番外編・遠足の忘れ物
主人公マリアンナの話です。
二学年一学期の終業式の日です。
終業式後、教室に担任が来ないまま、クラス委員たちによってホームルームが終了した。みんなはにやついた表情で、噂話に花を咲かせる。
そりゃそうだよね。担任が全生徒の前で同僚、つまり美人で人気者、だけど嫁に行き遅れのキンバリーとの結婚宣言をしたのだから。
どうなっているんだ、いつから付き合っているんだ、いやゲインズブールの妄想じゃない?、とかの言葉が飛び交う。
ゲインズブールの特別レッスンを受けていた私も質問責めだ。面倒なので、なにも知らないで押し通す。
どのみち私だって、つい最近までゲインズブールがキンバリーにぞっこんだとは気づかなかった。
よくよく考えてみれば、二人は付き合っていたからああだったんだ、と思うことはポロポロある。
研究室に勝手に住み着いていたゲインズブールに、キンバリーは食事を届けていた。あれってそうやって、自然に会える時間を作っていたに違いない。
キンバリーは寮にいる時もあの定番セットの服装をしているけど、あれ、実は朝帰りを誤魔化すためなんじゃないかと踏んでいる。同じ格好をしていたら、それが今日の服なのか昨日の服かは判別つかないもんね。
長期休暇だって、キンバリーが実家に帰っているときはゲインズブールもいなかった。愛しい女がいない学園には用がないからだろう。
全く。人が必死に魔力を磨く練習をしている傍らでいちゃこらしていたのかと思うと……。
まあ、今は腹は立たないな。
どっちかというと、みんな良い結婚相手がいて羨ましい、だな。
あぁあ。何が悪かったんだろう。
……あたしの性格、というのはなしで。
そろそろ質問責めが億劫だ。カバンを手に取り立ち上がる。
「ごめん、私、呼び出しくらってるんだった」
「えっ、誰に!?」
クラスメイトの顔が強ばる。
「分かんない。名無しのラブレターだったから。またね」
なんだ告白か、と胸を撫で下ろしている(何の呼び出しだと思ったんだ)彼女たちに手を振って、教室を出る。なんだか隣のクラス前が騒がしい。
ああ、そうだ。王子のくせに立たされているマヌケがいるんだっけ。
振り返ると、バレンとモブ委員が教師に叱られている。何をしたんだろ。
まあ、いいや。
静かな方の廊下を進み階段を下りようとして、その先にクラスの男子がひとりで下っているのが見えた。
……去年の遠足で、あたしが利用したヤツだ。あれ以来、まともに口をきいていない。
カバンの持ち手を握りしめる。
階段を駆け降りた。
ヤツに追い付き、その背中をバンと叩く。
「な、何!?」驚いた顔。「あ、マリアンナ」
「ごめんね!」
「え?」
「あの時、悪かったわね!」
ヤツの顔が笑顔になる。
「僕も。いくら君の気を引きたかったからとはいえ、あんなことは断るべきだった」
「……呆れるくらい、お人好しね。ヴィアンカとタメを張るわよ」
「しょうがない、君の顔は僕の好みど真ん中だから」
「顔!?顔だけ!?」
「性格に自信があるのかい?」
「ないわよ!」
ヤツは楽しそうに声を上げた。
「君は変わったね。ま、僕もだけど。あのおかげで利口になったよ」
「あら、じゃあ感謝しなさいよ」
「したら付き合ってくれる?」
「断るわ!」
「僕もね!」
「何それ」
ふふっと笑ったヤツは。
「マリアンナ」
「何?」
「謝ってくれて、ありがとう」
それじゃ、と言ってヤツは走って行った。かなりの距離があいたところで振り返り、
「また、二学期な!」
そして今度こそ止まらずに走り去った。
「うん。二学期」
見えなくなったヤツに小さな声で返事して。
ようやく胸のつかえがひとつ消えた気がした。
「そういえばあいつ、子爵家の嫡男か。狙えるかな?」
私みたいなバカを赦せるお人好しなんて、なかなかに器が大きい。
ドキドキしているけど。これはさっき階段を駆け降りたせいだ。
多分、ね。




