを聞けば、アルベールとミリアムがペアで入ったときに盛り上げてやるぞ?」
と悪魔の囁きをされ、ついつい承諾してしまった。
「ていうか!なんで僕が二人をくっつけようとしているの、知っているのさ!?」
「俺に見抜けないことはない」
本当かなと思いつつも、せっかくなので丁重にお願いをしておいた。
「でもさあ。カップル限定で僕と入るって、ウォルフガングがかわいそうだよ。なんで僕たちなんだよ。客寄せパンダなの?」
「当たり前じゃないか。お前がジュリエットをやるって知らない生徒はいないからな。衣装を脱ぐ時間も惜しんで駆けつけるお化け屋敷って、興味をそそられるだろ?」
確かに。案外バレンも商売人気質らしい。
「で、パンダって何だ?」
…この世界にパンダはいなかった。
さっき普通にうなずいていたよね!?バレンてば実ははったりだけで生きてるタイプかな。
そんな訳であたしの予定は、午前は自由時間。それから早めのお昼ご飯を食べて準備。本番。終了後はお化け屋敷。
劇はフェルとエレノア、アンディが見に来てくれる。キンバリー先生と、委員会の仲間も全員見るそうだ。
男なのにジュリエットなんて恥ずかしいけど。こんなに楽しみにしてくれる人たちがいるのだから、がんばる。
◇◇
自由時間は、ウォルフと一緒に他のクラスの展示、暗闇迷路とお祭りコーナーに行くことにした。ミリアムには泣かれそうになったけど、なんとか理由をねじこんでみた。
せっかくバレンも協力してくれるんだもん。アルとの距離をぐっと縮めてほしいよね。
ミリアム、アル、レティ、ジョーの四人とクラスの前で別れて、姿が見えなくなると。
「お前、今度はミリアムと…をくっつけようとしているのか」
とウォルフ。周りを気にして名前は出さなかったけど。まずい、こっちにもバレてしまったらしい。
「うん。前はウォルフに勧めたのに、ごめん。けっしてウォルフより…のほうが素敵!とか思っているわけじゃないよ」
一応、申し訳なささを滲ませながら様子を伺っていたら、盛大にため息をつかれてしまった。
「ごめん」
「謝られる意味がわからん」
怒っているのではなく、呆れているらしい。
「オレ、言ったよな?ミリアムを勧められても困るって」
そんな気もする。
「…一応、念のために言っておくけど。他にどんなお勧めの女子がいても、オレとくっつけようとするなよ?」
「…わかった」
ウォルフはあたしの頭に手を伸ばしかけて止まり、その腕をおろした。
「まあ、…を勧めるのはいいんじゃないか。お似合いだ」
「そう思う?バレンも協力してくれるって!」
「…お前、バレンもだぞ。勝手にお勧めの子を押し付けるなよ。いらないお節介だからな」
「わかったよ。ケチだなあ」
ケチ!?とウォルフが目をつり上げたのは見なかったことにしよう。
「でも、ちょうど良かった。バレンに劇終了後にお化け屋敷に来いって言われているんだ。二人で」
「オレとお前?」
不思議そうなウォルフ。
「そう。衣装のままで」
「なんで!?」
「客寄せだって。そうすればミリアムと…の時に盛り上げてくれるっていうから、承諾しちゃったんだ。どうやってウォルフに話そうかと思ってたんだよ。協力して…あれ?」
ウォルフは廊下のど真ん中でうなだれて、片手で顔をおおっていた。
周りの生徒が大きな図体で立ち尽くしている邪魔者を、チラチラ見ながらよけていく。迷惑になってるよ!
慌てて戻る。
「ごめん、やっぱり嫌だった?」
「…あいつ、何を考えているんだ」
ため息。ようやく顔をあげたウォルフはげっそりしている。
「だいたいお前、いいのか?あんなにドレス姿を嫌がっていたじゃないか」
「ミリアムのためなら平気だよ」
すごいな、と呟かれた。
だってミリアムが大好きだもん。彼女のためなら何でもするよ。
「…オレ、無事に帰れるかな」
ウォルフは不安気だ。
「なんで?お化け屋敷なんて危険じゃないよ」
「お前の兄が怖いんだよっ。威圧感半端ないじゃないか」
あー。フェルが練習の見学に来たとき、ウォルフは緊張しまくっていたもんね。
「大丈夫だよ。僕のジュリエットをすごく楽しみにしてくれてるんだ。フェルはちょっと兄馬鹿でアレだけど、ウォルフガングのことは買ってるよ」
ウォルフは何か言いたそうな目をしながら、あたしを見ている。反論したいのかな。
「本当だよ。フェルもアンディもミリアムもああ見えてウォルフのことは信頼してるし、僕の面倒をよく見てくれてるって感謝してる」
ウォルフはあたしから目を反らした。心の中で折り合いをつけているのかな。
アンディはともかく、フェルやミリアムは感謝を態度に出していないもんね。
「…わかった。オレはお前の兄に信頼されている。怖がることはない」
「そうだよ」
ウォルフはひとりでうなずくと、
「迷路に行くか」
と言ってくれた。うん、と答えてから
「お化け屋敷は?」
と尋ねると。
「行かなくてもいいだろ。片付けで忙しいぜ、きっと。それにミリアムたちは今のうちに行くんだろ?」
そうか。
「ずるくない?」
バレンに手伝いだけさせて、こっちは行かないなんて。
「散々苛められたんだから、仕返しってことでいいんじゃないか?」
「ウォルフガング、案外悪いヤツだなあ」
お化け屋敷に未練はあるけど。ウォルフだって衣装のままのあたしとうろうろするのは嫌だよね。
「…衣装を脱いだらキンバリー先生と行こうかな?」
やめておけ、と止められてしまった。クラスの女子にしろ、と。
そうだった。一応美人教師と、美少年男子学生という間柄だった。すぐに忘れちゃうよ。
「『アンディにキンバリー先生を誘わせよう』もなしだぞ」
「もう!わかってるよ。ウォルフガングってば口うるさすぎ。乳母みたい」
乳母…と絶句するウォルフ。
「口うるさい男はもてないよ」
「誰が口うるさくさせているんだ!」
ウォルフに頭を天辺からガシッと捕まれた!
「うわっ!やめてよ!」
「少しは自覚しろ!」
「あっ!クララだ!クララ!助けて~」
クララとクラス女子の集団をみつけて助けを求めると、ウォルフの手はすぐにひっこんだ。
「何をしているのよ」
と、呆れ顔のクララたち。
「ウォルフガングに苛められた」
ウォルフは目を泳がせている。
「ヴィー」とクララ。「どうせヴィーが困らせているんでしょ」
「え!?」
あたしの味方をしてくれると思ったのに、まさかのウォルフの味方?
「いつも苦労をかけているのだから、今日くらいはかわいいジュリエットでいなさい。監督命令よ!」
「ええ~」
じゃあ後でね、がんばるのよ、なんて言葉を残してクララたちはさっさと行ってしまった。
なんてこった。どうやらあたしが普段から迷惑をかけているらしい。
…まあ、自覚しているけどさ。
まさか女子たちにまで、そう思われていたなんて。
そうか。ウォルフはミリアムの手下だけど、モテるんだった。
そりゃマスコットキャラ(アル!)よりモテ男子だよね。くやしい。
「早くしないと何もできないぞ」
歩き出すウォルフを慌てて追う。
こういうとこが、モテるのかな。
後を引かず、切り替えも早く、優しい。
「…ごめんよ」
「腹はくくっているからな」
「なんの?」
「ブルトン小隊長に引き合わされたとき。これは面倒なことになったぞって」
ウォルフは笑った。屈託なく。
「そっか。アンディはね、ウォルフガングなら安心して紹介できるって言ったんだ」
「そりゃどうも」
ほらここだ、とウォルフ。
暗闇迷路・最後尾、とかかれた看板を持った生徒が寄ってって~と声をかけてくる。まるで前世の文化祭だ。
長蛇の列の最後に二人で並ぶ。
ワクワクしてきた。
「ニタニタするな」
注意が降ってくる。
「なんだよ、ウォルフガングだってにやけてるよ。楽しみなんでしょ」
「おぉ、楽しみだとも」
「廊下のど真ん中でいちゃいちゃするな」
と声がしてバレンとキースが現れた。二人の手には大きな紙袋が複数。
「どう思う。うちのクラスは王子に買い出しをさせるんだぞ?」
でもおとなしく買いに行ってるんだよね?
実はバレンって、いいヤツだ。
ホラよ、とバレンから小さな紙袋を手渡される。
「クッキーだ。たくさん買ったから、やる」
「ありがとー」
絶対に来いよ、と念を押して去る二人。
誰が行くかと小声のウォルフ。
「じゃあさ、僕もウォルフもそれぞれクラスの女子と行けばいいんじゃないかな」
「…そうだな」
「よし、解決!」
クッキーをもらっちゃったし。行かないと悪いもんね。
「えへへ。文化祭、楽しいね」
ウォルフは。そうだな、と答えてからなぜか、深いため息をついた。




