1章・最終話 帰還 2
ミリアム、ジョー、あたしの三人は主不在のアルの私室で彼が来るのを待っていた。一時間ほど前まではレティも一緒だったけれど、呼ばれて出ていった。多分、家族で話ているのだ。いよいよあたしたちの元にアルが帰ってくる。
この部屋に入るのも一年ぶりだ。なのに、まるでそれを感じさせない。なんだか変な気分だ。
いい加減、喋るのも疲れたころ。扉が開いてアルが現れた。
あたしたちは立ち上がり、なんだかよく分からないけれど、気づいたら4人で抱き合っていた。みんな鼻がぐずぐずいっている。しばらくそのままでいたけれど、おかしなことに気づいた。
みんなから離れ、アルを見る。一年前、ここで別れのハグをしたとき。そこまで身長差はなかった。なのに、今は頭いっこ分以上違う。ジョーと変わらない。
「アル!大きくっなってない!?」
「まあ、ほんとう」
とミリアム。
「ああ、うん。かなり伸びた」
庭で見たときもだいぶ精悍になったと思ったけれど、近くで見るとその変化は明らかだ。前はキラッキラの育ちの良さそうな王子さまだった。今はなんだか。聡明な、どんな事案もどんとこい的な頼れる美青年だ。
やっぱり月日だけの成長じゃないよね、これは。きっと大変な日々だったのだろう。それが女の子によるものなのか違うのか、いずれにしろアルのした苦労を考えると、胸が痛くなる。また涙が出そうだ。
「…アル。お帰り」
なんとか声をしぼりだす。ミリアム、ジョーもおかえり、と続く。
「ただいま」
満面の笑みは、庭で見たのと一緒でなんの変わりもなくてほっとした。
「みんなも元気そうでよかった」とアル。「ジョー、お前もいい男になったな。ミリアム、すっかり……美人になって。ヴィー!髪を切ったんだな。似合うよ」
なんとなく、あたしだけニュアンスが違うような。
「そうそう、ヴィー。下でアンディとすれ違ったよ。多分これから父上たちと会合だ。話すなら今だよ。会ってきなよ」
「え?そうなの?」
「今を逃したら今日は会えないよ」
「あら、行ってらっしゃいな」
とミリアム。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。ミリアムはいいの?」
「わたしは待ってる」
「わかった、すぐに戻るね」
あたしはみんなに手を振って、静かに部屋を出た。落ち着いて扉をしめ、二、三歩歩いたところで、がまんできなくなって駆け出した。王宮の廊下を走るなんて、失礼なのは承知だけど。
階段を駆け降りるときに、侍従の一団とすれ違い声をかけられたけど、
「ごめん、見逃して!」
と叫んで走った。
目前の集団の中にアンディとフェルが見えた。
「アンディ!」
叫んで、周囲の人垣をすり抜ける。
「ヴィーか!」
あたしは走っていた勢いのままにアンディに飛び付いた。
「お帰り!お帰り、アンディ!」
「ただいま」
アンディはあたしを抱き止めてぎゅっとしてくれた。
「アンディ!アンディ!話したいことが沢山あるんだ!沢山だよ!」
「わかった、落ち着け」
アンディはあたしをべりっとはがすと、頭をわしゃわしゃしてくれた。懐かしい、大きな手だ。思わず顔がへらっとしてしまう。アンディが本当に帰って来てくれたんだ。
「ヴィー」とフェル。「こいつはまだ仕事だよ」
「わかってるよ。アルに、その前に会ってこいって言われたんだ」
「お、ヴィーは髪を切ったのか」
「うん!」
「いいな、似合う。少しは成長したな」
「本当?筋トレがんばったんだけど、全然ダメなんだよ」
「そうか。残念だったな」
またわしゃわしゃ。
「ねえ、アンディ、うちにはいつ来れる?」
「明日な」
「本当?やった!僕と話す時間ある?」
「あるぞ」わしゃわしゃ。「三日休みをもらったからな」
「やった!」
「ヴィー、アンディは僕の親友だぞ」
フェルがしゃしゃり出る。
「わかってるってば!フェルとエレノアとレオノールの次でがまんするよ。だからちゃんと僕の話も聞いて!」
「当たり前だろう。なんだったらフェルディナンドは後回しにしてやろう。どうせのろけ話を聞かせるつもりだろうからな」
「そうだね、賛成!」
「なにっ!」
仲良さそうに小突き合っているフェルとアンディに懐かしさが込み上げる。二人も久しぶりに会えて心底嬉しいんだ。
「じゃあ僕はアルのところに戻るね」
「ああ。明日な」
アンディはまた頭をわしゃわしゃしてくれた。えへへ。
「えっと…」
改めて自分がすり抜けた人垣を見たら、そこにいたのは騎士団長をはじめ、ほとんどが騎士団のお偉い方たちだった。
「お邪魔してすみません」
ぺこりと頭を下げる。
「いや」と答えたのは、アンディの父上である騎士団長。「アルベール殿下のご指示なら、構わぬ」
「ありがとうございます。失礼します」
あたしはアンディとフェルに手を振って、再び人垣をすり抜けた。
アンディの父上は苦手だ。なんで親子でああも違うのかというほど、厳格そうで強面だ。にこりともしない。反面教師なのかな。
階段まで戻ると踊り場に、なんと先ほどの侍従集団がまだいた。あまり見たことのない顔だ。と、よくよく見たら集団の中心にバレン・ルー・ペソアがいた。なんてこった、さっきは王子様をガン無視しちゃったのか。ていうかなんでまだいるの?
確かバレンはものすごいプライドの高い俺様なんだよね。
バレンも攻略対象なだけあって、青い髪に青い瞳のイケメンなんだけど、ものすごい不機元そうな顔であたしを見おろしている。
まずいなあ。文句を言われるのかなあ。
「お前がヴィットーリオ・シュタインか?」
「はい、殿下」
「ふうん」
バレンは侍従が彼の紹介をする間、明らかに値踏みする目であたしをじろじろ見る。ていうかなんであたしを知っているのだろう。アルが話したのかな。素敵な双子のことを。
「まるでガキだな」
ガーン!
そ、そりゃちっとも男らしくなる気配はないけどさ!バレンよりも小さいけどさ!初対面でそれはひどくない?
「ふん!」
とバレンは一言、踵を返し、侍従に
「案内しろ」
と横柄に命令。侍従はあたしに、申し訳ありませんと謝ってから、階段を上がって行った。
一行の後ろ姿を見送る。だってあんなやつと一緒に行きたくないし。あたし、こう見えて精神年齢は22だよ?15のガキにガキ呼ばわりされるいわれはない!
けど、実は最近自分でも自信がないんだよね。なんとなくあたしの精神、成長してないというか、17で止まっているような。ヴィーの実年齢に引っ張られているような。だって確実にミリアムやウォルフのほうが大人っぽいんだもん。
おかしいなぁ。
そんなことを考えながら階段を上りはじめて、ふと気づく。
げっ。あたし、自分から思いっきりアンディに抱きついたよ!かなりがっつりと!ハグってレベルじゃないよ!
かーっと顔に血がのぼる。なにやってんだ、あたし。たとえアンディだって男じゃん!しかもイケメン!よくあんなことができたもんだ。
うわあ、恥ずかしさのあまりそこら中を転がり回りたい。
いや待て落ち着け。大丈夫、あたしは男の子だ。端から見たぶんにはなんの問題もないはず。ほほえましいなあ、って感じ。のはず。
でもあたしの蚤の心臓のほうが耐えられないよ。以後気を付けよう。
◇◇




