2章・15対決 2
「そこを通らせてくれるかな」
あたしの言葉に、マリアンナは顔を強ばらせながらもまだ自分の優位を信じているようだった。
「あなたが協力を約束しない限り、通さないわ。まずはアルベールとあたしを繋いで。もう打つ手がないのよ」
「ねえ、マリアンナ。君は僕を脅迫しているのかな?」
「そうよ」
「君は僕も僕の友達たちもまったく解っていないね。僕は入学して以来、なんでだか学内でひとりになったことがないんだ。今頃みんな血相を変えて僕を探している」
確信がある。
「僕はただの過保護な坊っちゃんじゃないよ。世界一、過保護な坊っちゃんだ。僕や僕の大事な人たちに何かあればみんな黙っていない。お互い守りあうし、敵には一丸となって立ち向かうよ」
言い終わるか終わらないかのうちに、扉が外からドンドンと叩かれる。
「ヴィーちゃん!ヴィーちゃん、いる!?」
あれ、予想外。なんでだろう?キンバリー先生だ。
「いまーす」
のんびりと答えるけど、扉はガタガタいうだけで開かない。どうやらマリアンナが魔法でどうにかしているようだ。
「ヴィーちゃん、扉の前からどいて!」
「はーい」
メリメリメリっと凄い音がして、何かが扉を突き破った。
その衝撃のせいか魔法が解けたようで、扉が開く。その向こうにいたのはキンバリー先生とゲインズブールだった。
「ヴィーちゃん大丈夫!?」
キンバリー先生が駆け寄ってくる。
「はい。話していただけです」
扉に刺さっているものの全体像がわかった。斧、だ。薪割りに使うやつだろうけど、こんなのどこから持ってきたんだ。
更に斧よりも凶器に見えるゲインズブール。
無言で室内に入ってくるとマリアンナの前に仁王立ちになり拳を振り上げた。
「待って!」
あたしが制止するのと同時にキンバリー先生がゲインズブールに飛び付いた。いや、抱きついた。全身で制止している。
「それはマズイ、ダメだ!カッツ!」
カッツは長い息を吐くと、拳をおろした。
キンバリー先生はゆっくり離れるとあたしの元に戻り、ほっと息をついた。
「貴様、」
地を這うような声。マリアンナは青ざめてガタガタと震えている。
「どこまで俺に迷惑をかける気だ。次は死罪だと言っただろうが」
マリアンナはぷるぷると首を横に振る。
「は、話していただけです。本当です」
内容は恐喝だけどね。
さすがにこの剣幕のゲインズブールに告げ口する気はない。
「嘘をつくな!やましいことがあったから、扉に魔法をかけたんだろう!」
マリアンナは壊れた人形のように、ひたすら首を振る。
廊下からバタバタと足音が聞こえ、アルが顔を出した。目が合うと
「ヴィー!」と叫び、来た方向へ「いたよ!無事だ!」
とまた叫ぶ。
たくさんの足音がして、ジョー、ミリアム、レティ、ウォルフ、バレン(バレン!?違うクラスなのに!)、クララ、その他クラスメイトがわらわらと現れた。あ、キースもいる。
みんな一様にあたしを見てほっとして、マリアンナを見て顔を強ばらせ、斧を見てギョッとしている。
なんだかものすごい大事になってしまった。
でもなんてありがたいのだろう。あたしの姿がちょっと見えないだけで、こんなに心配してくれるなんて。
「ごめんなさい、心配かけて」
あたしは頭を下げた。
ミリアムがやってきてあたしを抱きしめた。
「よかった、ヴィー」
ミリアムはふわりとしていて、いい匂いがする。
なんて素敵でかわいい子なんだろう。
マリアンナなんかちっとも怖くなかったけど。でもミリアムに抱きしめられたあたしは、ひどくほっとした。
あたしはきゅっと抱きしめ返してから、名残惜しいのを我慢して彼女から離れてゲインズブールを見た。
「先生。本当に話をしていただけです」
ゲインズブールは疑いの目を向ける。
いい子ぶりたい訳じゃない。
ここにはクラスのみんなもいるのだ。
詳細はいずれキンバリー先生に話すけど、表向きは大事にしたくない。
ゲインズブールはマリアンナとあたしを順に見た。
「マリアンナがヴィットーリオを騙してこの部屋に引きずりこんだところが目撃されている」
あちゃあ。
「それは間違いないか」
違うと言ったら証言した人が嘘をついたことになってしまう。その人のおかげで先生たちが助けに来てくれたのだろうに。
仕方なしにはいとうなずいた。
「で、話していただって?」
ここはそれを突き通すしかない。
「はい。アルベールと友達になりたいから協力してほしいと頼まれていただけです」
だいたい真実だ。
ゲインズブールは一息ついて、わかったと言った。
「ヴィットーリオ、その他大勢は教室に戻って授業を受けろ。マリアンナは寮の自室で処分が出るまで待機」
「なんであたしだけ!」
叫ぶマリアンナ。
「…ヴィットーリオには魔法で扉を押さえつけるなんてできない」
目撃証言と、あたしには不可能な魔法の使用と。どこから見ても、あたしが被害者なのは明白だ。マリアンナには言い逃れようがない。
「キンバリー、マリアンナを寮へ連れて行け」
先生はマリアンナに歩みより、行こう、と彼女の腕に手をかけた。
「さわらないで!」
先生の手をはねのけるマリアンナ。
ゲインズブールはため息をついた。
「ウォルフガング、守衛を呼んでこい。捕縛と言え」
ウォルフは、はいと返事をして走っていく。
「それは…」
キンバリー先生は困惑の表情だ。
「監禁は暴力と同等だ。危険と判断する」
ゲインズブールがあたしたちを睥睨する。
「お前たちはさっさと戻れ!」
あたしたちは顔を見合わせて、誰ともなくその場から離れた。
なんとも後味が悪い。
「ヴィーは悪くないわ」気づけば手を繋いでいたミリアムが言う。「ごめんなさい、あなたを見失ってしまって」
アルたちも口々に謝る。
「ううん。僕も油断してごめん。いつも誰かがいてくれるのが当たり前になっていたよ。ひとりになった途端、これだもんね。気をつけるよ」
あたし自身と、あたしの大事な人たちが傷つくことのないように。




