2章・1入学式 3
よし、出会い編を整理しよう!
ヴィットーリオルートは入学式が始まる直前の講堂で。あたしが主人公とぶつかって、主人公は転ぶ。あたし、「ごめんね。怪我はないかい?」と手を差しのべる。
ていうか、あたし「ないかい」なんて言葉遣いはしないけど?その時になったら自然にゲーム的なしゃべり方になるのかな。
ジョシュアルート。式後に教室へ行き、決められた席に着席する。周囲が楽しく会話している中、地方から来たばかりの主人公は知り合いが誰もいない。ひとりポツンとうなだれているとそ、隣の席のジョシュアが話しかけてくれる。会話が盛り上がり、ジョシュアから「友達になろうよ」と言われる。
カッツルートは放課後。一人で寮に戻る途中で、書類を落とすカッツを目撃。慌てて拾い、後を追って彼の研究室へ。それがかなり大事な書類だったため、カッツはお礼として、彼女の稀有な能力を見極めるテストをしてあげる約束をする。
バレンルートは入学式の翌日。講堂で親交を深めるためのオリエンテーションで。クラス対抗ムカデ競争が行われる。ていうかなんで貴族の子弟ばかりの学校でムカデ競争やるのかが不思議だけど。うまく周りと合わせられない主人公を見ていたバレンが「お前、どんくさいな」と言い放つ。思わず涙ぐんだ主人公を見たバレンは「泣くなよ」と焦ってハンカチを差しだす。
よく考えると、けっこうかわいいキャラだな。あたしも涙目になったら苛められなくなるかな。
そしてアルベールルート。入学式から数日後。通常の授業が始まって三日目。朝のホームルームが始まるよりだいぶ早い時間。中庭でひとり魔法の練習に励む主人公。そこへアルベールがやってきて「熱心だね」と声をかける。
◇◇
うーん。今のところ、ゲーム通りに進んでいない。
何がどうなっているんだ?
あたしたちは入学式後に移動した教室で、担任が来るのを待っている。本来ならジョーの隣に主人公がいるはずなのに、そこは空席のままだ。まだ医務室にいるのだろうか。ゲームではこんな展開はなかったんだけど。
「ヴィー、大丈夫?」
ミリアムが心配そうにあたしの顔をのぞきこむ。いけない、いけない。
「大丈夫」
にこりとミリアムに微笑んで、なんともないことをアピールする。今日の彼女は朝からいささか様子がおかしいのだから、あたしが余計な心配をさせるわけにはいかない。すでにバレンの件もある。気を引き締めないとね。
正直、登校したときからずっと、周りの子にちらちら見られている。だいたいの子は、引きこもりの双子をめずらしがっているのだと思う。あたしがちゃんとミリアムを守らないといけない。
「先生、遅いね」
とレティ。あたしの前の席だ。その前がアル。あたしの後ろはミリアム。
「さっき運ばれた子、うちのクラスだからね」
とアル。いつの間にかあたしの席の周りにアル、ジョーが立っている。
「見かけない子のようだったけど」とミリアム。
「あれだろ、噂になってる魔力がすごい平民」とジョー。
「ああ。同じクラスなのね」とレティ。
あれ、そういえば。
「僕が欠席したお茶会、彼女も来なかったの?」
確か都及び周辺に住む15歳から17歳が招待されたはずだ。でもみんなから彼女の話は聞いてない。
「招待してない…んだろ、アル?」
「ああ」
とアルは当たり前といった顔で頷く。そうだった、招待したのは貴族と上流階級だけだった。
なるほど。いくら魔力が強かろうと、『平民』は呼ばれないのか。ちょっと階級社会が怖くなる。いや、王家だからこそ線引きはきっかりしないといけないのかな。
扉が開いてカッツ・ゲインズブールがさっそうと入ってきた。立っていた子たちは慌てて席につき、女の子たちはカッツにざわつく。この雰囲気、前世を思い出すなあ。
カッツの後から主人公がおずおずと入ってきた。注目の的だ。どうしていいのかわからないのか、教卓の脇でオロオロしている。
「早く席につきなさい」
とカッツ。ジョーが手を上げて、
「ここじゃないの」
と主人公に隣の席を教える。彼女はいそいそと席に向かい、ジョーに礼を言って座る。
あれ。こんな展開はなかったけど、これはこれで良さげな出会いじゃない?大丈夫かな。
「では」とカッツ。「担任のゲインズブールです」
うーん。ゲームではどうだったんだろう。担任が出てきた覚えはない。カッツ・ゲインズブールが担任的な展開もなかったと思う。
「まずは自己紹介をしてもらう。終わったら校内の案内だ。では名前の順一番から」
あれ。うちに来たときと印象が違う。以前は紳士な感じだったけど、今日はそうでもない。先生バージョンなんだろうか。
カッツは椅子を引き寄せると長い足を組んで座った。さすが攻略対象キャラだ。めちゃくちゃかっこいい。まるでモデルだ。攻略対象の中で唯一の大人だし、なんていうか、フェロモンがムンムンな感じだ。ゲーム補正なのかな。これで魔法オタクの変態って、設定おかしくないか。
ていうかよく考えるとカッツと主人公、けっこう接近してるよね。お姫様抱っこで医務室へ、なんてすごく乙女ゲームっぽいよね。もしやもうカッツルートに入ってるのかな。
「ヴィー!ヴィー!」
はっとする。レティが振り向いてあたしの名を呼んでいる。しまった、もう順番が回ってきたんだ。
慌てて立ち上がると、椅子がガタガタと音を立てる。あぁ、かっこ悪い。
「ヴィットーリオ・シュタインです。たくさん友達作りたいです。仲良くしてください」
ぺこり。座る。
あれ、なんだか空気が変だ。
しまった、慌てたせいで素だった。もうちょっと公爵家の素敵なご子息感を出せばよかった。そうじゃなくても、レアキャラだと思われてるだろうに。
「ミリアム・シュタインです。ヴィーの妹です」
ガタリと椅子に座る音。慌てて振り向く。小声で
「それだけ!?」
ミリアムはうなずく。緊張している訳でもなさそうだ。なんてあっさり。いっそ潔いよ。
すっかり聞きそびれたけれど、アルとレティはどう挨拶したんだろう。
「ジョシュア・マッケネンです。最近のお気に入りは筋トレです。よろしく」
ジョー座る。と思ったら立つ。
「あ、知ってるとは思うけど、レティシアは俺の婚約者なんで」
ジョー、再び座る。
なんだそれは?もしやレティは俺の、的なアピールなのかな?あらあらまぁまぁ。レティの顔は見えないけれど、耳は真っ赤だ。かわいい。
「ウォルフガング・ブランです。ブラン商会で買い物をしたい時はオレを通してください。ノルマが上げられてきついんで」
ウォルフってば学生になってもノルマを課されているんだ。お父さん、相変わらず厳しいんだね。
更に数人が自己紹介をして。
いよいよ主人公の番だ。
あたしは振りかえってしっかり彼女を見た。
主人公が立つ。ローズピンクの髪はひとつに纏めてあるけどふわふわで、小柄で丸めの顔に大きな瞳、小さい口にかわいらしい鼻。うん、
スチルどおりのロリッとした愛らしい女の子だ。
「マリアンナ・ワイルドです。ロンバル地方から来ました。」
あれ、声は可愛らしいけど、思いの外しっかりした口調だ。
「今日は式典中に倒れてしまい、みなさんにご迷惑をおかけしてすみませんでした。気を付けますので、よろしくお願いしますね」
ぺこりとして彼女は座った。好印象だ。
「これで全員だね。じゃあ廊下に出て。校内をまわるよ」
カッツの言葉にみんなが立ち上がる。さりげなく見ていたら、マリアンナがジョーに話しかけている。気になる。
でもジョーはすぐに彼女の元を離れ、こちらへ来た。で、すごく自然にレティと手を繋いだ。しかも指をからめる恋人つなぎ!レティのほうが驚いて戸惑っている。
「ど、どうなさったの?」
「えー、だってさ、俺、婚約者がいるって言ったよな?なのにあのピンク、いきなり『友達になってください』って言って来たんだぜ?馴れ馴れしくない?」
ジョーは気味悪そうな表情だ。ミリアムはまあ、と眉根を寄せた。
「庶民は感覚が違うのかもな」
とアル。
一応ゲーム的展開になってるのかな?でもおもいっきり逆効果だ。
彼女を探すとひとりでポツンとしている。ちょっとかわいそうだ。よし、声をかけよう。
と思ったら、男子が話しかけている。なんだ、大丈夫じゃない。まあ主人公だけあってモテモテのキャラのはずだから、心配することないか。
あたしはほっとして、とりあえず主人公のことは忘れて学校探検を楽しむことにした。
◇◇
校内の見学が終わると放課となった。
今日はこれからうちで、入学おめでとうパーティーだ。メンバーはもちろん、いつものみんな。ウォルフも誘ったんだけど、少年団の友達たちと集まる約束だと断られてしまった。
ウォルフはまだアルと親しくないし、古くからの仲間を優先して当然。残念だけどね。
マリアンナはと見ると、さっきの男子と立ち話をしている。この後彼女がカッツの書類を拾うのかどうかが気になるけれど。居残るうまい口実も思いつかないし、カッツとならバンバン仲良くなってもらいたいし、気にせず帰ってしまおう。
カバンにもらったプリントをしまって。さあ帰ろうと立ち上がったところで、目が合った。バレンと!
教室の入り口から、なぜかやつが堂々と入ってくる。で、アルと対峙。相変わらず不機嫌そう。
「おい」とバレン。「このクラス分けはおかしくないか」
「何がかな」
アル、素敵王子様スマイルで対抗。
「なんでお前ら仲良し5人組が同じクラスなんだ。明らかに不正だろ」
「それが最適だと先生方が判断しただけだろう」
バレンはチッと舌打ちをする。
どういうことだ?アルの話では、ペソアでのバレンは表向きは取り繕っていたんだよね?今は思いっきりケンカ腰だよ。
だいたい、こんな話は王宮に帰ってからすればよくない?バレンも王宮に住んでいるんだから。
って、アルはこれからうちでパーティーだけど。
…バレンは今日、一緒にお祝いする友達はいるのかな。気になるけれど、でもアルはだいぶ苛められたようだし。どうしよう。
「おい、ヴィットーリオ・シュタイン」
「はいっ」
うわっ、またご指名された。気づけばまたみんなに周りを固められている。
「ガキは何を着てもガキだな」
ガーン。またガキって言われた。
「失礼ね!」とミリアムが声をあげる。「ヴィーの素敵さがわからないなんて、あなた目が腐っているのではなくて?」
おぉ、ミリアム強い!じゃなかった、
「だ、大丈夫、ぼくは気にしてないから」
と彼女を宥める。
「女に庇ってもらってる時点でガキだろう」
バレンは鼻で笑うと、さっそうと踵を返し教室を出ていった。
「…何しに来たのかしら?」
とレティ。
「あれだな」とジョー。ウォルフを指差し「お前、正解」
ウォルフはあたしのそばまでくると、頭をわしゃわしゃした。
「がんばれ、ヴィー。気にするな。ガキは向こうだ」
「もう、次にヴィーを侮辱したらひっぱたいてやるわ」
「それはやめて、ミリアム」
なんなんだ一体。そんなにバレンはあたしの苛めに目覚めちゃったの?
今日からゲームが始まってるはずなんだけど。
色々と予想外な幕開けだ。
どうなるんだ、これは?




