2章・7 お見舞いとお説教と2
さてさて次はお説教。
と先生は楽しそうに言う。
「どうせ、『あたし情けない。もっと強くなる』って考えているんでしょう?」
びっくりする。
「先生、超能力者!?」
あははと笑う先生。
「そんなの丸わかりだよ。ヴィーちゃんより一回り以上長く生きているんだよ?9年教師やってて、どれだけの生徒を見てきたと思ってるの。そういえばヴィーちゃん、前世の享年は幾つ?」
17と答えると先生は、花の女子高生かとちょっとだけ気の毒そうな顔をした。
「そうなると、今の精神年齢は…」
「23」
「あはは、全然下!まだまだお子さまだね。先生なんて44歳。完全にオバサンだよ」
「ええっ。なんかわからないけどショック!」
だってこんな素敵美人なお姉さんなのに。お母さんと娘と言ってもいい年齢差じゃん!
「だからね、ヴィーちゃんの考えなんてお見通しだよ」
「…でも、本当に情けないよ。なんとかしなきゃいけないのに、体が言うことをきいてくれないなんてさ」
「あのね。他人に言えることじゃないから仕方なかったけど、なんでもひとりで解決しようなんて考えが大間違いだからね。人間誰でも、できることとできないことがあるの。できないことは他人の力を借りていいんだよ」
先生の言うことはわからないでもないけど。
あたしは大好きな人たちを守りたい。
「言ったよね。ヴィーちゃんがみんなに怪我をしてほしくないと思うように、みんなもヴィーちゃんに怪我をしてほしくない。ヴィーちゃんがみんなを守りたいと思うように、みんなもヴィーちゃんを守りたい。ヴィーちゃんがゲーム展開を知っていても、この世界の人間ってことはみんなと同じなの。『あたしがみんなを守る!』ってひとりで抱えこむのは驕りだよ」
「…驕り?だって、」
反論しようとして、口ごもる。今回、あたしがしたことはなに?不安を抱えきれなくなって身体に異変をきたし、みんなに心配をかけた。
結果的に事故現場に居合わせなかったけれど、あくまで結果。
じゃあ他にどうすればよかったんだろう。
「先生。あたし分からないよ。大事なみんなのために何もできなかった。悔しい。情けない。それだけだよ」
「ヴィーちゃん」先生はこぼれたあたしの涙を手でそっと掬いとった。「ヴィーちゃんが具合が悪くなってみんな心配したよね」
うん。申し訳なくてしょうがない。
「心配するあまり、授業をさぼって帰ったよね。なぜだかウォルフガングまで。あの生真面目が。あれは評価に響くよ」
本当に申し訳ないことをしてしまった。
「それがヴィーちゃんの力だよ」
「え?」
いつの間にか俯いていた顔をあげて先生の顔を見た。
「いつだったかミリアムがちゃんと君に伝えていたよ。『ヴィーが素敵な子だから、素晴らしい人たちが友達になってくれたんだよ』って。みんなヴィーちゃんが大好きで心配だったから、帰った。結果的に事故から遠ざけられた。これだって十分、ヴィーちゃんの力だよ」
「そんなの。かっこわるいよ。ただストレスで具合を悪くしただけなのに」
「かっこ悪くて何がいけないの。ヴィーちゃんは格好つけたくてみんなを守りたい訳じゃないでしょ。かっこ悪い、上等。常日頃24時間かっこいいなんてあり得ないよ」
やっぱり先生は結果オーライ説だ。
でもな。
それでも、いいのかな。
確かに格好つけたい訳じゃない。
「今度からは先生も相談に乗れるよ。だからひとりで何でもしようと思わないこと」
はい、と答えようかな、と思っていると。
「ぶっちゃけ、迎えに行ったのはアンディの頼み」
「ええっ!」
フェルじゃあるまいし。アンディがそんなことを頼むとは思えない。
「マリアンナがまずいことを企んでいそうと伝えたからね。ミリアムたちの方は騎士団がいたけど、ヴィーちゃんは一切守りなしだったでしょ?だからだよ。もちろん、バイト代はがっつりもらった」
それから先生は立ち上がってあたしの頭を撫でた。
「ヴィーちゃんが怪我でもしたら、バイト代がでないとこだったよ。君には超絶過保護なお兄さんたちがいることも、忘れないようにね」
先生は椅子を元の位地にもどしながら、アンディの件は本人にも内緒ね、と言った。
「彼は彼でかっこつけたがりだから。フェルディナンドみたいに心配していたなんて、知られたくないんだよ」
「…うん」
昼間のアンディは何も言ってなかった。ただ頭を撫でてくれて、元気になったら美味しいご飯屋さんに連れてくと、約束してくれただけだ。
でもそんなに心配してくれてたんだ。なんだか申し訳ない。
でもでも。
これってあたしがみんなに隠れて心配してたのと一緒だ。先回りしてこっそり対策たてようとしたのも一緒。そうか。
と、扉がノックされる音がして、ひょこりとミリアムが顔を出した。
「キンバリー先生が来てるって…」
とまで言って、きゃあ!と悲鳴をあげる。
「先生、きれい!」
先生は声をあげて笑った。
「さすが双子。最初の一言が同じだよ。ていうか普段の先生はそんなにきれいじゃないのかな?」
「違います!」
との言葉までミリアムとあたしでハモる。
「やっぱり君たちはおもしろいなあ」
それからしばらく三人で他愛もない話をして。キンバリー先生がそろそろ帰るかなと腰をあげたところで。
「先生、ありがとうございます」
と丁寧に頭を下げた。
あたし、守らなきゃ、なんとかしなきゃ、という思いにがんじがらめになっていた。
先生と話をして、自分の視野の狭さに気づけた。
この感謝の気持ちが伝わるといいけど。
キンバリー先生は例のにやりとした笑みを浮かべた。
「もちろん、このお礼はたんまりもらうからね。ヴィーちゃんが倒れたおかげで、マーブルマフィン、一個しか食べられなかったんだから!」
「元気になったら山ほど献上します!」
よろしい、と先生は鷹揚にうなずいた。




