幕間・王子と仲間
第二王子アルベールの話です。
「ヴィーがジュリエットをやるって?」
お茶のカップ片手にバレンが本日最大の問題点をついてきた。ヤツは僕の私室で尊大な態度で足を組んでいる。ほんと、王子のくせに態度が悪い。
「耳がはやいな」
とジョー。こっちはヴィーのジュリエットに多大なる期待を寄せてニタニタしている。
「学年中、知らないヤツはいないぞ。とんでもない勢いで話が回っていた」とバレン。「おもしろそうだ」
「大丈夫なのかな」
と僕。ヴィーに女性の格好をさせるなんて。
「兄さまは喜んでいるわ」
ミリアムの言葉に驚く。
「もう伝えたのか」
「ええ。喜ぶと信じていたけど、念のため、ね」
「フェルが喜んでくれたなら良かったわ」
とレティ。
「俺は俺とレティでもいいかと思ったけど」とジョー。「婚約者同士でロミジュリをやると破談になるってジンクスがあるらしいぜ」
「わたくしも聞いたわ」
と顔を赤くしたレティが小声で追従する。
「そうなの?」とミリアム。「よかったわ、あなたたちに決まらなくて」
「…こんな形でしか喜ばせてあげることができなくて」
僕はミリアムを見る。
「本当にごめん」
目を見はるミリアム。それから彼女は目を伏せた。
「…」
「お前は努力してるだろ」
とバレン。クッキーをバリバリ食べている。まさかこいつに励まされる日が来るとは。
「それにウォルフガングは棚ぼただろ?みんな喜んでマルチハッピーじゃないか」
「ヴィーは呆然としてたけどな」とジョー。
「男らしくなりたいのですものね」とレティ。
「アンディは大丈夫か?もう伝えたのか?」とジョー。
ミリアムは首を横に振った。
「どう反応するか読めないな」
レティもそうねと同意する。
「そういえば」とジョーが僕を見る。「あの噂は…」
それから彼はミリアムをちらりと見た。
「…やっぱいい」
「なんだ、気持ち悪いな」とバレン。「最後まで話せ」
「悪い、勘違いだった」
ジョーが言いかけたことがわかった。最近噂になっているアンディの件だろう。ミリアムに聞かせていいのか迷ってやめたんだ。
なんだかんだ彼女はアンディが好きだし、彼女が知ればヴィーも知ることになる。
あとで本人に、自分の口から双子にきちんと説明をしておけと、話しておこう。
「二組は何をやるんだ?」とジョー。
「お化け屋敷」とバレン。
「お化け屋敷?劇じゃないのか?」
「そうなんだ」仏頂面のバレン。「あれはやるものじゃない、行くものだぜ。けど、凄く盛り上がってな。ま、そういう訳だから、お前たち絶対に来いよ」
「おー、楽しそう」とジョー。
女子組は顔を見合せている。
「怖くない?」とミリアム。
「怖くなかったらお化け屋敷じゃないだろ」とバレン。
「絶対来い。来なければヴィーを苛める」
ぷっと吹き出すジョー。
「なんだその脅迫」
「卑怯だわ」とミリアム。
「全員来れば問題ない」
「わかった、行くよ。みんなで」
僕が言うと、バレンはニヤリとした。
「実は予約制なんだ。お化けだって他の組を回りたいからな。オットー!」
バレンは自分付きの侍従を呼んだ。
「4人の名前をさっきの予約表に適当に書いておけ」
「かしこまりました」と侍従。
「せっかちね」とレティ。
侍従は表情を変えないまま、
「ペアはレティシア殿下とジョシュア様。ミリアム様とアルベール殿下、でよろしいでしょうか」
「もちろん。今すぐ書いて来い」
侍従はすぐさま下がる。
「ペア?って何だ?」とジョー。
「入場はカップル限定だ。同性でもカップルですって言ってくれれば入れるけどな。お前たちはごまかしようがないだろ?」
またまたニヤリとするバレン。
はめられた!
ジョーは負けず劣らず悪そうな笑みを浮かべ、レティは真っ赤、ミリアムは固まっている。
「やっぱりやめるよ。ミリアムも困るだろ?」
「王子のくせに前言を翻すのか?」
「そうだよアル。せっかくなんだから文化祭を楽しもうぜ」
「ミリアムもたまにはアルベールに付き合ってやれよ」
バレンの言葉にミリアムはうつむいた。
「わたし、ヴィーと行くわ」
盛大にため息をつくバレン。
「ヴィー、ヴィー、なんでもヴィー。いい加減にしろよ。あいつはお前がいなくても学校を楽しんでるぜ」
レティの顔が途端に険しくなる。
「バレン。あなたに口出しをする権利はないわ」
バレンは肩をすくめた。
「体育祭、見ただろ。アルベールとミリアムが優勝したときのヴィー。あんなにバカみたいに喜んで。なのになんでペア賞を譲ってるんだ。お前がしてるのはヴィーに余計な心配かけさせることだぜ?あの後の片付け中、あいつがどれだけ気にしていたか知らないだろ?」
僕とジョーは顔を見合わせた。
片付けは委員がしたので、僕たちはその状況を知らない。
確かに賞を譲るとミリアムが言い出した時にヴィーは驚き、僕と行くように勧めてはいたけれど。そこまで後を引いていたとは、思いもよらなかった。
「お前らも」とバレンは僕たちを見た。「ちょっとは考えろよ」
バレンはそう言うとまたクッキーを取ってバリバリと食べた。
僕たちはずっと五人でうまくやってきた。
でもウォルフガングがやって来て、バレンが続いて。五人だけの世界ではなくなった。
僕たちは外から見ると考えが足りないのだろうか。
「…ヴィーはそんなに心配していたの」
顔をあげたミリアムは泣きそうな表情だった。
「心配してたぜ。俺は耳に入っただけだがな。ウォルフガングが必死にフォローしていた」
「…ヴィーにわたしのことで、心配させたくないわ」
ミリアム、とレティが親友の手を握りしめる。
ミリアムの目に力が宿った。
「もう少し、気をつける。バレン、ヴィーがわたしのことを心配していたら、また教えて」
はっきりとした声だ。
「またヴィーが基準だ」バレンは呆れたように言ったがすぐに続けた。「でも、いいぞ。少しは前進だ。とりあえず、お化け屋敷はアルベールと来いよ」
ミリアムは、うんと頷いてから慌てて僕を見た。さっきまで泣きそうだったから、目尻が赤い。
「アル、わたしと一緒でいいかしら?」
「もちろん」
答えてからバレンに目をやると、ニタニタと笑っている。
…こいつ、やっぱりムカつく。
覚えておけよ。お前がうろたえるような仕返しを絶対にしてやるからな。
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次回、本編に戻ります。




