2章・15対決 1
学校にいる間。どういう訳か、あたしは一人きりになることがない。いつも誰かしらが隣にいる。休み時間だろうが、放課後だろうが。
最初はバレンを、次はマリアンナを警戒していたからだとは思うけど。なぜかいまだにその状態だ。
先日キンバリー先生と密談したときだって、なぜかウォルフが医務室までついてきた。その先にある職員室に用があったみたいだけど。
それがどういう訳なのか。突然違う世界にでも来たのかな、というくらい、唐突にひとりぽっちになった。
移動教室での授業を終えて、自分のクラスへ戻ろうというとき。急に教師に頼まれて、見本の用具を準備室にしまって外に出たら、ミリアムもレティもアルもジョーもウォルフもいなかった。
クラスの子もいない。
珍しいこともあるものだ。
なんだかとんでもなく新鮮な気分になって廊下を曲がったら、うずくまっている女子がいた。
見間違いようのないピンクの髪。マリアンナだ。
しょうがない。
「どうしたの?」
のぞきこむとお腹を押さえているようだ。
「お腹が痛い?」
うなずくマリアンナ。
「医務室に行こうか」
彼女を立ち上がらせて肩を支える。
以前、ウォルフは颯爽と抱き上げて運んでいたっけ。
同じ年の男子なのにかっこ悪いなあ。
そんなことを考えながらよたよたと歩いていると。
突然マリアンナが空き教室の扉を開けて、とんでもない馬鹿力であたしを引きずりこんだ。
驚く間もなく扉は閉められ、その前にマリアンナが立ちはだかった。
「…お腹は?」
「お人好しね、ヴィットーリオ」
どうやら仮病だったらしい。
「あなた、転生者でしょ?」
マリアンナは前置きもなく、直裁に言った。
どうしよう。とぼけるべきか、認めるべきか。でもなんでわかったのかな。
「あたしだって馬鹿じゃないの」
マリアンナは返事を必要としてないらしい。
「なんでこんなにゲーム通りにいかないのか、考えたわ。あたしが違う行動をとっただけで、ここまでこじれるなんておかしいもの」
なるほど。彼女もちゃんと考えていたんだ。
「最初はゲインズブールかと思ったけど、あれはただの魔法オタクの変態ドSね」
おお。新しい称号がついたぞ。
「絶対に主要キャラの中にいるはずだと思って、カマをかけたのよ。配役決めのときに、わざとあたしが転生者だとわかるように発言してね」
…なるほど。あたしもキンバリー先生も彼女を甘く見すぎてまんまとワナにはまってしまったわけだ。
「まさか救護医が釣れるとは思わなかったから焦ったけど。あのモブですらない年増がアルベールとあたしの邪魔をする理由なんてないもの」
…ほんと、マリアンナは好きになれないな。
「考えたわ、誰があの救護医と繋がっているのか。入学してからこっち、あたしの邪魔ができたのは誰か」
マリアンナは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あなたの大事なお兄さん、あの救護医の元カレなんですって?仲良く三人で医務室でお茶をしてるって聞いたわ」
三人でお茶をしたことなんてない。この間の密談の時に、お迎えに来てもらったことが間違った噂になっているのだろう。
あぁ、イライラする。
「それであなただってわかったの。ねえ、ヴィットーリオ。あなたの中身は女でしょ?顔だけじゃなくて喋り方も女っぽいもの」
「…さっきから、何を言っているのかわからないな。女っぽい喋り方で悪かったね」
決めた。絶対に転生者だとは認めない。
「シラをきったってムダよ。わかってるんだから」
その自信はどこから来るんだ。
「同じ転生者でしょ。あたしに協力をしなさい」
あまりの超展開にポカンとする。
どうしたら、ヴィットーリオがマリアンナに協力すると思えるんだ。大事な妹や友人を悪役令嬢にしてしまう危険があるというのに。
「協力しないのなら、あたしにも考えがあるの」
まるでマリアンナが悪役令嬢だ。
あれ…?
「まずあなたが転生者で中身は女だってみんなに知らせるわ」
そんな荒唐無稽な話を誰が信じるかな。
ていうかこのシチュエーション、マリアンナが悪役令嬢にやられるやつじゃない?
確か助けは現れなくて、酷い暴言を受け、取引を持ちかけられる。泣きながら部屋を出たところで、攻略対象に会う…って展開だったはず。助けの求め方によって、クリスマス会の展開が違った気がする。
彼女、気がついていないのかな。
「聞いてる?それからあなたのかわいい妹に何か起こるかもしれないわよ?あたし魔法で事故を起こせるの」
次に問題を起こしたら死罪でしょ?と言いたいのを我慢する。彼女はあたしがそこまで知っていると思っていないのだろう。
「もちろん、あなたが事故にあう可能性もあるわね」
「つまらない話だね」
マリアンナの顔色が変わった。




