1章・6 ロック・オン 1
「えーと…」
場所は王立植物園。先週過ごしたベンチ脇。あたしの目前には戸惑っているウォルフガング・ブラン。彼の一歩後ろには、大きな荷物を抱えた侍従がひとり。
あたしはとりあえず、てへっと笑ってみた。
「みんなウォルフガングと友達になりたいって」
あたしの左隣にミリアム。右隣はジョー。その隣がレティ。後ろにはそれぞれの侍従侍女。加えてレティの警護に騎士が二人。予想外の大所帯。そりゃウォルフだって困惑するよね。屋敷を出る寸前まではミリアムだけの筈だったんだけど。彼女を心配してレティとジョーがやってきたのだ。
「と、とりあえず知っていると思うけど」ジョーの肩を叩く「ジョシュア・マッケネン。マッケネン伯爵家の長男」
ジョーはよっ、と片手をあげる。
「その隣が第一王女レティシア・シュシュノン殿下。ジョーの婚約者」
レティは無言、でも優雅に挨拶。
「で、」とミリアムの背に手をまわす。「ぼくの双子の妹。ミリアム・シュタイン」
ミリアムも無言。しかもちょいと頭を下げただけで、怖い顔でウォルフを見ている。
「ウォルフガング・ブランです。…この度はヴィットーリオくんの友達にさせていただき光栄至極。感謝きわ…」
「やめてやめて」
まるでロボットのように語りだしたウォルフを慌てて止める。これじゃ友達じゃない。
「…『ヴィー』よ」
ミリアムの言葉にウォルフはえ?と聞き返す。
「『ヴィットーリオ』なんて図々しい。『ヴィー』と呼んで」
えぇっ、なんで?愛称呼びの方が図々しいんじゃないの?それに
「ぼくヴィットーリオって呼ばれたい」
それが憧れなんだけど。
「それだとヴィーじゃない人みたいだわ」
ミリアムはあたしの両手を握る。切なそうな顔だ。
「それに他の人があなたを、わたしと違う呼び方で呼ぶのはイヤ」
「わかった」
と答えたのはウォルフで。
「ヴィーくんって呼ぶよ」
がっくり。まあ彼女のこんなかわいい顔を見せられて、断れる男の子はいないよね。
「…せめて『くん』はやめて」
「了解」
「それから!」
ミリアムはびしぃっと指をウォルフに突きつけた。空いた手はなぜか腰に。
「わたし、あなたみたいな野蛮な人は嫌いよ。ヴィーに近づかないでほしいわ」
「ミリアム!?」
「お茶会であなたがヴィーを傷つけたこと、生涯忘れないわ。叩いたことも謝らない。でもヴィーはあなたと友達になったと言うの。とても納得できることではないけれど、仕方ないので認めるわ」
はあ、とウォルフは間抜けた返事をする。
「それから」と彼女の話は続く。「わたしが叩いたにも関わらず、ヴィーと友達になると決断してくれたことには感謝するわ。あたしの大事なヴィーを傷つけないでくれてありがとう」
ミリアムは、ふう、と息を吐いた。
なんてツンデレなんだ!かわいすぎる!
「ミリアム!」思わず抱き締める。「いつもぼくのことを考えてくれてありがとう」
「…つまり、なんだ?」
ウォルフは首を捻っていたが、まあいい。
「相思相愛双子なんだよ」とはジョー。「いつもこうだから気にするな」
ウォルフは、はあ、とまた気の抜けた返事。
「とりあえずみんなで遊ぶ、ってことでいいのか?」
そういうこと、とジョーが返事をする。
侍従たちがテキパキと敷物を広げ始める。
「いやあ、」とウォルフ頭を掻く。「誰かは来るとは思ってたけど、ジョシュアだとふんでたんだよな。一応、色々持ってきたんだけど」
と、侍従がウォルフに何か渡す。
「ボードゲーム。三人用」
品が代わる。
「凧。三つ」
また代わる。
「あとはボール。どうする?二手に別れるか?女の子はボードゲームがいいか?」
「ボール!ぼくはボールがいい!」
ボールといってもこの世界のものは、皮を縫い合わせて作ってある。中身に何がつめてあるのか知らないが、けっこう重い。怪我をすると危ないからと、あまりやらせてもらえないのだ。
が、すぐさまストップがかかる。
「ヴィー!怪我をしたら大変よ。それに植物園でボールはどうかしら?」
う、正論。
「大丈夫」とウォルフ。「ここは開けているし、たまにやってるけど怒られたことはない」
「ここで?何で?屋敷から遠くないか?」
とジョー。
「勉強とか仕事をさぼったときだよ。ここは人目につかなくて穴場だからな」
なるほど、と納得するジョー。それから。
「あれ?ヴィーはここで偶然会ったんだよな」
ぎくり。しまった、他のところを言っておけばよかった。
「なんでアンディとこんな辺鄙なところに来たんだ?」
ちらりとミリアムを見れば、険しい表情になっている。
えーと。どうしよう。
「この感じ、逢い引き場所っぽくないか?」
うわあ、ミリアムが怖いよ?
「デートスポットを教えてもらってたんだろ」
そう言ったのはウォルフだった。見ると
「あれ、内緒だったっか?」
と肩を竦める。助け船を出してくれたんだ。
「うん、そんなんだ。実はさ」
えーと、どうする?そうだ。
「レティがジョーと婚約しただろう?次はミリアムの番じゃないか。素敵かっこいい男子がみつかったら、デートのお膳立てをしたいと思ってさ。ランチついでに教えてもらったんだ」
どうだ、完璧!
しかしミリアムの目が剣呑になる。
「わたし、素敵かっこいい男子なんて興味ないと言わなかったかしら」
「…うん。でも、一応さ」
しょんぼりすると、彼女はため息をついて、やれやれという笑みを浮かべた。
「でもありがとう」
やっぱりミリアムは優しいなあ。
「けど、」とジョー「ここは14歳のデート場所としてはどうだろう?女の子に勧めるとこじゃなくないか?アンディてば、フェルに殺されるよ」
はははと渇いた笑い声でごまかす。本当、ごめん、アンディ。知らないところで評判がどんどん下がってるよ。




