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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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2章・16劇 2

 結婚式シーンのひと騒動を、あとから見に来たキンバリー先生にこっそり話すと大爆笑された。

 ひどいよ!

 ひととおり笑い終わると、浮かんだ涙を指でぬぐいながら、

「いや、苦労してるね」

 と一応、慰めてくれたけどさ。

 あたしの精神ズタボロだよ。




 騒動の翌日、なぜか仕事中のはずのフェルが劇の練習を素敵笑顔を浮かべて見学に来た。右隣にはミリアム、左隣にレティが仁王立ち。その周りには女子たち。

 あたしは恥ずかしくて誰にも話さなかったんだけど。どうやら前日居合わせた女子たちは、口を閉ざさなかったらしい。

 男子連中が震え上がる様子を見て、溜飲がさがったよ!

 ただウォルフまでぎこちなくなっていたのは、気の毒だったけど。被害者なのに、フェルの存在感に緊張したのだろう、セリフは噛みまくり、動きはロボットのよう。

 結婚式のシーンでは


「そんなんじゃ、僕のかわいいヴィーを任せられないな」


 とダメ出しをされて、すっかり落ち込んでいた。

 ジョーとアルが二人がかりで励ましていたけど、背中が哀れだったなあ。前日のかっこよさが台無しだよ。




 そんなこんなで、あたしとウォルフの精神状態以外は順調に進んだ。



 文化祭まであと二週間という頃、ついに衣装が仮完成した。

 キャストはみんな男子チーム、女子チームに別れて試着した。

 ただあたしだけ別だった。男子のあたしにドレスは着られないだろうからとミリアムがついてくれた。まさかそれで男子の試着室に入る訳にはいかないからね。


 ミリアム渾身のドレスを着ると、彼女はあたしの頭の天辺から爪先までまじまじと見た。そして無言で抱きしめられた。


「どうかした?」

「…感動しているの」ちょっと涙声だ。

「だってわたしがデザインしたドレスをヴィーが着ているのよ。とっても素敵だわ。こんな可憐なお姫様、世界中のどこを探したっていないわ」

「や、やめてよ」

 たぶん今のあたしは耳まで真っ赤だ。

「男子に言う褒め言葉じゃないよ」

「そうね。ごめんなさい」

 彼女はあたしから離れてにっこりと微笑んだ。

 そして、椅子を持ってきてあたしを座らせる。

 これはまさか。

「少しだけお化粧するわね」

「待ってミリアム!僕、それは勘弁!」

「あら、ダメよ。完璧にしないとね」


 そして。

 ミリアムによってジュリエットに仕上げられたあたしは、頭から小道具の布を被せられてお化けのような姿でクラスメイトの前に引き出された。

 なんの罰だと言いたいよ。


「じゃあ、我がクラスのジュリエットをお披露目するわよ」とミリアム。

 恥ずかしくてドキドキするよ。

 はいっ、とミリアムが布を取る。正面にウォルフガングを中心にレティ、アル、ジョー。その後ろにクラスメイト。と、なぜかキンバリー先生。

 慌ててうつむく。恥ずかしい。みんなの顔なんて見れないよ。


 訪れる静寂。みんな無言だ。

 なんで?

 ぶっちゃけあたしは美少年(設定)だから、そんなに変ではないと思うんだけど。勘違いだったのかな?


「…まあ!」

 最初に声を出したのはレティだった。まあ、まあ、言いながらあたしの両手をとり、握りしめた。

「なんてかわいいの、ヴィー。素敵よ」

 ほんとに、素敵、と次々賛同の声があがり、あたしはほっとした。でもすべて女子からだ。

 男子にはひかれてしまったのかな。


「すごい化けたね、ヴィーちゃん」

 キンバリー先生がやってきて、あたしの背中をバンバン叩く。

「ミリアムのお化粧も絶妙だね。男っぽさをうまく消して、かわいい部分が強調されてる。君、才能あるよ」

 ねえ、と先生が女子に声をかけて、みんながうんうんとうなずいている。


「ほら、男子共もヴィーちゃんが恥を忍んで頑張ってるんだから、ちゃんと褒める!それともあまりのかわいさに声もでないの?」


「あ、えと、」とアル。「やっぱり双子なんだね。ミリアムにそっくりで驚いたよ。なあ、ジョー」

「お、おう。こう見ると瓜二つなんだな。なあ、ウォルフガング」

「え!?俺?」

 慌てふためくウォルフ。


「…そんなにコメントしづらいかな?」

 あたしが問うと、更に慌てて首と手を横に振るウォルフ。

「男子共はダメだなあ」とキンバリー先生。「ヴィーちゃん。ちゃんとかわいいジュリエットになってるから自信を持ってやるんだよ。あいつらがヘタレなだけだから」

 はい、と素直にうなずく。


「しかし、これは予想を上回ったな」

 腕組みしてあたしを値踏みすると、キンバリー先生はにやりと悪い笑みを浮かべた。

「ちょっくら全員集合させるか」

「ダメよ!」ミリアムがすかさず反応する。「当日までのお楽しみなのよ」

「僕も見られたくない」

 恥ずかしすぎるよ。

「そう?おもしろそうなのになあ。残念」

 先生は肩をすくめると

「仕方ない、充分楽しんだし、仕事に戻るか」

 と言った。

「僕、先生の娯楽じゃないけど!?」

 はははと笑う先生。

「じゃ、ヴィーちゃん。おもしろいことになったら、先生に報告しに来るように」

 そんなセリフを残して颯爽と去るキンバリー先生。

 おもしろいことって何さ!?これ以上恥ずかしい思いはしたくないよ。




 それから。キャスト全員は衣装のまま練習をした。あたしはドレスが動きにくくて参った。床につくほど長い裾が足にまとわりつくのだ。


 ついには裾を踏んでしまい、派手な音を立てて転んでしまった。

 これか、先生の言ったおもしろいことって!

 なんて思っていると、大丈夫か!?という声と共に目の前に手が差し出された。二本も。

 見上げると、ウォルフとロミオの友人役の男子。


 なんだこれは?


「女の子じゃないんだから、大丈夫だよ」

 とひとりで立ち上がる。

 そういえば、春にバレンにも手を差しだされたっけ。


「ヴィー、大丈夫?」

 ミリアムが駆け寄ってくる。

「ごめん、ミリアム。大事なドレスが。破れたりしてないかな」

「ドレスなんていいのよ。足は平気?ケガをしてない?」


 ドレスの下、女性ならシュミーズをはくものだけど、さすがにそれは抵抗があった。“あたし”はいいけど、“ヴィー”は男子だ。

 だから変わりにキュロットをはいているけど、ドレスに干渉しないように短めのものだから、膝が出ている。かなり打ったから擦りむいたかもしれない。


 どうかな?と言いながら、スカートの裾をたくしあげたら、悲鳴が上がった。


「ダメよ、ヴィー!」

 ミリアムがこれ以上ないほど真っ赤になっている。

 あ、この動作は女の子的にはNGか。

 裾を離す。

 いくらあたしが男子でも、おしとやかなミリアムの前でやるのはよくなかった。

「ごめん、ごめん。どうもスカートは調子が狂うよ」

 ミリアムなんてあたしの生足くらい見慣れているのに(夏に足を水につけて涼んでいるからね)、かわいい反応だなあ。


 ほら、アル、ちゃんと見た?

 このミリアムのかわいさは破壊的だよ。

 さすがにキュンってくるでしょ?


「…ミリアム。」

 声の主は真っ赤なウォルフ。お前もキュンときてしまったか!かわいそうだけどミリアムはもうあげられないよ。

「ヴィーは家でドレスの練習をしたほうがいい。動きにくそうだし。今日は危ないからやめよう」

 お。

 ウォルフ、いいことを言ってくれた。あたしからは言いづらかったんだ。

「そうね」ミリアムもうなずく。「そうしましょう」


「ねえ、」

 とアル。アルも真っ赤だ。よかった、ちゃんとキュンとしてくれたんだ。

「ヴィー」

 え、あたし?

「頼むからドレスを着ているときは、女子として行動してくれるかな。いくらヴィーだとわかっていても、そういう行動は心臓に悪いよ」


 あたしは周りを見回した。みんな顔が赤い。

 あれ。これ、あたしのせいか!

 ミリアム以外の子も、ひどいお行儀を見せられて恥ずかしかったんだ!

 急激に羞恥心に襲われる。


「ご、ごめんっ。そうだよねっ。女子はスカートめくらないよねっ」


 前世で女子校に通ってたときなんて、平気でみんなの前でまくってブラウスの裾をなおしたりしてた。

 きっとあたしには元々女子としての恥じらいが足りないんだ。

 ジュリエットの間だけは、気をつけよう。


「衣装を脱ぐついでに医務室へ行ってきてね」とやはり顔の赤いレティ。「ケガがなかったとしても、アザになったらいけないわ」

 そうねとうなずくミリアム。

 アザくらいなんてことないけど、ここは大人しく従っておこう。

 これ以上ミスをしないようにしなくちゃ。


 女子ってスカートをめくっちゃいけないとか、傷痕を気にしなきゃいけないとか、面倒だよね。

 この世界ならなおさらのことだし。

 こんな時は、男子に転生してよかったと思うよ。


 しかし、さっそくキンバリー先生に提供できるおもしろネタができてしまうなんて。

 先生のことだ、あと少し居座ればよかった、って言いそうだな。


読んで下さってありがとうございます。

また、とりあえず最新話だけのぞいてみた!という方もありがとうございます。


今日のアクセス数が今までにない数になっています。嬉しいのですが、小心者なので大変戸惑っています。

書き終える自信もなかったので(今は大丈夫です)、ひっそりと活動してきました。急なことに恐れおののいている状態です。


ろくに小説を書いたことのない人間が、自分が読みたいものを好き勝手に書いているだけです。

どうか広いお心でお読みいただけると幸いです。


《2019,2,22》

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