2章・12噂 1
またまた居残りをさせられたウォルフとあたし。ゲインズブールに指示されたのは大量のプリントを冊子状にまとめること。それを50組。
しかもどう見ても授業とも学校とも関係なさそう。これ、完全に職権濫用だよね。
でもクラス委員を手下呼ばわりするゲインズブールだ。抗議したってムダ。この半年ほどの間にあたしたちは学んだのだ。諦観とも言うかもね。
向かいあって適当な話をしながら作業する。
今日決まったばかりの配役については、なんとなくお互いに触れない。
いくらあたしが美少年だって、男子と恋人役なんて気分がのらないだろう。
あたしのせいじゃない(と思いたい)けど、申し訳ない。
そんな中で。
「お前、またブルトン小隊長と休みを過ごしたのか?」
ウォルフの質問に驚く。確かに一昨日も一緒に半日街歩きを楽しんだけど。ウォルフには会ってない。
「そうだけど。ミリアムに聞いたの?」
いや、とウォルフは黙りこんだ。
「…騎士団とか予科練で、けっこう噂になっているんだ。あの人がこんなに長い間恋人がいないのは初めてじゃないかって」
あたしの質問には答えずに、ウォルフはそう言った。
そうなの?と尋ねると、ああ、と頷きが帰ってきた。
これは暗に『ブルトン小隊長は忙しいんだ』というお説教なのかな。
「僕も、僕とばかり遊んで大丈夫かなのかなとは思っていたんだ」
「本当、大丈夫じゃないよな。どうするつもりなんだろう」
ん?ウォルフの言い回しに引っ掛かって、手を止めて顔をあげる。
「どうするつもり、ってどういうこと?アンディ、大丈夫じゃないの?」
「いや」
明らかに狼狽えるウォルフ。
「そ、…そういえば、あの人はなんで婚約者に逃げられたんだ?確かにちょっと遊びは過ぎるけど、結婚相手としてはかなりの好条件だよな。お前は知っているのか?」
これははぐらかしているよね?
それでもあたしは質問に答えた。
「…アンディとはやっていけないって置き手紙をして若い侍従と逃げちゃったんだよ」
ただ、なんで『やっていけない』と判断したのかは分からない。
だけど実は心当たりがひとつある。
「もしかしたら…」
「もしかしたら?」
「僕とミリアムのせいかもしれないんだ」
ウォルフも作業の手を止めてあたしを見た。
アンディもフェルも関係ないと言ってくれたけれど。ずっとあたしは気になっている。あの人は、双子に嫌気が差して結婚をする気になれなかったのではないか、と。
「どういうことなんだ」
とウォルフ。
あたしは。この二年半、しまいこんでいた後悔を、話すことにした。手にしていたプリントを机に置く。
「あの人とは、婚約してから式までの一年間で三回会ったんだ。
アンディがうちに連れてきて、僕たちにも紹介してくれた。アンディの奥さんになる人だから、僕もミリアムもお姉さんができるつもりになってたよ。
優しくて綺麗な人だった。
最初は婚約直後に来て、僕たちの質問攻めにもちゃんと答えてくれたし、一緒に遊んでもくれたよ。
二回目がフェルの誕生日。アンディと二人で選んだプレゼントを持って祝いに来てくれた。エレノアもいて、六人で楽しく過ごしたんだ。
僕もミリアムももっと遊びに来てほしかったけど、シュタイン家に嫁ぐわけじゃないからってアンディは言ってた。それがアンディの意見だったのか、あの人の意見だったのかは、わからない。
最後に会ったのが式の三日前。アンディが、式用の礼装が出来上がったって話をしててさ。フェルがあの人のウェディングドレス姿は美しいだろうね、なんて言ってたんだ。僕とミリアムは調子に乗って、見たいってアンディに頼んじゃったんだ。
だって僕たちは子供で、いくらアンディが兄みたいでも本物の兄じゃない。式には参列できなかったんだよ。
僕たちが一生懸命頼んだら、出来上がったドレスの試着をするだろうからって、あの人の屋敷に連れて行ってくれたんだ。
向こうのご家族がどう思ったかはわからないけど、試着をしたあの人に会わせてくれたんだ。
すごく綺麗だった。僕もミリアムも感動してテンションが上がっちゃって。だいぶうるさくしちゃったと思う。あの人の顔が強ばっていたのを覚えているよ」
それがあたしのたったひとつの心当たり。
「その二日後にいなくなっちゃった。だからさ、結婚するのはアンディなのに、関係のない双子にまとわりつかれるのが嫌だったんじゃないかな。挙げ句に式前にドレス姿まで無理やり披露させられて。それで逃げてしまったんじゃないかと思うんだ」
「…だからお前、ブルトン小隊長の結婚を気にしているのか。キンバリー先生とくっつけようとしたりして」
「…うん」
アンディには幸せになってもらいたい。それなのにあたしたちが、その機会を壊してしまったのかもしれない。
ウォルフはため息をついた。
「どうせそんな結婚、上手く行かなかったぜ、きっと。すぐに離婚したに決まっている」
「フェルもそう言うんだ。でも、そんなことないよ。アンディは優しいし頼もしいし心も広いし、きっといいだんなさんになってたはずだよ」
「…そりゃ、『弟』から見たら、だろ」
ウォルフガングはまたまたため息をついた。
「しかしそうなると、どうなるんだ?婚約者に未練があるのか?そうには思えないけど」
一人で考えこむウォルフ。
「ねえ、なんなのさ。『大丈夫じゃない』って、どういうこと?気になるよ。僕はちゃんと自分の恥を話したよ」
ウォルフはあたしを見る。
「恥だと思っているのか、お前は」
「だってそうじゃないか。僕たちが式前にドレス姿を見たいなんて騒がなければ、あんなことにはならなかったかもしれないんだ」
あの日のあの人の顔は、結婚式を心待ちにしている新婦の顔ではなかった。フェルと結婚するエレノアの表情を知ってから、そのことに気がついたんだ。
「バカだなあ」
ウォルフは手を伸ばしてあたしの頭を撫でた。
「…それ、嫌い」
「え?」
「僕、ウォルフと同い年。子供扱いされているみたいで、嫌い。ごめん」
本当はずっと言いたかったんだけど、ウォルフを傷つけたら悪いと思って言えなかった。
「…そうか」
やっぱり、傷ついた顔をしている。
「ごめん」
「いや、オレこそごめん。別に子供扱いしている訳じゃないぞ?」
「…うん」
「でも、…そうか」
黙りこむウォルフ。
読んで下さって、ありがとうございます。
以下、個人的な呟きです。
ご興味のない方はお読みにならなくても、小説に影響はありません。
今さらのカムアウトで申し訳ないのですが、小説を書き上げたことがありません。
今回こそ最後まで書こう、矛盾のないようにしよう、と思っていたら、予想外の長編になってしまいました。
章を計画的に立てたり、一回の文章量を調節することもできません。
素人の書いたものなので、気に入らない展開もあるかと思います。
どうか暖かいお気持ちでお付き合いくださると、嬉しいです。
また、書いたものがたまってきたので今月中の土日は21時・22時のアップにしようかと思っています。
同時間に複数アップするのは難しいようなので、時間が空くことをご容赦ください。
では、長々と失礼しました。




