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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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エピローグ

 馬から降りると伸びをした。久しぶりの長い乗馬で、ちょっとだけ疲れた。

 一年ぶりの物見塔の廃墟。

 馬を繋いで戻ってきたアンディが、わたしを見て、

「やっぱりズボンのヴィーも可愛いな」と言う。

 出掛ける前にも同じことを言ってたのにね。

 遠乗りのために二ヶ月ぶりにズボンをはいた。前はこれが当たり前だったのに、アンディの前だとどうしてか恥ずかしい。もちろん今後も遠乗りのためならはくけどね。


 二人で以前と同じ崩れた塀の石積に並んで腰かける。シェフが作ってくれたサンドイッチをリュックから取り出して、二人でわける。ここへ来る道の両側は変わらず牧草地でカウベルをつけた牛がのんびり草をはんでいる。

 以前と違うのは、アンディがわたしの隣に間をあけずに座っていること。

 それとお揃いの指輪をしていること。お互いにプレゼントしあった竜胆の指輪。わたしは学校が休みの日は、指に嵌めている。それだけで、なぜだか嬉しい。えへへ。


 初めて連れてきてもらったここへの遠乗り、目的はミリアムの相談だった。だけどとても楽しかった。

 …そういえば楽しくない遠乗りもあった。すっかり忘れていたけど、マッシモがなにか言ってたよね。


「ねえ、アンディ。春にフェルと三人で遠乗りに行ったよね」

「ああ。あれはすまなかったな」

「なかなか行けなかったのは、仕事が忙しかったからじゃなかったの?」

 え?と言ってアンディは目を反らした。

 これは本当らしいぞ。

「マッシモに言われたの。アンディに聞いたほうがいいって。それと、なんでフェルが一緒だったかも」

「あいつめ」

 と呟くアンディ。

「なんで?行きたくなかったの?すごくすごく楽しみにしてたんだよ」

 色々と考えるきっかけにはなったけれど。でもあんなに待ったのに、ようやく行けた遠乗りで『おまけ』だったのは、本当に悲しかった。

「ヴィー」

「うん」


 アンディの顔が近づいてきて唇を重ねる。

 わたしはもうスムーズに目を閉じられるようになった。だけどドキドキする。いつまでたっても慣れることができない。


 顔が離れると優しく頬を撫でてくれる。嬉しいけど。

「ごまかした」

 不満を伝えると。

「違うぞ」とアンディは苦笑する。「人寂しいところへ二人きりで遠乗りに出掛けて、お前にこうしないでいられる自信がなかったんだ」


「…そうなの?」

 多分、今のわたしの顔は真っ赤だ。

「ずっと必死に我慢してたんだ。それなのにお前はいつの間にか他の男にされていたしな」

 ギクリ。だってそんなことされるなんて思ってなかったもん!

「い、今はもうガマンしなくて大丈夫だよ」

 そうだなとアンディはもう一度キスをしてくれた。


 そっとアンディの服の端を握る。わたしがこうしていたのと、同じような気持ちなのかな。




 キンバリー先生が童話の呪いとキスの話をしたことがあった。

 実はあれ、アンディがわたしにキスする口実を作りたかったんだそう。

 せっかくわたしが自分が女の子だと知ったのに、いつまでもアンディが兄と弟ごっこ(先生がそう言った!)をしていることに、イライラしていたんだって。


『かえるの王様』の本を押し付けられたのも、同じ理由だったらしい。


 先生てばお節介だよ!


 それともうひとつ。絶対に内緒だよ、と言って教えてくれたこと。わたしがバレンとウォルフガングに悪ふざけで頬にキスされたと白状したとき。アンディは嫉妬と怒りでものすごい顔をしていたんだって。

 ヴィーちゃんてば全然気づかないんだもの、と先生は言った。


 だけどな。今にして思うと、たとえ悪ふざけだとしても、キスされたことをアンディに知られたくなかったのだと思う。あの時わたしはアンディの顔を見られなかったんだもん。


 先生もわたしのこの気持ちに気づいていたみたいで、あんな話題をふってごめんねと謝ってくれた。


 ただ。先生てば、あれだけ煽ったのに兄のままでいるアンディってダメ男だと思ったわー、と笑っていた。



 そんな先生は先日結婚した。とてつもなく綺麗な花嫁で、なんでこの世界にカメラがないのかと地団駄を踏んだよ。


 幸い、先生は仕事を続けている。結婚後に働いている貴族の女性なんて、滅多にいない。先生のいない学校なんて楽しくないから、ゲインズブールが心が広くてよかったと思ったのだけど、そうではないらしい。

 弟さんによると、自分がいつでも先生の近くにいたいからなんだって。教師になったのも、学校に棲息していたのも、それが理由らしい。どれだけ先生のことが好きなんだ!


 もちろん、二人はもう寮にも学校にも住んでいない。ちゃんとゲインズブール邸から通っている。先生は子爵夫妻と仲良くやっているそうだ。


 晴れて夫婦となった二人。これでゲインズブールも少しは愛想が良くなるかと思ったのだけど、全く変化なし!弟さんによると、子供のころからあんな性格なんだって。

 そんなヤツのどこが好きになったのとキンバリー先生に尋ねたら。自分のやりたいように生きているところって答えだったよ。

 …先生。お似合いだよ。お幸せにね。



 ◇◇




 ランチのあとに塔に登った。

 一年前と変わらない絶景と抜けるように青い空。なんだかすごくあの日が遠い昔のように感じられる。

 あのときは自分が女の子だとは思いもしなかったもん。

 アンディと初めての遠乗りがすごく楽しくて嬉しくて。ずっと先の未来まで一緒にあちこちへ行けたらいいなと思ったんだ。




 そうか。

 あのときわたしはアンディが好きだったんだ。




 隣に立つアンディを見上げる。

 また逆光で顔がよく見えない。目を細めてなんとか表情を見ようとして、ふと思い出した。

 アンディがわたしに好きだと言ってくれたときの、変な顔。見た記憶があると思ったけれど、それはこのときに見たんだ。

 旅の話をして、こうやって見上げたとき。なんとも形容し難い表情をしていた。


「どうかしたか」

 黙っていたわたしの頭を優しく撫でくれる。

「…ここで旅の約束をしたね」

「そうだな。遠い昔のようだ」

 思わず吹き出した。

「わたしも同じことを思ったよ」

 そうかと言って遠くを見るアンディ。

 気のせいかな。泣き出しそうな表情に見える。


「実はな」

「うん」

「お前が旅の話をしたとき、俺は一緒に行きたいと思った」

 アンディは頭を撫でるのをやめて、手を繋いでくれる。わたしの大好きな大きな手。温かい。

「ここにお前と登るのは、最初で最後のつもりだったんだ。なのに旅を想像したら、次の秋もその次の秋もそのずっと先まで、お前のそばにいたくなった。命をかけることなんてしたくない、いつまでも二人でいたいって思ったんだ。それでな。唐突に気づいた。俺はお前が好きだって」


 アンディ。

 切ないのか嬉しいのかわからなくなって、そっと繋いだ手に力をこめた。

 二人でまたここに来られて、よかった。

 たくさんの人に助けてもらえた。ありがとう、と声を出さずにお礼を言う。


 アンディは表情を一転、苦い笑いをこぼした。


「参ったよ。自分の気持ちに愕然としすぎて、正直なところあの日どうやって帰ったかよく覚えていない」

「ええっ!」なんですって!?「農場は!?葡萄を踏み潰すのを一緒に参加させてもらったじゃない!」


 帰りに寄った農場はワインの仕込みの最中で、付近の農家総出で葡萄潰しをしていた。そんな忙しい中、興味津々のわたしたちを快く飛び入り参加させてくれたのだ。


「すまん。本当に焦っていて、おぼろげにしか記憶にない。お前の前で平静を保つのに精一杯だった」

「そんな!あんなに楽しかったのに!」

「ごめんな」

 なんてこった!あたしにとって素晴らしい一日だったのに。ろくに覚えていないなんて。

「怒ったよ!今日はリベンジだ!また農場に寄ってやらせてもらおう!」

「寄るのはいいが…」

「『いいが』?」

「…足を出してほしくない」


 葡萄を踏み潰すために裸足になってズボンを膝上まで、たくしあげた。農場の年頃の女の子たちなんて、スカートを同じように膝上まで持ち上げていて、きれいな足をむき出しだった。踏む人たちもそうじゃない人たちも、お祭りのような騒ぎですごく楽しかった。

 だけど。


「…わかった。見学だけでガマンするよ」

 お前も大人になったなあ、ってアンディは笑いながらわたしの額にキスをした。



 わたしだってアンディを守りたい。

 隠し事をされるのも嫌。

 ちゃんと相談してほしい。

 だから大人になるんだよ。



 そう言うとアンディは優しい顔で、必ず相談するよと言って抱きしめくれた。


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