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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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2章・6遠足 2

 授業はサボることにした。

 あたしが車酔いになり先生が介抱する、という口実で。

 適当に人目につかない場所を探し、倒木に並んで腰を下ろす。しばらくお互いに探り合いの顔をしていたけれど、先に口を開いたのは先生だった。


「それで、ヴィーちゃんも前世の記憶があるの?」

 うなずく。

「さっき“あたし”って言ったね」

 つい出てしまったのだ。

「前世は女の子?」

 またうなずく。

 先生は、そうかと言って長く息を吐いた。なるほど、と何度も繰り返す。

 そして。

「うん。腑に落ちた。ヴィーちゃん、かわいいもんね。中身が女の子なの、納得だよ」

「…一応本気でかっこいいを目指しているんですけど、全然ダメで」

「いいよ、そんなの目指さなくて。ムリしたって精神病むだけ」

 先生はあたしの手をとって握りしめた。

「ヴィーちゃんは今のままで大丈夫。みんなそう言ってるでしょ?」

「…はい」

「いつ、前の記憶を取り戻したの?」

「10歳です。頭を打った拍子に」

「そっか、そっか。気づいたら男の子になっていて混乱したんじゃない?」

 なんでわかるんだろう。頷くと、先生はだよねーと、握る手に力をこめた。

「大変だっただろうね。よくこれまでがんばってきたね」

「でも男の子でよかったこともあるし、大丈夫です」

 男の子だったからアンディが弟として遊んでくれるし、ウォルフガングと友達になれた。

「でもそういってもらえると、なんかほっとします」

 きっと。大変なのは先生のほうだ。だってさっき『前世の罰』と言ったのだ。深い事情があるに違いないよ。

「先生は?」

「私はね、お腹に槍が刺さって死にかけたとき。6つだったよ。前世も女」

 でさ、と口を挟む間もなく先生は続ける。

「ゲーム『シュシュノン学園』って知ってる?」

「知ってます!やってました。先生も?」

 先生はうん、と頷いた。

「じゃあ今日のイベントは」

「対策はとってあるよ。ぬかりはない」とにやりと笑う先生。「アンディを説き伏せてアルベール、バレン、ジョー、ミリアム、レティに二人ずつ護衛がついているようにさせた」

「先生すごい!」

 なんかねえと先生は頭を掻いた。

「マリアンナもそうじゃないかと思うんだ。前世の記憶持ち。私は嫌われているから、まともに話ができないんだけどさ。行動を見てるとそうとしか思えない」

「僕はゲインズブールかもと考えたんですけど」

「ないない。あれは本物のただの下衆。魔法のことしか頭にないから。とりあえず口八丁でマリアンナだけゲインズブールの特練にさせて、みんなから離れた場所へ行かせてる」

「すごい!」

「ゲインズブールは本当にただのオタクだから。その辺つついてやれば、簡単に操れるよ」

「え、やっぱり先生がラスボス?」

 なにそれと先生は笑う。


 ただ問題はマリアンナだけじゃない。今日起こるイベントはかなり危険なものなのだ。

 ゲームではランダムに三パターンの中からひとつ、モブ生徒の魔力の暴走による事故が起きる。

 湖の水が巨大な蛇のようになり、攻略対象を飲み込む。

 大風に大木が倒れ攻略対象を下敷きにする。

 数十の火球が攻略対象につぶてのように襲いかかる。


 対象は主人公が選べる。これまでにうまく親密度が上がっていれば、対象を魔法で助けられてますます親密度アップ。そうでもなかった場合、主人公は助けるのに失敗し親密度が大幅ダウン。この場合攻略対象は教師陣が助けることになっている。


 本当は怖くて怖くて。すごく胃が痛いのだ。助かるにしても、みんなにそんな恐ろしい目に遭ってほしくない。

 それに今までのマリアンナの行動を見ていると、恨みからミリアムやレティを巻き込む可能性だってある。


 しかも事故の原因になる子もわからない。

 わかっているのはこの事故がお昼ご飯後に起こるということだけ。ゲーム内でそんなセリフがあるのだ。だからあたしは午後は、腹痛を理由に授業をさぼってこっそりミリアムたちについていくつもりだった。


 それを先生に言うと、

「それはダメ。ここは騎士団に任せなさい」

 と一蹴されてしまった。

「でも…」

「でもはありません」

「…それでアンディがケガをしたら嫌です」

 攻略対象は助かる展開だけど。ミリアム、レティ、アンディはどうなるかわからない。


「ヴィーちゃん」先生はものすごく優しい声を出した。「そんな顔をしないで。気持ちはわかる。でもアンディだってヴィーちゃんにケガをしてほしくないんだよ。他のみんなもね」

 そのくらい、わかるよ。この前の強盗事件のときのミリアムを覚えているもん。でも、よくないことが起きるとわかっていてじっとなんてしていられない。


「実はね、マリアンナが何かしらの事故を起こさせて自分が助け、好感度を爆上げしようとしていること、かなり危険があることをアンディに話してあるよ。何しろ先生、マリアンナの監視役だからね。ちゃんと危機感を持って警護をしているから、騎士団を信じるんだ」


「監視役?」

「そう、監視役。あの子、入学早々やらかしているでしょう?“癒す者”はだいたい性格が屈折しちゃうんだけどさ。ちょーっとあの子は酷すぎるって、上の方が問題視してるの。で、先生が監視役に抜擢されたの。特別ボーナス寄越せって言ってやりたいよね」


 だから大丈夫、専門家に任せなさいと先生はあたしの手を握りしめたまま、穏やかな声音で言ったのだった。



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