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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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2章・4逆襲? 1

 ウォルフとあたしは顔を見合わせた。

 担任、カッツ・ゲインズブールの名札が掲げられた扉前。

 今朝のホームルームの最後、ゲインズブールはあたしたちの名前を呼んで、


「放課後、私の研究室へ来るように。委員の仕事じゃないからな」


 と言ったのだった。


 あたしたちの後ろには、ミリアム、アル、ジョー、レティ、なぜかバレンまで控えている。ゲインズブールの意図がまったくわからないせいで、みんな心配してついてきたのだ(バレンがなんでいるのかは不明だけどね!)。


「気をつけてね」とレティ。

「何かあったらすぐに大声を出すんだよ」とアル。

「ゲインズブールなんてぶっ飛ばしていいから」とジョー。

「ウォルフガング。死んでもヴィーを守るのよ」とミリアム。

「ちょっとミリアム。それは酷いよ」とあたし。

「骨は拾ってやるよ」とバレン。

「おい!」とアル。「冷やかしに来たなら帰ってくれ」


 なんだかカオスだ。ちょっと楽しい。だけど隣ではウォルフガングがげっそりした顔をしている。

「ヴィー。オレはたまに自分の立ち位置がわからなくなるぜ」

「…ごめん?」

 ウォルフは一息つくと、

「まあ、行くか」

 と言ってノックした。

 どうぞ、との返事が聞こえウォルフが扉を開けて中に入る。あたしはみんなに手を振ってから、続いた。



 そこは、本物のカオスだった。

 薄暗い部屋は古い本や、何かの道具が卓上も床の上も雑然と積み上げられている。天井からは、魔法に使うのか、植物が入った鉢が幾つも吊り下げられている。ハーブだかお香だかの匂いと、古い物の独特の匂いが混じりあった、なんだか分からない匂いがして、そういえばゲインズブールからいつもこの匂いがしていたなと気づく。

 なんだかファンタジー映画の世界みたいだ。


「シュタインとブランです。先生はどこですか?」

 あまりに物が多すぎて、見通しがきかない。ゲインズブールがどこにいるのか、まったくわからないのだ。

「こっちだよ」

 との声と同時に物の合間から上に伸ばした手が見えた。

 またまたあたしたちは顔を見合わせた。この声はキンバリー先生だ。


 数々のトラップ(?)をよけながら、部屋の奥に進むと、わずかに 開けた所に簡素な椅子に座ったキンバリー先生を見つけた。

「先生、昨日はありがとうございました」

 商売人ウォルフはそつがない。あたしも一緒に頭を下げる。

「ゲインズブール先生はどちらですか?オレたちは呼ばれて来たんです」


 ん、とキンバリー先生は目の前の本の山を指差した。山を迂回すると、机の上に広げた古い大きな本を、ぶつぶつ言いながら覆い被さるような姿勢で読み耽るゲインズブールがいた。その姿は完全に変人だ。


「カッツ!」キンバリー先生が大きな声で呼び掛ける。「正気に戻れ!ヴィーちゃんたちが来たぞ」

 だがゲインズブールは微動だにしない。

「さっきまでは普通に待ってたんだけどね」とキンバリー先生。「急にスイッチが入るんだよ」

 そう言うと先生は立ち上がって、おもむろにゲインズブールの元に歩みよった。そして素早い動きで、ゲインズブールが読んでいた本を閉じてしまった。


「何をする!」

 ゲインズブールが見たこともない形相で怒鳴る。うわあ、ドン引きだよ。でもキンバリー先生は慣れたものなのか、平然としている。

「ヴィーちゃんたちが来たよ。自分で呼んだんでしょ」

 先生の顔の動きに合わせて、ゲインズブールがあたしたちを向いた。二、三度まばたきをしてから、憑き物が落ちたような顔をして、ああそうだった、と呟いた。


 これは本当にひどいな。やっぱりマリアンナに5グラムくらいは同情するな。普段の言動から、この姿は想像がつかないよ。


 ゲインズブールは机にもたれかかり、キンバリー先生はさっきの椅子に再び座った。一体何の話なんだろう。


「お前たち、マリアンナを苛めているそうじゃないか」

 ゲインズブールの言葉に耳を疑った。またまたまたウォルフガングと顔を見合わせる。

「それに昨日は、俺の指導をサボるように唆したそうだな」

 驚きすぎて言葉が出ないあたしたちは、キンバリー先生を見た。彼女は肩をすくめる。


「マリアンナがそんなことを言ったのですか?」

 ウォルフガングの問いにゲインズブールは頷いた。

 なんてことだ。友達になることを断った仕返しなんだろうか。


「誤解です。昨日彼女は、指導に行きたくないって泣いていたんです。あんまり疲れているようだったから、医務室に連れて行きました」

 とウォルフ。

「僕が医務室を提案しました」

 ウォルフが一瞬あたしを見る。


「わかってるよ」

 と答えたのはキンバリー先生だ。

「昨日の様子を見れば、二人が本当にマリアンナを心配していたのは明らかだ」

 その言葉に胸を撫で下ろす。

「もちろん、苛めてなんていません」とウォルフ。「友達になってほしいと頼まれたのは断りましたが、ちゃんと段階を踏めと説明してのことです」


「ならばマリアンナが嘘をついているのだな」ゲインズブールの声は感情がない。「俺の指導を嘘をついてさぼるとは、いい度胸だ」

 目付きが怖い。完全にすわっている。

「…先生、マリアンナは少しばかり疲れているんだと思います」

「だからなんだ」

 勇気をふりしぼって言ったのに。本当に聞く耳持たない人なんだな。マリアンナといい勝負かも。


「ほら、カッツ。ヴィーちゃんが怯えてる。フェルディナンドに言い付けちゃおうかな」

 カッツはじろりとキンバリー先生を睨んだ。

 ていうか、フェルはここでも幅をきかせてるの?ねえ?どういうこと?

 カッツは頭をガシガシ掻いた。気のせいか、ちょっとだけ正気の顔に戻ったようだ。


「本当にそそのかしていないんだな」

「はい」

 あたしたちは声を揃えた。

「ならいい。もう帰れ」

「失礼しまーす」

「あ、ヴィーちゃん、ウォルフガング」

 とキンバリー先生。さっさと退散しようとしていたあたしたちは、慌てて足を止めた。

「あの子ね、気を付けて。あんまり生徒を悪くいいたくないけど。たちが悪いよ。あたしは二人がそんなことをしない子だってわかるけどさ。わかってても嘘の悪評を利用するやつもいるからね」

「…はい。ありがとうございます」

 ウォルフとあたしは先生に深々と頭を下げた。

「下がってよし!」

 キンバリー先生の笑顔の号令に、今度こそあたしたちは退出した。




 ゲインズブールの研究室を出ると、ミリアム、アル、ジョー、レティ、ついでにバレンがあたしたちが入ったときのままの並びで待っていた。心配そうな顔だ。


「大丈夫、たいした事じゃなかった」

 咄嗟にそう言ってから、果たしてそれで済ますことのできる事案なのか考えた。ウォルフガングを除いたここにいる全員が、ゲーム『シュシュノン学園』の登場人物で、主人公マリアンナと深い関わりがあるのだ。


「ヴィー」いつになく真剣なウォルフの声に彼を見上げると。「お前が優しいのはわかっているが、全部話しておいた方がいい。キンバリー先生の言うとおり、たちが悪い」

 そうだね、とあたしはうなずいた。

「とりあえず」とウォルフはみんなを見て言った。「今すぐにヴィーに何かあるって訳じゃないから、安心してくれ」

 …なんだろう、この頼もしさは。

急に、一緒に委員をやっているのがウォルフガングでよかった、という安堵が胸に広がった。

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