表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/186

幕間・赤毛の闘争

赤毛のウォルフガングの話です。

 朝起きたら窓の外は一面の雪景色。ちょっとやそっとじゃない積雪。今日は少年団の鍛練の日だったけれど、これでは中止だ。代わりに屋敷の男総出で雪かきをやることになるだろう。店周りの。


 めんどくさいなあと頭を掻きかき、寝間着のまま外を眺めていると、侍従がやってきた。お盆の上に手紙が一通。

 こんな積雪の中、どうやって?送付魔法しかないな。誰だろう。

 不思議に思いながら手に取り見れば、差出人はまさかのヴィーだった。

 あいつは送付魔法なんて出来ない。兄にやらせたのか。余程の急用なのに違いない。


 何かあったのかとはやる鼓動を感じながら手紙を読むと…。

 可能だったら、シュタイン家の裏庭に来てほしい。シュタイン家の人間にみつからないように気を付けてね、との内容だった。

 どういうことだ。嫌な予感しかしない。

 とりあえず店周りの雪かきはしなくて済みそうだが、どうやってシュタイン家まで行くかが問題だ。失われた魔法には、空を飛んで移動する術もあったらしいが、現代では見たことはない。さてどうするか…。


 ◇◇


 結局、新雪でも歩きやすいかんじきを靴につけ、自力でシュタイン家へ到着した。

 オレの姿を見たヴィーは飛び上がらんばかりに喜んだ。それほど喜んで貰えるのは嬉しいけれど、その傍らのスコップが気になる。その後ろには橇もある。これは予感が的中したんじゃないだろうか?


「ありがとう!」

 ヴィーは満面の笑顔をでオレの手を握りしめた。

「来てくれて本当にありがとう!」

「…おう。まさかと思うが、橇遊びをする気か」

「そうなんだ」

 ヴィーは悪びれもせずに笑顔で首肯する。

「ここね、ほら、緩やかな坂だろう?もうちょい雪を盛って傾斜をつけるんだ」

 念のために辺りを見回す。ミリアムやフェルディナンドどころか、侍従のウェルトンもいない。

「お前、あの手紙はどうやって届けさせたんだ?」

「エレノアに内緒で頼んだ」

 なるほど。兄妹でヴィーに甘いのか。

「坂作りも橇も、屋敷の人間には内緒なんだな」

「ミリアムに怒られるからね。そういえばロレンスは?」

 ロレンスはオレの侍従だ。

「置いてきた。今日は総出で店周りの雪かきだ」

 出掛けに父親から非難の眼差しを向けられたが、ヴィーからの緊急の要件なんだと告げたら、態度はころりと変わった。代わりにロレンスがオレの分までこき使われているだろう。

 けれどこれからオレがさせられるのは、店周りの雪かきと何ら変わらない。誰とやるかが違うだけ。



 二人でひたすら雪の坂を作る作業。はっきり言って非力のヴィーは、やる気でカバーしているとはいえたいした戦力じゃない。

 なんでこんなことを思い立ったのか。そう問うと。

「んー。本当はスキーがやりたいんだ」

 と意味の分からないな回答が帰って来た。

「山に行ってやりたいのだけど、怪我をしたらどうするって言われて一度も行けてないんだ。となると、庭でできる範囲で楽しむしかないだろ?スキーができるだけの斜面を作るのは大変だから、橇でガマンしているんだ」

「ちょっと待て。この橇遊びは前からやっているのか?」

「そうだよ。毎年」

 当たり前のように答えるヴィー。どこから突っ込めばいいんだ?

「毎年やってて、誰にも気づかれてないのか?」

「まさか。毎年ミリアムに怒られてるよ。坂を作るのが早いか、見つかるのが早いかって競争だよ。今日はラッキーでさ。ミリアムってばレティのとこにお泊まりしてるんだよ。女子会なんだって」

 なるほど。

「毎年怒られているのに、やってるのか。ミリアムが気の毒になるな」

 そう?なんて言いながら、袖で額の汗をぬぐうヴィーはめちゃくちゃ楽しそうな顔をしている。

「しかしこれをお前ひとりでやるのは大変じゃないのか?何時間かかるんだ」

「まさかあ」ヴィーは大笑い。「僕ひとりで出来る訳ないじゃないか。完成前に見つかっちゃうよ。いつもアンディが作ってくれてたんだ」

 なに!?

「今年はアンディがいないからムリだと思っていたんだけど、ウォルフガングが手伝ってくれて助かったよ」

「お前、ブルトン小隊長にこんなことをさせてたのか?」

「うん。あの筋肉は見てくれだけじゃないよね。いつもあっという間に作ってくれるんだ」

 本当にどこから突っ込んでいいのか。思わず頭を抱えたくなる。

「お前なあ、あの人はエリートなんだぞ」

「小隊長、最年少なんだろ?知ってるよ」

「いやそれだけじゃない。騎士団評議会も最年少だし…」

「何それ?」

「貴族青年部評議会なんて4人しかいない幹部のひとりだぞ。それも最年少だし」

「知らないなあ」

「お前、フェルディナンドさんも幹部だぞ」

 そうなんだー、とヴィーはいたって呑気だ。さすがに呆れてしまう。

「とにかくエリートだし、めちゃくちゃ忙しい人なんだぞ」

「うちにはしょっ中いるけどなあ」


 ふと。これはもしかすれば家柄の差なのかもしれないと思い至った。

 ヴィーは政治に疎い訳ではない。国の歴史や政治、経済についてよく勉強しているようだ。自分の兄やその友人が何の職務についているかも把握している。多分、プラスアルファの名誉職に興味がないのだろう。青年部評議会の幹部なんて、普通の貴族ならはなりたくて仕方ないものだ。だがシュタイン家のような家ではそんなものは、なって当たり前のことなのかもしれない。


 とはいえなあ。ブルトン小隊長、騎士団のときは厳しくて凛々しいのに。そんな人が他人様の屋敷裏で、せっせと橇遊びの準備をしているなんて。


 ヴィーを見れば、男にしては華奢すぎる腕で、懸命に雪をすくっては投げ、投げては固め、と必死に坂を作っている。

 バカな子ほどかわいい、と聞いたことがある。

 オレは上着を一枚脱いで投げ捨てる。

 アンディに比べて時間がかかるなあ、なんて思われたくない。明日の筋肉痛を恐れるな。店周りの雪かきより、よっぽど有意義じゃないか。


 オレはスコップを剣のように掲げた。

「よし、本気で行くぞ」

 ヴィーは手を止めオレを見ると、口元に手を添えて

「よっ!三代目!」

 と意味のわからないかけ声を叫んだ。


読んでくださってありがとうございます。


次回、本編に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ