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1章・1 取り戻した記憶 5

「いやぁ、遅くなってしまっててごめんよ」

 と室内に通じる窓から、ジョーがやって来た。レティが嬉しそうな笑みを浮かべる。


「予想以上にお店が混んでいてさ。すごい人気なんだね…

 って、あれ?」


 ジョーは卓上のカップケーキを見て首をかしげた。


「なんであるの?ぼくが買ってくる当番だよね?」


 そう言うと後ろに控えていた侍従のピートからかごを受け取り、掛けてあった布をめくった。

 中には同じデコカップケーキが詰まっている。


「やだぁ、ジョーったら」

 レティが上品に口を押さえた。笑いをこらえているみたい。

「ミリアムがヴィーを驚かせたいから、ジョーはこのお菓子を買ってきてはダメよ、って話だったでしょう?」

「えぇっ、そうだっけ?」


 おかしいなぁと首をひねるジョーの後ろで、ピートがほれみたことか、って顔をしているから、彼はわかっていたようだ。

 きっとピートの忠言も右から左で、ちゃんと聞いてなかったのだろう。

 ジョーはどうにもおっちょこちょいなのだ。その天然さがかわいいんだけどね。


 ゲームとの関連でも、彼だけは心配する要素はまったくない。どうしてレティより主人公にひかれてしまうのか、不思議ではあるけれど。まぁジョーのお気楽な性格をかんがみるに、深い理由はなさそうだ。


 ウェルトンが新しい大皿を出して、ジョーのカップケーキを並べる。

 うーん、壮観!

 でもテーブルの上はだいぶ窮屈になった。


「あ」


 狭さのせいで手が当たったのか、ミリアムのカップが派手に転がり卓上から落ちる。幸いに空。

 とっさにあたしは手を伸ばし、キャッチ。


 はい、とミリアムに渡す。


「ありがとう。ヴィーってば、瞬発力が本当にすごいわよね」

 彼女の言葉にみんながうんうんとうなずく。


 そりゃね。元バドミントン部員ですから。瞬発力と視野の広さには自信があるよ!


 とは、もちろん言えないので、えへへと笑って済ます。


「落として割れたとしても、修復魔法の練習をするのにちょうど良いと思いますけどねぇ」

「ぐっ!」


 ウェルトンの言葉に、思わず首をしめられたかのような声が出た。

 恨みがましい目を向けてもヤツは涼しい顔をして脇に控えている。


 ひとの痛いところをつきやがって!


「ヴィーってば、また魔法の授業をさぼったのよ」


 ミリアムがため息をつく。おかげで


「まだ調子が戻らないの」


 とアルがしょんぼりとしてしまった。

 なぜならあたしの魔法は、フリスビー事件後にぱったり使えなくなってしまったからだ。

 元からあまり使えなかったし、あたし自身は気にならないのだけど、代わりにアルが大層心配しているのだ。


 だからなるべく魔法の話はしたくなかったのに。

 ミリアムにも悲しい目を向けてみたけど、気づいていないのか素知らぬ顔をしている。


 こりゃあとで、お説教だな。


「そのうちなんとかなるよ。アルはしょんぼりしないで」


 あたしはアルの背中をぽんぽんした。






 この世界には魔法が存在する。といっても誰もが普通に使えるわけじゃない。持って生まれた資質によるらしい。


 資質を持っているのは基本的に王候貴族。たまに一般市民からも出る。


 でもこの世界の魔法、衰退しているんだよね。というのも魔法はそもそも戦をするためのものだったから。そして今現在、数百年にわたる平和時代なんだ。


 で、魔法の衰退をなんとか食い止め、かつ平和な利用方を考えるために作られたのがシュシュノン学園なんだよね。


 王候貴族並びに一般市民でも魔力を持った者は、必ず15才を迎えた後の4月に、学園に入学をして魔法を勉強しなければいけない。

 そう、法律で定められているんだ。


 たいていの貴族は入学前から、両親や暇そうな親戚のおじさんおばさんなんかから魔法を習っておくんだけど。

 ヴィーはシュタイン家の人間の中では秀でて!魔力が弱かった。


 その弱い魔力がついにゼロになったんだから、フリスビーのせいだと考えているアルが責任を感じるのはわかるけどね。

 ゼロになった引き金は、あたしが前世を思い出したからだと思うんだ。


 まったく魔法を信じていない人の意識が覚醒したから。


 だからこればっかりは仕方ない。

 なるようになるさ。




「ほら、元気出して」

 ガッツポーズをしてみる。

「魔法がダメでもぼくはへこたれてないよ?」


「少しはへこたれてほしいです!」

 とたんにウェルトンの突っ込みが入り、あたし以外のみんなが笑った。


 ウェルトンを見ると。微妙な表情でわずかに頭を下げた。

 きっと。先ほどうっかり魔法の話をしてしまったことを、悔やんでいるのだろう。

 笑い話にして場を納めてくれたんだ。


 あたしは他に見えないよう、ぐっと親指を立てた。

 ウェルトンはきょとんとして首をかしげる。



 しまった。

 このサイン、この世界では存在してなかったか!


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