幕間・友人の買い物 2
再び椅子に背を預けるウォルフガング。
「この教会から更に一日山奥に進んだところに、銀鉱山がある。そこの教会も今、セットで人気が出てるんだ。
聖ヨゼフ教会。ほぼ鉱山守護のための教会だ。何十年か前に大規模な落盤があったんだが、偶然聖ヨゼフの祝日で作業員はいなかった。平日なら百人以上が死んだと言われている。それから、聖ヨゼフで祈りを捧げたここの銀が炭鉱夫のお守りになっている。厄除けだ」
「で、聖マルグリーテから聖ヨゼフを回る巡礼が流行っている、って訳か?」
「そう。庶民は安価な品や銀の粒を買っているけど、村には銀職人もいてそれなりの細工物も売っている。こっちは聖マルグリーテみたいに決まった形じゃないのが難点だが、お前にはこっちがいいな」
急な方向転換に、意味がわからずピートを見る。
「そうでございますね」
とピートはなぜか同意する。
「兎のほうがかわいいしロマンチックだろ?」
「説明忘れたか?」とウォルフガング。「これは最後まで添い遂げたいと願う恋人たちのものだぜ?お前にその気があるのか?」
「あるけど?」
ウォルフガングは驚いた顔をして瞬いた。首をかしげてまたピートを見る。
そして俺の失礼な侍従は
「アルベール殿下には、頻繁に『お前が理解できない』と言われております」
と言う。
「…だから突っ込まないのか」
「その通りでございます」
「なんだよ、俺とレティのことに文句があるのか」
「前々からずれたヤツだと思ってはいたが、規格外だな」
失礼なヤツだ。ひとのことを言えるのか。
「まあ、それなら兎でいいんじゃないか。しかしレティは本当に喜ぶかな?」
「…なんでだよ」
「何度も言わせるな。添い遂げたい二人のための護符だぜ?お前たち、レティを助けるための仮初めの婚約なんだろ?お前にその気があってもレティにあるのかどうか」
…このやろう。
「渡すときに確認したほうがいいぜ?案外バレンのほうがいいと言い出すかもしれないしな」
「…バレンなんてガサツなバカ王子をレティが好きになるはずない」
「バレンじゃなくても、学園に入って交遊関係が広がったんだ。他にいくらでもいい男がいるだろ」
そんなことはわかっている。
俺は全て中途半端だ。
それなりにモテる容姿はしている。だがアルのようにキラッキラした正統派でも、フェルディナンドのような冷淡な知性派でも、アンディのような頼もしい肉体派でもない。
名門に連なる家柄だけど、シュタインやブルトンのような重鎮ではない。かといってブランのように強力な家業もない。
友人は多いけど、ヴィーのようにみんなに愛されている訳でも、ウォルフガングのように信頼されている訳でもない。
あんなに性格に難があるバレンですら将来を見据えて、自国の法律と歴史の勉学は既に終え、3か国語を話し、剣術と馬術は見習い騎士になれる程度は身につけているという。
俺は?
親の七光りしかない。
「…おい。落ち込んでいるのか?」
嫌なヤツだ。別にと返して、目前の友人を観察する。
顔の造作は、飛び抜けて整っているって訳じゃない。だが燃えるような赤い髪と、意思の強そうな翠の瞳が強烈な印象を残す。しかも性格も良くて家業を盛り立てる手腕もある。きっと政治に携わったって成功するだろう。
ムカつくヤツだ。
反撃してやろうか。
…いや、やめておこう。
さすがにかわいそうだ。
そうだ。
「なあ。なんでも揃うブラン商会」
なんだ、と尋ねるウォルフガングは胡散臭そうな表情だ。
「惚れ薬って売ってないのか」
俺の質問にヤツは眼をすがめた。
「そんなのがあったら…」
「自分で使う、か」と俺が言うのと。
「とっくにお前に売り付けてるぜ」とウォルフガングが言うのと。
まったく同時だった。
「…根っからの商売人だな、お前」
ウォルフガングは、はんっと息を吐いて、顎をあげた。
「誰が使うか、そんなもの。負けたって認めるようなもんじゃないか」
…。
「すげえプライド」
ま、そうじゃなきゃ、予科練なんて入ってないか。
俺なら喜んで使っちゃうけどな。
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次回、本編にもどります。




