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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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幕間・王子と王子

第二王子アルベールのお話しです。

 自称お節介のヴィーにバレンと強制的に仲直りをさせられた。

 でも正直なところ、ようやく胸のつかえがとれた気分だ。近頃、あいつがそれほど嫌なやつではないと気づいていた。ただ、ペソアでの出来事やら何やらは黙って忘れられるものではなかった。恐らく、向こうも同じ考えだっただろう。


 車回しでそれぞれの馬車に乗ろうとしたところで。なぜかバレンが僕の上着の裾を引っ張って、物言いたげな顔をした。

 さりげなさを装って、ヴィーの馬車を見送って。それが見えなくなったところで、バレンは僕の馬車を顎で示した。


 馬車でバレンと二人きりなんて、いつぶりだろう。とにかく険悪な雰囲気が嫌で、なるべく避けてきた。それはきっとお互いさまだ。


 扉が閉まり、馬車が動き出すとすぐに。

「用件はなんだ」と僕は切り出す。

 ヴィーに知られず、侍従にすら聞かれたくなくて僕の馬車に乗り込んだのは明白だ。


「ずっと話すか迷っていた。この機会に言っておく」


 さっきまでの医務室で。バレンは意図的に話さなかったことが二つあった。

 ひとつは、それを口にしなかったことに心底感謝している。もうひとつは、なぜその些細なことを誤魔化したのか、不思議に思った。

 そのことなのだろうか。


「俺は留学が心底憂鬱だった。歓迎されるはずがない。予測しているだろうが、俺の使命は勉強じゃない」

 その言葉に驚く。

「…いいのか口にして」

「どうせ皆わかっているだろ?」

 まあな、とうなずく。

「それが着いたとたんにヴィーのあの間抜け面だ。気が抜けたよ」

「…ヴィーは昔からああなんだ」

「あの間抜け面には、助けられた。一人で気負っているのが馬鹿らしくなる。ま、全体的にこの国は緩いな」

「ペソアに比べれば小国だ」


 ペソアは王宮も学院も厳格な階級社会だった。シュシュノンもそうだと思っていたが、あちらに比べれば、のどかなものだ。


「俺の使命は三つある」

「三つ?」

 二つはわかる。だがバレンは、三つ、と繰り返した。

「二つは予測しているだろ?」

 僕は頷く。

「とはいえ、」と僕。「どこまでを、は、わからないからな」

「ひとつ目は、ただの探り。二つ目、マリアンナの方は、強奪して帰国予定。そうしなきゃ俺はろくな領地がもらえない」


 あまりにはっきりとした物言いに警戒する。こいつは悪いやつではないと思う。だけれど他国の王子だ。すべてを信用してよいのかはまだわからない。


「どうやって連れて帰るつもりだ。彼女は王家と契約している。自己都合で破れば死罪もありうる」

「そこは俺の腕の見せ所?うちのイチオシのシナリオは、恋仲になってお情けで譲ってもらうっていう流れ」

「は?無理だろ。誰がやるか。お前たち、馬鹿なのか?」

 なんだそのおめでたいシナリオは。それともシュシュノンの国王はそんなにお人好しと思われているのか。


「こっちも切羽つまっているんだ。大師は高齢な上、後に続く魔力の持ち主もいない」

「贅沢だな。シュシュノンに比べればわんさかいるだろうが」

「シュシュノンに比べれば、な。だが満足いくレベルではない。まだ若いマリアンナは未知数だ。大師が元気なうちに欲しいんだよ。長い間、大師の癒しに頼ってきたから怖いんだろうな」


 なんだかなあ。我が王室も何人かの《癒す者》を有しているけれど、そこまで依存はしていない。


「でも、あれではな。まったく口説く気になれん!」

 そりゃそうだ。思わず苦笑がこぼれる。

「あんなのと結婚したら俺の人生は終わる。だが連れて帰らなくても終わる」

「…どうするつもりだ」

「まったくわからん」

 力強く断言するバレン。

 こいつはこいつなりの苦労がある。ペソアであんなに毛嫌いしていたのが嘘のように親近感を感じる。


「この八方塞がりの中で、ヴィーは唯一の俺の楽しみだ」

「ヴィーはお前のおもちゃじゃない」

 わかってるさ、とバレン。

「でも、おもしろいじゃないか。素直で裏表がなくてバカでガキで」

「…親友としては否定したいんだけどな」


 バレンの顔を見つめ逡巡する。敵か味方か。少なくとも、ヴィーを気に入っているのは真実に思う。


「…昨年の秋にヴィーが強盗に襲われたことを知っているか?」

「ああ、誰かから聞いたな。ウォルフガングが颯爽と助けたとか」

「颯爽かどうかは知らないけれど」思い出すだけで背筋に冷たいものがはしる。「いなければヴィーは殺されていたかもしれない」

 バレンの表情が変わる。

「これは機密事項だ。表向き『強盗』と称しているが、犯人は確実に騎士として正規の教育を受けている」

「…待て、捕まっていないのか」

 黙って頷く。

「都外のこととはいえ、数名の民間の騎士が追撃したのに逃げられた。犯人二人の内ひとりは、深手の怪我をしていたにも関わらず、だ。そして犯人は一度だけだが、ペソア語を口にしている」

 バレンは二度、瞬いた。ペソア語…と小声で繰り返す。

「無論、ペソアの騎士崩れがこちらに流れてきた可能性もある。だがそうでない可能性も、ある。心当たりはあるか」

 バレンは押し黙り、握りしめた拳で口を叩きながらなにやら考えこんでいる。

 これが演技だとは思えない。ペソアが関わっているかもしれないことを、本当に知らなかったのだろう。それがわかっただけでもひとつ前進だ。

「…調べてみる、と言いたいところだが」とバレン。「俺はここにいるし、向こうに信頼出来る者も残っていない」

 バレンは無念そうに見える。

「いや、いい。下手につつくつもりはない。ペソアとシュシュノンの友好関係は壊せない。あの事件以降、不審なことも起こっていない」

「…だからヴィーのガードがあんなに強固なのか」

「…まあ、そうだね」


 バレンは窓の外を見た。そしてまずいと呟いた。

「もう道半ばだ。こっちの話を進めるぞ。これこそ誰にも聞かせられない。俺の三つ目の使命だ。それ自体は全く重要ではないのだがな」


 それからバレンが早口で話した使命と、それを果たしながら彼が予測したことは、とてもではないが信じがたいことだった。

 


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