幕間・赤毛の危惧
赤毛のアのウォルフガングの話です。
今日はアルベール殿下主宰のお茶会だ。彼の帰還報告と、隣国ペソアから留学しに来た王子バレン殿下の紹介が目的だ。
相変わらずお茶会に出られず、外出禁止令も解かれていないヴィーも、さすがに参加するはずだったのだが。かわいそうに、腹痛で急遽欠席になったそうだ。
オレは目の前に座る女を見る。
ミリアム・シュタイン。見た目は完璧な美少女だ。中身を知らなければ、馬車で二人きりの今の状況にテンションもあがるだろう。
腹痛に倒れたヴィーから彼女のエスコートを頼まれて、わざわざ屋敷まで迎えに行ってやったのに、ツンとした顔で外を眺めたままだ。会ったときに一応今回の礼は言われたけれど、それ以外はこんな態度。まったく可愛げがない。これでヴィーと双子っていうのだから、不思議なもんだ。
オレの視線に気づいたのか、彼女が振り返り目が合う。
「王宮についたら別行動で構わないから」とミリアム。「わたし、レティと話したいことがあるの。帰りだけよろしくね」
「そう言うと思ってた」
ヴィーがオレに頼んだから、彼女は大人しくうちの馬車に乗っただけだろう。
オレはミリアムが嫌いじゃない。だが、お茶会中ずっと、彼女のエスコートをするのは、勘弁願いたい。言われた言葉にほっと胸を撫で下ろした。
ミリアムは注目されすぎるのだ。友人たちは彼女に近づきはしないものの、興味津々だ。なにしろ外見だけは美少女だからな。オレが出会ってゼロ秒で平手打ちされたことは、やつらの記憶から抹消されているらしい。
「…いつもヴィーの頼みをきいてくれてありがとう」
ミリアムはそう言うと、また窓の外を眺め始めた。
…こういう所は可愛げがある。
一時期ヴィーが、オレとミリアムとくっつけようと頑張っていたときは本当に参った。ヴィーは可愛い妹を好きにならない男はいないと、本気で思っていたようだ。だがオレには全くその気はない。
ある時パタリと画策しなくなったから、どうしたのかと思ったら。
「ミリアムの気持ちを考えていなさすぎた」
と反省していたのだった。オレの気持ちは?と言ってやろうかと思ったけれど、黙って飲み込んだ。
ときどきジョーが言う『相思相愛双子』って言葉は、正鵠を射てる。
「しかしヴィーもかわいそうに。あれほど楽しみにしていたのに、腹痛だなんて」
オレの言葉にミリアムははじめて表情を変えた。
「お医者様が過度の緊張のせいじゃないかっておっしゃっていたわ」
その言葉に驚く。あいつのことだから、てっきり食べ過ぎたとか、そんなことだと思っていた。
「ストレスってことか?」
ヴィーはそんなものとは無縁だと思っていたのに。
「わからない。本当に楽しみにしていたから。それが高じてしまったのかもしれないしね。でもヴィーには悪いけど、ちょっとほっとしているのよ」
「なんでだよ」
「バレン殿下よ」彼女はため息をついた。「彼の侍従がヴィーのことを探っているみたいなの。兄様もアンディもピリピリしてるわ。今日はわたしも様子を伺うよう厳命されているの」
そのペソアの王子のことなら聞いている。ヴィーがなにやらやらかして、怒りを買ってしまったらしい。
「…オレも気をつけてみる。ヴィーから話を聞いて、気になっていたしな」
「当然よ」ミリアムは、何バカなことを言ってるのとでも言いたそうな顔でオレを見た。「あなたも頭数に入ってに決まっているでしょう?」
…オレはいつから彼女の手下になったんだろう?
身震いがした。
これは入学したあと、大変なことになるんじゃないか? 手下、いやへたしたら下僕扱いかもしれない。
そっと気づかれないように吐息して、オレも窓外の景色に目をやった。
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次回、本編に戻ります。




