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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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1章・8危機 2

 毬。とりあえず探しにいこう。なんだかすごく気になるんだ。この世界に合わない日本ぽさ。もしかしたらあたしが知らないだけで、世界中に似たものがあるのかもしれないけれど。それよりかは、あたし以外の前世の世界から来た人が作ったっのでは、と勘ぐってしまう。


 葡萄畑に入ろうとすると背後から、声をかけられた。

「ごめん」バロック兄だ。「僕も探す。母に声をかけてくる」

 うん、とうなずいて畑に入る。収穫が終わった畑は落ち葉で地面が覆われている。毬はカラフルだから目につくとは思うけど、これはちょっとばかり困難かもしれないぞ。

 投げられた方向の当たりをつけて、畑の奥へと踏みいる。


 しばらく行くと、あっさり見つかった。なんだ、よかったと拾おうとして。悪寒が走った。なんだ、と思った瞬間、足が落ち葉に隠れていた根にとらわれて前につんのめった。

 地面に手と膝をつくと同時に頭上に風が起こった。


 振り返るとそこには剣があった。剣を構えた男だ。

 え?

 驚いて尻餅をつく。

 なに?

 どういうこと?

 心臓がバクバクいう。

 男がにじりよってくるのに、あたしは動けない。

 なんで?

 強盗?

 男の後ろに仲間かもうひとりいる。そっちも剣を構えている。

 なんで?

 あたし、今何も持ってないけど?

 毬しか持ってない。


 指先に触れている毬。


 とっさに握りしめて、相手の顔を目掛けて投げつけた。


 強盗は予想外の豪速球を避け損ね、うまい具合に片目にクリーンヒット!

 この隙に逃げなきゃ!


 だけど動かない。足に力が入らない。お尻を地面についたまま後ずさるしか出来ない。

 どうしよう。声も出ない。


「ヴィー!」


 ウォルフだ!ウォルフと騎士が駆けてくる。騎士にもうひとりの強盗が斬りかかった。目前の強盗は状況を確認すると再びあたしに向き直り剣を振り上げた。


 今度こそダメだ。


 僅かに掴めた落ち葉を投げつけて。

 殺されると覚悟した瞬間、ウォルフが強盗の背後から飛びついた。首に手を回し締め上げる。

 けれど体格差が大きく、すぐにはね飛ばされてウォルフは地面に叩きつけられた。低くくぐもったうめき声をあげる。

 強盗がウォルフに向かって剣を構える。ウォルフは動けない。


 あたしは咄嗟に飛び出してウォルフの上に覆い被さった。と思ったらウォルフに突き飛ばされて、二人で地面を転がる。

 今さっきまでいた地面に剣が刺さる。


「捕まえろ!二人だ!」

 叫び声がした。強盗は剣を地面から抜くとなにやらわからない言葉を叫んで走り去った。その後を見知らぬ騎士たちが追いかけていく。


 助かったんだ。

 全身から力が抜けていく。


「坊っちゃん、ヴィットーリオさん、お怪我は?」

 ブラン商会の騎士が駆け寄り手を差し出してくれる。地面に転がったままだったあたしは半身を起こし、ウォルフは立ち上がった。体中葉っぱまみれだ。

「オレは平気だ。ヴィーは?怪我は?」

 頭にまで葉っぱをつけたウォルフ。

「どうした?どこかダメか?」


 あたし、本当に危なかったんだ。

 でも助かった。

 もう大丈夫なんだ。


 ほっとして涙がポロポロと零れ落ちる。


「!どこが痛い?ヴィー!」

 ウォルフがあたしの顔をのぞきこむ。ダメだ、涙が止まらない。なんともないと知らせるために首を左右にふる。

「ショックを受けてらっしゃるんですよ」と騎士。「失礼して運ばせていただきます」

「いい!オレが連れていく。ヴィー、」ウォルフはあたしの頭を払ってくれる。葉がパラパラ落ちる。「しっかり捕まれ」

 そうしてウォルフはあたしの膝下に手を入れると抱き上げた。


「え、え、」

 ぎゃー!!

 こ、これは!お姫様抱っこ!夢にまで見た、あたしには一生縁がないと思っていた、お姫様抱っこ!

「ウォ、ウォルフ、おろして!恥ずかしい!」

 テンパりすぎて鼻血出る!確実に出る!ウォルフの顔が近すぎる!こんなの恋愛経験ゼロのあたしにはムリだよ!

「いいからじっとしてろ」

 ウォルフは構わずずんずん歩く。

 ていうか、同じ年だよね?なにこの頼り甲斐!うわあ、かっこよすぎるよ!やめて!

「おろして!ぼく男なのに、こんなの恥ずかしいって!」

「黙ってしがみついてろ!落ちるぞ!」

 葡萄畑を抜けて道に出る。人だかりが出来ているじゃないか!


 あたしはもう恥ずかしすぎて、ウォルフの首にしがみついて、ひたすら気絶したふりをするしかなかった。


 ◇◇


 それからはもう大変な大騒ぎだった。

 あたしは自分で思っていた以上にひどい姿だったらしい。服は乱れ全身葉っぱと土まみれ。挙げ句に、腰まである長い髪が、無残にも半分ほど切られてしまっていた。多分、木の根につまづいた時だ。あの時はまさに死と紙一重だったのだ。

 たまたまおさげに結っていたから、切られた髪はなくすことなく無事な髪と共にぶら下がっていたのだけれど。その姿が余計に衝撃的だったのだろう、ミリアムが今まで見たことのないくらい号泣した。

 あまりに泣くので、反ってあたしは冷静になることができて、帰りの車中ではずっと彼女を宥めていた。ミリアムはずっとあたしを抱き締めていた。


 強盗のほうは、バロック家に雇われていた騎士たちが追ってくれるとのことで、あたしたちはブラン商会の騎士二人に守られて帰宅の途についた。


 都に入る頃には騎士団が現れて、半数は強盗を追いに行き、半数はあたしたちの護衛についた。しかもフェルまで一緒に来たのだ。なんとウォルフが送付魔法で手紙を送って知らせていたのだ。なんて出来る子なんだ。

 フェルも泣きそうな顔で、屋敷につくまであたしの手を握りしめていた。


 ◇◇


 あたしは父様母様フェルミリアム、ついでにウェルトンと執事長にこっぴどく叱られた。なぜ、ひとりで行動したのかと。無事だったからよかったものの、ウォルフガングがいなければ命を落としていたのだと。

 まったくその通りなので、黙って叱責を受けた。

 外出禁止令が出されたけれど、それも泣く泣く従った。こんなときにアンディがいれば味方してくれて、もう少し軽い罰になっただろうけど。いないのだから仕方ない。

 それに左足首を捻挫してしまったので、どのみち自由に歩き回れなのだけどね。


 ちなみにウォルフたちがあたしを追って来れたのはバロック兄の配慮だった。自分が畑に入る前に、ウォルフに知らせておいた方がいいかも、でないとヴィットーリオが消えたと騒ぎになるかもと判断したのだった。更にウォルフたちと一緒に畑に入り、あたしが強盗に襲われているのを見てすぐさまとって返し、バロック家が雇っていた騎士を応援に寄越してくれた。おかげで、あたしは命拾いしたのだ。

 そのお礼に、妹が毬を投げたことは誰にも話さなかった。その毬は、先日バロック兄からお見舞いの品と一緒に送られて来た。どうやら探してくれたらしい。いい人だ。


 無残になってしまった髪は肩のラインで切り揃えてもらった。やっぱりミリアムが泣いて、申し訳なかった。彼女が切った髪を欲しいというのであげたら、綺麗に結って、まるで宝物のように美しい化粧箱にしまってくれた。ずっと長髪めんどくさーと思っていたけれど、いざなくなると淋しい気持ちになった。

 しかしこれで、ゲームでは髪が短かった理由がわかった。


 毎日、ウォルフ、ジョー、レティが入れ替わり遊びに来てくれる。ミリアムは朝から晩まであたしにべったり。みんなすごく心配をしてくれている。

 本当に調子に乗っちゃったなと、心底反省した。前世、享年17歳のあたし。今回は逞しく生き抜いてやると思っていたのに、あやうく15で死ぬところだった。

 もっと慎重に生きよう。反省。


 それとウォルフに、ミリアムのいないところでこっそりと怒られたこと。

 ウォルフが地面に叩きつけられて動けなかった時、あたしは咄嗟に彼に覆い被さってしまった。

「あんなことは、オレだろうが他のヤツだろうが二度とすんな!」

「…うん」

「あんなことされて助かっても嬉しくない」

「…うん」

「誰も喜ばないからな!」

「…ごめん。体が勝手に動いちゃったんだよ」

 ウォルフは深く息を吐いた。

「…わかってる。多分、どんなに言ってもお前はまたやる」

「気を付けるよ」

「忘れんなよ。これ以上お前に何かあったらミリアムが壊れるぞ」

「うん。それは僕も同感だ」

 わかっているならいい。ウォルフはそう言って、あたしの頭をわしゃわしゃ撫でた。

 あれ。また兄が増えてしまったらしい。

「本当にごめん。助けてくれてありがとう」

 ウォルフはもう一度、わしゃわしゃとした。


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