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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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1章・4 その少年2

 ◇◇


 翌日、アンディはなんなくあたしを連れ出した。思いの外スムーズに許可が出て、というかむしろ、出立前日にわがままを言う子で申し訳ないとフェルには謝られての外出だ。

 アンディてばシュタイン家からの信頼は厚いんだね。もっと早くにヤツを利用しておけば…

 いや、その先は黙っておこう。


 とはいえ、あたしは一応変装をしている。銀髪は目立つので、茶髪のかつらをかぶり、街の子供のような服装だ。それでアンディの馬に一緒にまたがっている。

 遠縁の子を街案内している、って体なんだけど。

 そもそもアンディが目立ってるよ?

 うちにいるときは気を抜いているバージョンだったんだね。普段より男前度はあがっているし、周囲の反応を見る限り、騎士団のホープなのは確かなんだね。


 そんなアンディに連れられて着いたのは、王立植物園の一隅。薬草や魔法を使った植物の育成研究のための施設なのだけど、その半分は憩いの場として一般に解放されている。

 平日の午前中は人もまばらで、隠れて会うのにもってこいらしい。

 ていうか、絶対逢い引きにつかってるよね?


 赤毛の少年とここで落ち合う手筈になっている。

 最初、そんなに簡単に来てくれるのかと疑問に思ったが、なんてことはない、アンディと彼は顔見知りなんだそう。


 彼の名前はウォルフガング・ブラン。ブラン伯爵家の長男だ。ゲームの攻略キャラではないのは確か。でもモブにいたような、いないような。何しろだいぶ記憶が曖昧になってきているので、確信が持てない。

 年はあたしと同じ。この前一緒にいた姉の他に二人の姉、ひとりの妹がいるそうだ。顔見知りと聞いた当初、アンディは姉を通してウォルフガングと知り合いなのかとドン引きした。けど違ったらしい。


 ウォルフガングは騎士団が指導している少年団に所属しているのだそう。少年団は未来の騎士の育成を目的に、15才までの少年に剣術・武術・馬術を指導している機関だ。貴族、一般市民関係なく無料で入団できるし、辞めるのも、卒団後に騎士団に入らないのも自由だ。

 アンディとフェルも入っていたし、ジョーも準団員だ。

 指導は騎士団の小隊が順番に担っているので、少年団に入れば全ての騎士団員と知り合うことができる。

 実はあたしも入りたいと思ったのだけど、剣を片手で5分と持っていられず、諦めた。腕の筋力には自信があったぶん、ショックだったなあ。


 ウォルフガングはアンディから見ても筋がいいので、何度となく直接指導しているらしい。

 もっともブラン家は商売をしているから、その跡取り息子が騎士になることはないだろうけど、とアンディ。

 それをわかったか上で指導をしているアンディって、やっぱりいいヤツなんだなあ。


 そんな関係だから、アンディが確実にウォルフを呼び出せるという手紙を書いてくれたのだ。

 木陰のベンチに並んで座りながら、

「なんて書いたの?」

 と尋ねたら。

「薬を買いたいけど、人に知られると恥ずかしい。内密で買わせてほしい。ひとりで持ってきてくれ」

「え?恥ずかしい薬って何?」

 めっちゃ気になるんですけど!


 と、真っ赤な髪がちらりと目に入った。見ればこちらへ走ってくるウォルフガング・ブランだった。

 息急ききって駆けて来ると、アンディの前で止まって直立不動。一瞬敬礼をしようとして、やめた。内密で、というのを守ってのことかもしれない。今日の服は真っ黒ではなく、若草色を基調にした揃えだった。

「遅くなって申し訳ありません」

 それからちらりとあたしを見て、すぐに視線を戻した。アンディ、尊敬されてるなあ。


「こっちも今来たところだ。それより悪いな、無理を言って」

「とんでもありません」

 ウォルフは言いながら上着の内側に手を入れた。やけに膨らんでいるなと思ったのだ。そこから紙袋を取り出した。

「こちらです」

 と両手で差し出す。幾ら?なんてやり取りを終えたあと。

「すまん、実は本題はこいつなんだ」

 アンディはあたしの頭をこづいた。

 ウォルフの目がしっかりあたしを見た。あたしは立ち上がった。


「ずるい手で呼び出してごめんなさい。ぼくはヴィットーリオ・シュタインです」

 彼はああ、と小さい声を出した。

「どうしても直接話したくて、アンディに頼んだんだ。時間をもらってもいいかな?」

 彼が頷くと、今度はアンディが立ち上がってウォルフにここに座ってと促した。

 でも彼は座らず、アンディは少し離れた木の幹に、こちらに半身を見せるようにもたれかかった。

 遠すぎず近すぎず、こちらの声は聞こえていないふりができる距離だ。


 視線をウォルフに戻すと、ばちりと目があった。怒ってはいないようだけど、やっぱり目力が強い。ちょっと取っ付きにくい印象だ。

「俺はウォルフガング・ブランだ」

 ウォルフは頭を掻いた。

「この前はすまん。つまらないことで腹を立てた」

 先に謝られてしまった!

「いや、ぼくが失礼なことを言ったから」

「いや、あれくらい嫌みでもなんでもない。そんな口調じゃなかった。俺が、あのときはちょっと、不器用って言葉に敏感になっていたんだ。本当にすまん」

 ウォルフはばっと頭を下げた。

「とんでもなく失礼なことを言った」

「うわあ、頭を上げて上げて!今日はぼくが謝りに来たんだ!」

 あれ?あれ?あれ?本当に最初の印象と違う。いいヤツじゃん!

「確かにぼくも、容貌のことを言われたのは辛かったけど!でも、ミリアムが大騒ぎしちゃって。あ、叩かれた頬は大丈夫だった?」

 ウォルフは頭を上げて、初めて 笑みを見せた。

「なかなか強烈だった。翌々日まで腫れてたぜ」

「ええっ、そんなに!ごめん、本当に。ミリアムはぼくが筋トレを頑張っているのを知ってたから、ついあんなに怒っちゃったんだ。兄思いの優しい子なんだ」

 彼は一瞬だけへんな表情をしてからぶっと吹き出して、それから慌てて口を手で押さえた。

「筋トレ、してるんだ。それは怒るわな」

 ちょっとだけ、本当にちょっとだけむっとして、引いてウォルフガングの頭から爪先まで見た。悔しい。彼も年相応の男子っぽい体つきだ。

 その視線に気づいたのだろう、彼は顔を引き締めた。

「悪い、知らなかったとはいえ、本当にひどいことを言った」

 ウォルフは再び頭を下げた。真摯な目だった。


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