表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/186

1章・2 アンディとぼく2

  アルは来月から一年間、ペソア王国に留学をする。それは、シュシュノン学園に入学するまで彼に会えなくなるということだ。

 学園に入学するのが15才を迎えた後の春、つまり一年と一月後。その前に王子として他国を学んでくることになったんだそう。


 それを聞いたのが、きのう。いつものメンバーで集まっていたときのこと。

 しかも知らなかったのは、あたしだけ。アルが言うには親友だからこそ、一年も会えなくなることを言いづらかったらしいけれど。

 アルの留学、知らされたのが最後、と二重のショックだよ。


 それに会えない一年の間に、彼が恋に臆病になるような事件が起きる確率が高い。というか、絶対そうだよね?

 だってゲーム開始時にはそのトラウマを抱えているんだもん。今時点でなにも起こってないなら、そうとしか考えられない。


 アルの留学が決定事項なら、あたしにできることは一緒についていくことだと考え、きのうの晩には両親に留学を頼んだけれど。即、脚下だった。

 アルが友達がいなくては留学もできないような軟弱な王子と思われてしまうからと。


 それはあたしも嫌だ。アルは優しくて友達思いで、けれど芯のしっかりした立派な王子なんだ。誤解されてしまうのは困る。


「殿下がいなくなるのが淋しいのか?」

「さみしいのはもちろんだけど、心配、だね」

「どんなことが?」


 アンディを見る。

 女性さえからまなければ、アンディはいいヤツで、それはこの4年の間に十分わかっている。

 突拍子もないことを言ったからといって、笑い飛ばすようなことはしない。

 少しの逡巡のあと、思いきって口に出す。


「…悪い女に騙されないか」


 アンディはゆっくりひとつ、まばたきをした。


「なるほど。なにか予兆でもあったのか?」

「そういうのじゃないけど。えーと。夢。夢にみたんだ。騙されて傷つくアルを」


 だいぶ苦しい。

 アンディはもう一度、なるほど、と言ってから息を吐き出した。


「悪い手本がここにいるからかな?」


 一瞬キョトンとしてから、彼が自分のことを言っていると気づいた。


「違うよ。少なくともアンディは騙してないだろ?誠実に、いろんなひとと付き合ってるだけだろう?」


 吹き出すアンディ。

「まあ、俺はいつだって誰にだって嘘はつかないよ」

 その結果、いつかは刺されるだろうけどね!


「殿下が、たとえ王都から遠く離れた解放感にうかれたとしても、女にうつつを抜かすことはないだろうよ。まずはやるべきことをやらないと、前に進めない性格だろうからな」

「…それでも…」

「それでもヴィーは不安か。よっぽど悪い夢だったんだな」


 アンディはあたしの頭をわしゃわしゃした。

「離れている間のことはどうにもできない。留学に限らない。子供のうちはまだしも、学園を卒業すれば常に一緒にいることなんてできないんだ。心配だからついて回る、なんて無理な話だ」

 うん、とうなずく。

「けれどもお前の言うように、殿下が騙され傷ついたとしたら。知らない間のことだからと放っておくのか?違うよな。お前たちは助けるだろう?」

「もちろん」

 彼はもう一度、あたしの頭をわしゃわしゃした。


「それでいいんじゃないのか?心配だから、不安だからと先回りしたって相手のためになるとは限らない。困っているときに手を差し出せるかどうかが、重要だ」

「アンディ…」

「なんだ」

「すごく納得できた」

「そうか」

「こんな良いこと言えるのに、どうして貞操観念がないんだろう?」


 余計だわ、とげんこつが落ちる。

 痛ーいと文句を言いながらも、胸の奥がすっきりしているのを感じる。

 親友が傷つくのがイヤでなんとかしなければと考えていたけれど。でも限界だってあるのだ。アンディや両親の言うとおり、心配だからとついて回り、その結果彼の評判を落としては本末転倒だ。


 アンディはすごいな、と素直に思う。

 17才女子高生という前世の記憶を取り戻したとき、アンディとフェルは17才だったから、勝手に同級生って気分でいるんだけど。

 あたしが17で死なず、21才になったとして。たったの21才でこんな説得力のあることを言えたかな。


「アンディは大人だなぁ」

「当たり前だ。騎士団のホープだぞ」

「自分で言っちゃなぁ」


 シュシュノン学園を卒業した彼は、誰もが予想した通り、騎士団に入隊。もちろんその年トップの成績で。今月末の辞令では、小隊長に任ぜられるとの噂だ。これは異例の早さなんだとか。

 ゆくゆくは父親と同じ騎士団の長になるんだろうな。


 ちなみにフェルは卒業後、誰もが予想した通り、内務省に勤務、こちらも異例の出世をしている。

 うーん。この二人でも乙女ゲーム作れるよね。


「で?」

「『で?』」

「殿下のことだけじゃないんだろ、悩み」

「うわー、本当に千里眼?」


 その通り、もうひとつ、頭を悩ませていることがある。


「ついにその時が来たんだよ!」

「その時?」

「そう!」


 思わず拳に力が入る。


「はじめてのお茶会出席!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ