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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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2章・4 逆襲? 2

 みんなで輪になって、どこで話そうか、誰かの屋敷へ行こうかと相談していると、ゲインズブール研究室の扉が開いてキンバリー先生が出てきた。あたしたちの顔を見回して、揃い踏みだね、と笑う。そして、

「対策会議をしたいんでしょ。仕方ない、医務室を貸して上げよう。代金は一週間分のおやつでいいよ。ちょうど7人いるから、一人一日分だね」

 と笑顔で言ってくれたのだった。


 あたしたちは先生の後にぞろぞろとついて行き、医務室へ。扉には『不在』の札がかかっていた。先生はそれを直すことなく中へ入る。ウォルフが、札を取りますかと訊けば、密談するんだからそのままにしてよーと能天気な返事だった。


 先生は、カップが足りない!と文句を言いながらも、魔法で水を熱湯に変えてお茶を入れる。

「兄妹二組はそっちのベッドに座って。つめれば大丈夫でしょ。残りの男三人はこっちのベッドね」

 あたしたちは黙って言われた通りに座る。

 と思いきや、なんでここまでついて来るんだ、俺の勝手だろうなんて小競り合いをアルとバレンがしている。王子二人が、程度の低いケンカだなあ。


 それから先生は、はい、とお茶をレティ、ミリアム、あたしに配る。最後のひとつを手に持って、自分の椅子をベッドそばに引っ張ってきて座った。

「お茶はかわいい子限定ね。むくつけき男どもはなくても大丈夫でしょ」

 その言葉にやや複雑な気分になる。あたしも男子なんだけど。でもお茶はほしかったから黙っておこう。


「さ、どうぞ。会議始め!」

 先生の言葉は軽い。でもこの先生は信用できると、昨日、フェルとアンディからお墨付きをもらっている。フランクな口調に庶民の出身なのかと思ったけど、実は侯爵家の長女だそう。こんな世界で仕事に生きる先生は、めちゃくちゃかっこいい。アンディは見る目がある。

ではさて。


「実はマリアンナ・ワイルドとトラブルになってしまったんだ」

 あたしがそう話すとウォルフが、オレが説明する、と言うので任せることにした。






 ウォルフが昨日の出来事と、先ほどのゲインズブールとのやり取りを話終えると、みんなは一斉にため息をついた。

「あいつは苦手だ」最初に口火を切ったのはジョーだった。「なんだかやけにグイグイ来るんだよ。遠慮がちを装っているんだけどさ、しつこいし、断ってもめげないんだよ」

 なんですと!?いつの間にマリアンナはジョーに接近してたんだ。


「僕もちょっと」と続いたのはアル。「偶然だとは思うけど、トイレを出たら立っていたことが何度かあってさ。話かけられたけど…。あまり良い印象ではなかった」

 えええっ!?本当にいつの間に。あたしが委員会で不在の間に接近してたのかな?まったく気づかなかったよ。


 ミリアムとレティが顔を見合わせている。

「あたしたちも、近づかないようにしてるの。あちらからぶつかってきておいて大仰に『まあ、お許しになってください』とか言うの。なんだか気味が悪くて。女の子の間では評判が悪いのよね」

 なんてこった。それは悪役令嬢が意地悪でわざとぶつかるやつだよね。自分から仕掛けてるの?


「俺も嫌い」

 とバレン。え、バレンまで?クラスが違うよね?

「廊下ですれ違うときにさ、よく物を落とすんだよ。俺の目の前で。最初は拾って渡してたけど、もうやめた。あからさますぎて、うんざりだ」


 あたしとウォルフは顔を見合わせた。ウォルフは彼女の悪評について、一切話さなかったんだけど。すでに評価は最悪だったんだ。どうやらあたしの目は節穴だったようだ。


「実はね」とキンバリー先生。「寮でもうまくいってないの。本人の資質の問題でね。そんな性格だからヴィーちゃんとウォルフガングのことが心配なの。カッツについた嘘を他の人にもつくと思う」


「あー」ウォルフはげんこつで自分の額を叩いた。「そういうことか!」

 そしてあたしを見る。

「もう、やられてるぞ、ヴィー。今日、友達に大丈夫かって心配されたんだよ。ゲインズブールに呼び出されたことを言ってるにしては話がすれ違うし、変だなと思っているうちに休み時間が終わっちまって。あれはマリアンナのことだったんだ」


「えええっ」

 嘘でしょ。なんて性格が悪いんだ。それで本当に主人公なの?あんなかわいい顔をして下衆すぎるよ。


「とりあえずカッツはマリアンナを指導できれば他は気にしないよ」とキンバリー先生。「他の先生たちもだいたいは、彼女が問題児だって気づいてる。ただ持っている魔力が大きいから、無下にはできないんだよ。王家専属の《癒す者》になる人間だから」


 アルが盛大なため息をついた。

「ペソアの大師は強大な魔力を持っていて尚かつ人格者だった。そんな人間は稀なんだと父上が話していたけど、事実のようだね」


 さてどうするか、という空気が流れた。


「仕掛けてくるのがあちらである以上、オレたちは受け身でひとつひとつ対応するしかないんじゃないか」

 とウォルフ。

「彼女は正論で止められるような人物じゃないし、《癒す者》になるっていう後ろ楯がある以上学園から放り出す訳にはいかないんだろう?」

 アルがそうだ、と頷く。

「彼女の魔力が最大限まで引き出せるようにするのが学園及び研究所の義務だし、その時まで彼女の身柄は王家預りだ。性格に問題があろうが関係ない」


「じゃあヴィーはどうすればいいの?彼女のやってることはバレンより陰険よ」

 とミリアムがいきり立つ。バレンが小声で俺を引き合いに出すなと抗議したが、完全無視だ。


「大丈夫だよ」とジョー。「だってヴィーには俺たちがいる。俺たち以外のクラスのやつらだってもう、ヴィーが良いやつだって知ってるぜ」

「そうよ」とレティ。「あたしたちがいるし、ヴィーは女の子にも人気があるじゃない。彼女がどんな嘘を言ったって、ヴィーのことを信じてもらえるわ」


「ミリアム」とアル。「ヴィーは僕が必ず守るよ。いつだってヴィーは僕を守ってくれたからね」

 真剣な表情だ。なんだかこそばゆい。

「フリスビーから守ったくらいしかないよ」

「十分だよ。侍従たちだって僕を守れなかったんだよ?」

 アルがきらっきらの王子様スマイルをあたしに向けた。うわ、久しぶりだ。耐性ができていてもドギマギしちゃうよ。がんばれ、あたし。あたしは男の子だ。


「あのさ」とあたし。「みんなの気持ちはものすごく嬉しい。ほんと、いい友達に恵まれたと思う。でもさ」あたしはウォルフを見た。「ウォルフガングも助けてもらえるかな。そもそも僕が巻き込んじゃったんだ」


 みんなの視線が集中して、ウォルフはいやオレはいいよと狼狽える。


「もちろん」とジョー。「ヴィーの友達は俺の友達。そもそもヴィーより付き合いは長い。少年団で一緒だったからな。ていうか、少年団の仲間はだいたいウォルフガングの味方になるぜ」

「あ、そうか」

 普段のウォルフの友達を見ていれば、それは明らかだ。


「ミリアムも助けてくれるよね?いっつもウォルフに僕を守れって頼んでばかりだもん。こういうときは、逆に守ってくれるでしょ?」

「もちろんよ。ヴィーのためなら、なんだってするわ」

 …ちょっとばかり返答がずれているような気はするけれど、突っ込まないでおこう。


「大丈夫」とアル。「彼もちゃんと込みで面倒みるよ」

 隣でレティがうなずく。

「…お世話かけます」

 ウォルフが硬い口調で頭を下げた。


 なんとなく、視線がバレンに集まる。

「俺は敵にはならない」

 仏頂面のバレン。

「ありがとうございます」

 精一杯の笑顔で礼を言うとバレンはプイとそっぽを向いた。やっぱりツンデレなのかもしれない。


「ヴィーちゃんには」とキンバリー先生。みんなが先生を見る。「超絶過保護の怖いお兄さんたちがいるからね。最終的にはどうとでもなる。でもね、親兄妹が出てくるとか、権力で解決するっていうのは禍根を残す。私はここで丸九年先生をやっているからね。そういうのは沢山見てきたよ。だから、できるだけ自分たちで解決すること」


 はい、と頷こうと口を開いたとたん、

「えぇっ!!」

 という叫びが上がって、あたしは返事をしそびれる。

「先生、何歳なのさ!?」とジョー。

「え、スキップしてるのか?」とバレン。

「兄さまの後輩じゃないの?」とミリアム。

 そうか。そこはびっくりポイントだもんね。アルとレティは驚いていないから、知っていたみたいだ。


 キンバリー先生はあははと笑った。

「毎度、若く見てくれてありがとう。先生は29になります。君たちよりずっと人生経験が豊富だから、頼りなさい。ただし、お礼はたんまり貰うよ」

 にやりとニヒルに笑う先生。美人顔とのギャップがすごい。


「先生」とあたしは話しかける。「アドバイス、ありがとうございます。肝に命じます。フェルたちは頼りません」

「うん、そうしなさい」

 ウォルフも丁寧に礼を言う。


 あたしはみんなの顔を見回した。大事な友達たちがあたしを心配してくれている。一生懸命、力になると言ってくれている(ツンデレ要員を除いて)。なんて心強いんだろう。


「ありがとう。僕は本当に友達に恵まれている。幸せなことだよ」


 昨日このベッドで、消え入りそうな声で弱々しさを演じていたマリアンナ。彼女は嫌な子だ。だけど一人ぼっちのマリアンナは、かわいそうな子なのかもしれない。助けてくれる友達がいないから、余計に意地悪なことをしてしまう、そんな悪循環なのかもしれない。


「違うわ」

 隣のミリアムが力強い声で言った。驚いて彼女を見ると、 少し怒っているような表情だ。

「ヴィーが恵まれているのではないのよ。ヴィーが素敵な子だから、素晴らしい人たちが友達になってくれたの。恵まれているのはヴィーと知り合えた彼らのほう」

「…そっか」

 なんだか泣きそうだ。あたしはミリアムを力いっぱい抱きしめた。ミリアムもあたしを抱きしめてくれる。

「ありがと、ミリアム。大好き」

「わたしもよ、ヴィー。大好きな、わたしのヴィー」


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