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1章・1 取り戻した記憶 6

◇◇


それぞれの屋敷に帰っていくシュシュノン兄妹とジョーの馬車を見送っていると、入れ違うようにうちの馬車が一台帰ってきた。


扉が開いて降りてきたのは…


「兄さま!お帰りなさい」


ミリアムの言う“兄さま”とはあたしのことではない。シュタイン公爵家長男のフェルディナンドだ。

あたしたち双子と同じ銀髪に、母親譲りの空色の瞳。表情がないと酷薄そうに見えてしまう、完全無欠のクール系美青年。


それと。


「アンディさま、いらっしゃい」


あたしは兄に続いて降り立った青年に挨拶をする。

フェルの親友であるこの青年は、アンディ・ブルトン。ブルトン公爵家の長男で、父親は騎士団長だ。

柔らかそうな栗色の髪にグレーの瞳。色合いはやや地味ながらも精悍な顔立ちは均整がとれて彫刻のよう。

何より鍛えぬかれた体躯は、社交界のお嬢様方の、触ってみたいお体ナンバーワンだとかなんだとか。


そんな親友の影響を受けて、剣術および筋トレに励むフェルも細マッチョで。

二人並んで立つと、堂々たる雰囲気にどこぞの軍人かしらと思うほど。


でもまだたったの17才。シュシュノン学園の2年生なんだよね。

けっこうなイケメンコンビだけど、ゲームには登場してなかった。年が離れているからかな。ミリアムたちの運命に無関係なぶん、気を抜いて接することのできる人たちだ。


あたしたちいつメンファイブもしょっ中(というか今は毎日)集まっているけど、この人たちもいつも一緒。

学園は地方出身の生徒用に寮もあるけれど、通える範囲内に住んでいる生徒は自宅から通学していい。だからフェルも実家住まいなんだけど、こうやって頻繁にアンディが遊びにくる。またはフェルが遊びに行っている。


ちなみに。アンディの妹エレノアとフェル、夏に婚約するんですって!相思相愛だそうで、ミリアムにが言うには、『近頃のフェルは鼻の下が伸びきって、クールなイケメンが台無し!』らしい。


「殿下たちの馬車とすれ違ったようだけど」とフェル「今日も来ていたのかい?」


そうだとうなずけば、


「毎日の日課、ちゃんとこなせているのか?」


と苦笑した。

あたしたちだって、毎日家庭教師にたくさんの勉強をさせられているのだから、王子・王女となればもっと習うべきことはあるだろう。


「まぁ両陛下がお許しになっているなら心配ないだろ」

とはアンディ。そしてあたしの頭にポンと手を置いた。


「それよりこっちのほうが、まずいんじゃないのか」


アンディの視線を追うと、さぼった魔法の先生が密やかに立っていた。その顔には疲れが色濃く出てる。

うわー、諦めて帰ったのだと思っていたよ!

ええっと。


「…ごめんなさい」

ぺこりと頭を下げると、先生は長ーいため息をついた。


「さぼったぶんの宿題を出しますよ。先ほどウェルトンに表紙が破れてしまった本を渡しましたから。それを直せるようにがんばってくださいね」

「はーい」


修復魔法は以前のヴィーが唯一使えた魔法で、本やカップなら元通りにできたんだ。


約束に安堵した先生が帰ると、アンディは再び手をあたしの頭に置いた。で、わしゃわしゃっと髪をかき乱す。


「魔法なんて使えなくても死にやしない」

「…うん」

「お前は大丈夫だよ」

「うん」


よし、とアンディは笑った。その横でフェルとミリアムが複雑な表情をしている。

アンディはなぜか二人にも、大丈夫だよ、と力強く言った。


あたしは大丈夫。

心の中で繰り返してみた。

ぼく、ヴィーは大丈夫。



なんだか状況は複雑で。

ゲームの世界に転生してるわ。身体は男の子だわ。

妹と友人には悲惨な運命が待ち受けてるわ。

親友はトラウマを抱える予定だわ。

ついでに使えていたはずの魔法も使えなくなった。



でも、大丈夫。

新しい命を大事に、後悔ないように、生きぬくよ。

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