4章・最終話 終業式 1
一学期最終日。
二年生になってからの四ヶ月は色々なことがありすぎて、早かったような長かったような不思議な感覚だ。
終業式のためにみんなで講堂へ向かいながら、前の方を歩くマリアンナの後ろ姿をみつけた。寮の子たちと仲良さそうに話している。
彼女が臥せっていたときのこと。キンバリー先生ひとりで付き添うには限界がある。そんなときは寮生が交代で看病してくれていたそうだ。
フェヴリエ・パーティーから少しずつ変わっていた彼女だったけれど、事件のあとで更に丸くなった。事件のことも口をつぐんでくれている。
彼女が恐れていたバッドエンドも終わって、完全にゲーム後の日々になった。その辺りも影響があるのかもしれない。ようやく『ゲーム』じゃない彼女の人生が始まったのだものね。
マリアンナは、アルをはじめとする攻略対象はあきらめるけど、他の貴族の息子を捕まえるんだと息巻いている。
わたしは遠くから応援しているね、と伝えた。
だってキンバリー先生はまた、協力を要請されたって呆れていたからさ。先手を打ったんだ。だけど必要なかったみたい。
あなたみたいな鈍感に頼むことなんてないわよ、と言われてしまった。その代わりに、結婚式の招待とドレスを忘れないでだって。もちろん、と返事したよ。
キンバリー先生はアンディにものすごく怒っている。計画に無理やり付き合わされたことをだ。一生許さん!と言っている。でもそれだけ心配してくれていたみたい。わたしのことも。アンディのことも。
わたしたちが婚約することを、とても喜んでくれた。先生には二人で報告したのだけど、そのときのわたしは言いにくいことをひとつ抱えていた。旅の話だ。
実はアンディに、キンバリー先生を誘ったことを話していなかった。今になってみると、わたしってば誘っておきながら、心の底ではアンディと二人で行きたかったんだと思う。
だから正直に、アンディにはキンバリー先生も誘っているから三人で行こうと話し、キンバリー先生には結婚してない三人組ではなくなってしまったことを謝った。
そうしたら二人から同時に、何を言っているんだと呆れられてしまった。
アンディは
「俺は二人でしか行かない」と言い、
キンバリー先生は
「最初から行く気はないよ」
と言った。
「そりゃスキーはしたいけどね」と先生。「そんなことしたらアンディに殺されちゃうじゃないか。彼、けっこう嫉妬深いし独占欲も強いよ。ヴィーちゃんってば、まだ気づいてないの?言ったよね?ヴィーちゃんの前でカッコつけてるだけだよ、って」
そうなの?とアンディの顔を見たら、そっぽを向いて、そんなことはないぞと言った。
「じゃあ先生が気づいたあれこれをヴィーちゃんに話してあげよう」
ニヤリと悪い笑みを浮かべた先生。
「言ったらお前の秘密も言いふらすぞ!」と怒るアンディ。
この言葉に悲しくなった。以前二人は恋人同士だった。わたしの知らないことがたくさんあるのだろう。
その帰り道でのこと。アンディはさっきのは悪かったと言って、こっそり先生の秘密を教えてくれた。
気分がよくなったわたしは、ついでに先生が話していたあれこれも教えてと頼んだのだけど。忘れてくれないと旅には行かない、とすねられてしまった。
カッコ悪いからイヤなんだって。気になるなぁ。
マリアンナたち寮組から少し距離をおいて、ぺルルが一人で歩いている。視線を感じたのか振り向いて、わたしと目があうと、走って行ってしまった。
あの日以来、彼女はいつもそうだ。それにいつもオドオドしている。わたしを傷つけたくて秘密をバラしたものの、罪に問われないか怖くなったのだろう。わたしは誰にも話すつもりはないし、もう半年近く経っているのだから、そのことに気づいてもよさそうだけどね。
講堂に入るとバレンの姿が見えた。クラスの列に並ばずに、ディアナと話している。
ジョーによると、最近二人はいい感じなのだそうだ。真面目なディアナをバレンがからかってばかりらしいけど、なんだか甘い雰囲気なんだって!
この前バレンが、卒業後もシュシュノンに住むのも悪くないと話していたんだけど、きっとディアナのことを考えての発言だったんだね。
だけど、なんで委員会が一緒のわたしよりジョーの方が二人について詳しいのかが不思議だ。
クラスの場所まで来ると、委員として声かけをしてから列の先頭に立つ。
エアコンなんてもちろんない講堂は暑くて、窓も扉も全開だ。入ってきた強めの風がスカートを揺らしたので、慌てて押さえる。
すっかり忘れていたけど、こういうところが女子ってめんどくさい!
それにしても、シュシュノン学園に入学したときは、まさか女子の制服で通う日が来るとは思わなかったよ。
クラスのみんなには、思いの他スムーズに受け入れられたし、当初の恥ずかしさも消えた。めんどくささはあるけれど、今は女子のわたしを楽しんでいる。
ただな。
学校でもジョーとレティは変わらずラブラブで。ミリアムとアルは淑やかにラブラブで。わたしはちょこっとだけ淋しい。わたしもアンディと一緒に学校に通ってみたかったな。
でも前世から憧れていた放課後デートはしてるもんね。
だけどデート中にうっかりアンディの同僚に会うと、大変。ヒューヒュー言われる。あんなの実生活で言われることがあるなんて思わなかったよ。
マッシモが言うには、同僚たちはアンディが結婚を決めたことに安堵して、冷やかしているそうだけどさ。
まあ、恥ずかしいけど、悪い気はしないかな。
結婚といえば。
ミリアムたちは来月正式に婚約をする。ちゃんと良き日を選んだ。
一方でアンディとわたしは、父親同士が喧嘩をしていて、いつまでたっても話がまとまらない。呆れた陛下の、息子たちと同じ日にしてしまえとの一言で、婚約が決まった。
わたしたち、大丈夫なのかな。結婚式までそんな風に決まるのかな。なんて。わたしはアンディと一緒にいられればなんだっていいんだ。式をしなくたって全然構わない。
だけどアンディのほうが、こだわっている。
アンディが自分でわたしの呪いを解こうとしたのには、いくつもの理由があるらしい。そのひとつが、わたしを幸せな花嫁にしてあげたかったからなんだって。
昔、アンディの元婚約者の花嫁衣装の姿を見に行ったときのこと。わたしから強烈な感情を感じ取ったそうだ。ウェディングドレスと結婚に対する強い憧れと、その日が来ないことへの深い悲しみ。そんな風に読み取れたらしい。
実は、そうなんだ。あの時わたしは、前世も今世も美しい花嫁になれない自分が悲しくて、それを紛らわせるために余計にはしゃいでしまったんだ。
わたしの感情を知ったアンディは、なんとかしてわたしを女の子に戻して、素敵な結婚をさせてやりたいって思ったんだそうだ。
もっともこの話はフェルから、内緒だよとの約束の元、教えてもらった。またわたしが、婚約の破談を自分のせいだと思い込んだらイヤだとアンディが言っているからだって。
だけど今になっては、元婚約者さんに感謝している。アンディと結婚しないでくれたおかげでわたしは一緒にいられる。どこかで幸せに暮らしていることを祈ってるよ。
アンディには、フェルから聞いた話は抜きで、そう考えていることを伝えた。そうしたら久しぶりに頭をわしゃわしゃしてくれた。
だけどそんなことがあったから、アンディはわたしに素敵なウェディングドレスを着せて、たくさんの人に祝福される結婚式をあげたいみたい。そのために父親同士に仲良くしてもらおうと、色々と画策をしている。けど、ことごとく失敗。二人の仲はこじれまくっている。
ただ、アンディが絶縁されることはなくなった。父君は息子をシュタイン家に取られるのだけは絶対に阻止したいんだって。
ブルトン家に嫁いでも、アンディが婿に来ても、父親で苦労するぜ。だから俺のところへ来い。って時々ウォルフに言われる。軽い口調で、冗談めかして。
わたしも女の子に戻って成長した。
ウォルフと同じような口調でお誘いをかわしながら、申し訳なさで胸がいっぱいだ。
とはいえ、ウォルフはほとんど以前と変わらない態度で接してくれている。学校外で、二人で出かけることがなくなったくらい。みんなで遊ぶことはあるし、お互いちゃんと楽しめていると思う。
それにしても前世も今世も、式と名のつくものはなんでこんなにつまらないのだろう。
暑いのだし、早く終わってほしい。
「では次は」と司会が言う。「夏期休暇中の諸注意。ゲインズブール先生」
やった。ゲインズブールなら、短く済むよ。




