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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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幕間・友人の買い物 1

友人ジョシュアの話です。

侍従が扉を開けると、カランカランとベルの音が鳴った。


ここを訪れるのはまだ数回目だ。少年団に入っていた頃、友人と連れだって何度か見に来たくらいだ。買い物をしたことはない。

欲しいものがあれば商人に持って来させるか、侍従が買ってくるかだ。

ヴィーやミリアムは店舗を見てまわるのが楽しいらしいけど、俺には理解できない。


奥から店員が出て来て俺を見ると、

「これはマッケネン様、ご来店いただきありがとうございます」

と丁寧な所作で頭を下げる。

「何が御入り用でしょうか」

それがわかれば、わざわざ来ない。


「ウォルフガング、はいないよな?」

あいつは忙しい。だが念のために聞いて見る。

「すぐにお呼び致します。どうぞこちらへ」

店員に案内されて店の奥に進む。椅子と円卓が幾つか置かれている。こちらでお待ちをと言われて座る。間を置かず、温かいお茶と菓子が出てくる。いつから用意をしていたのか、不思議になる早さだ。このサービスの良さがブラン商会の売りのひとつらしい。


ほどなくウォルフガングがやってきた。まだ制服姿だ。

「なんだ、帰ったばかりか?」

いや、と首を振るウォルフガング。

「ひと仕事をしていて帰宅しそびれただけだ」

学校から店に直行して仕事ということか。クラス委員、劇の主役、予科練生、そして店員。幾つもの役割があって大忙しだ。

「別にいいぜ」とヤツの首を指す。「緩めろよ」

きっちりと着ている制服。放課後だし、客は俺だ。着崩したっていいのに、真面目なヤツだ。

だがウォルフガングは

「店にいるときはダメなんだ」

と言った。厳しい父親のお達しということか。


「で、何が欲しいんだ?」

とウォルフガング。

「わからん」

俺の答えにヤツは剣呑な目をした。

多忙な上に苦労をしょいこみまくっているウォルフガングに、これはひどいか。

「レティにプレゼントをしたい。でも何がいいか、全くわからん」

言い直すと、なるほどと頷いたウォルフガングはすぐに首をかしげた。

なにも変なことは言ってないぞ。

そしてヤツは立ち上がった。


「二階へ行くぞ。女性物は上だ」

そうだった。以前来たときに、友人が気になる子に贈るプレゼントを二階で探していた。


階段を上がると地階とはまったく違う、明るく華やかな部屋が広がっていた。いかにも女が好きそうだ。

だがウォルフガングは足を止めずに奥へ向かうと、下と同じような接客スペースを通り越して、その先の扉を開けて中へ入るように促した。

そこは重要な客用の部屋なのだろう。オープンな接客スペースより格段に質の高い調度品があつらえてある。


長椅子に向かい合わせに座る。

と、黙って控えていた侍従のピートが一歩前に出た。

「ウォルフガング様。ご配慮痛み入ります」

その一言だけ言って、また下がる。

ウォルフガングは無言で頷き、俺は

「外でいいのに。まだ学生だぜ?」

と肩をすくめた。


「これですから」とピートが諦めたようにため息をつく。「外ばかり育ってしまって、中身はまだまだでございます」

「おい」

「苦労するな」とウォルフガング。

「おい。どうして二人してバカにする」


ノック音がして、新しいお茶とお菓子が運ばれてきた。


室内が再び三人きりになるのを待ってウォルフガングが口を開く。

「レティは王女だ、ジョー。誰が聞いているかわからないところで、彼女の名前を出して相談事はよくない」

「別に買い物するだけだぜ?」

「ただの買い物だけなら、お前はわざわざ店に来ないだろ。何を贈ればいいかもわからないぐらい困っているのは、お前に限っては十分悩み事だぜ?」

ピートが、わかったような顔で頷いている。

「そうか?」

「商売人の目を甘く見るなよ?」


こいつが商売人として評判がいいのは知っている。

なんだか腑に落ちない気がしつつも反論はしないで、長椅子の背にもたれた。


「で、誕生日でもないのに、なんでプレゼントを贈ろうと思ったんだ?」

とウォルフガング。

「んー?なんだろう。レティがいつも俺のことを考えてくれるといいなと思ったんだよな」

「…へえ」

「で、もらったプレゼントを見ると、くれた相手のことを考えるだろ?だからだ」

ウォルフガングは僅かに口の端を上げた。

「…なるほど。常にお前を意識してくれる物を買いたいんだな」

「そう」

「そして学校に持っていけるものがいい」

「もちろん」

「なおかつ目に入らなければ意味がないから髪飾りはダメだ」

「その通り」

「だが学校は髪飾り以外の宝飾品は禁じられている」

「そうなんだよ!」

「あれだな」

「え、もう思いついたのか?」

ウォルフガングは自信満々に頷く。

「お前、本当に凄いな。何だ?レティが喜ぶ品か?」

「喜ぶこと間違いなしだが、うちには売っていない」

「はあ?なんだよそれ」

ちょっと待ってろと言ってウォルフガングは部屋を出て、言葉通りにすぐ戻ってきた。

ローテーブルに小さい布の切れ端のような物を置いた。

兎の焼き印がついている。


意味がわからずピートを見る。彼も首をかしげている。


「聖マルグリーテ教会の護符だ。今これが都の庶民の若い恋人たちの間で流行っている」

聞いたことのない教会だ。

「すぐにこのブームは貴族にも来るぞ」


ウォルフガングの説明によると、聖マルグリーテ教会は都から二日ほどかかる山中にある、小さな教会らしい。

聖マルグリーテは、老年、迫害を受けていた教徒を守り夫と共に殉教した。夫婦の間には12人の子供がいたことから、古い昔から安産のご利益があると信仰されていたそうだ。

ところが最近、夫と共に殉教というエピソードから、ここに詣ると最後の時まで添い遂げられると言われるようになり、恋人たちの間で人気となっているそうだ。


「で、男側が教会詣でをしてこの護符をもらい、彼女にプレゼントするんだ」

「へえ」

護符を手に取る。袋状になっていて、後ろ側に縫い目がある。

「中は何が入っていりんだ」

「兎の毛。もともと安産信仰だからな。多産ってことで兎らしいが、この焼き印もかわいいって評判なんだ」


「へえ。…いいかも」

「お守りなら、学校に持っていける。今うちでは、この護符を身に付けやすく加工するサービスを開始する準備をしている。もちろん、教会の許可もとってある」

「…ブラン商会、すごいな」


「難点は教会が遠いのと、元が安産のお守りってとこかな」

「でも肌身離さず、だよな」

うん、いい気がするぞ。


「…なんで常にお前のことを考えてほしいなんて思ったんだよ」

ウォルフガングの言葉に目を上げる。

「最近、バレンの株が上がっている」

バレン?とウォルフガングは繰り返す。

「あいつ、歯に衣きせないだろ?俺たち五人でうまくやってきたところに、ガンガン口を出してさ。…まあ、そんな見方もあったのかと新鮮だけど、レティも感心するようになっちまった」

「つまり、レティがバレンを好きにならないかが心配なわけだ」

「いや、そうじゃない。だがおもしろくないよな。レティは俺の婚約者だ」


ウォルフガングは初めて背もたれに寄りかかると、なぜかピートを見た。

「なんで誰も突っ込まないんだ?」

「…皆様、ご自分で気づいてほしいとお考えです」

「生ぬるいな。苛々する」


ウォルフガングは直ぐに身を起こすと、護符を手に取り上着のポケットにしまった。



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