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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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幕間・兄の焼き餅

兄フェルディナンドの話です。

 昼休憩に親友の執務室行くとマッシモしかいなかった。あいつは出かけたと言う。

「仕方ない、お前で我慢してやる」

 とマッシモに言うと

「頭を下げるなら考えてやる」

 と返された。いけ好かないヤツだ。

「まあ昨日の話も聞きたいし、食事ぐらい行ってやるか」

 とマッシモ。二人で近くの食事処へ出かけることになった。




 昨日、僕の父と騎士団長が陛下の御前で乱闘をした。なかなか互角のいい勝負だった。あちらは現役の騎士なんだからハンデをくれてもいいのに、それはなく、だけれど父は意地で引き分けに持ち込んだ。

 さすが僕の父。


 原因はヴィアンカとアンディの結婚だ。

 そもそも騎士団長があいつの結婚期限を今年に設定している時点で、僕の可愛いヴィアンカを弾いているのだ。そうじゃなくてもあの父親は、自分の意見を押し付けるばかりで息子を苦しめていることにまるで気づかない馬鹿者だ。

 そんな狭量で卑怯で阿呆なヤツの家に、ヴィアンカを嫁がせるわけにはいかない。結婚するならアンディがうちへ入れ。それが父と僕の考えだ。あいつは即答だった。そりゃそうだ。


 乱闘のあと、陛下に設けられた話し合いの席で、改めて僕たちの意見を述べた。

 すると騎士団長は、いつ女に戻るかわからなかったヴィアンカは排除して当然だと父に言った。

 危うく第二ラウンドが始まるところだったのだけど、さすがに陛下に止められた。

 結局なにも解決していない。


 ひとつだけ判明したこと。騎士団長は、あいつかがペソアから帰ってきたときの、ヴィアンカとの再会の様子を見て不安になったらしい。大事な息子が、いつ女に戻るかわらないヴィアンカを好きなのではないか、と。それであんな期限を設けたそうだ。


「あのときのアンディは、お前に再会した時よりも嬉しそうだったものな」

 とマッシモが思い出して笑う。親友の副官であるこいつもあの場にいた。

 僕はその様子に気づいていたけど、気にならなかった。

 あいつがヴィアンカを可愛がっていたのは昔からだ。あんなの通常通りだ。

 あの蒙昧な父親が知らなかっただけのこと。


 もっとも親友は、父親の危惧した通りになった訳だけど。



 あの馬鹿は目覚めた後もずっと、ヴィアンカを好きなことを僕に隠していた。一連の計画については正直に、恐らくは全てを白状したのに。僕も意地になって、あいつが自分から言い出すまで知らないふりをすることにした。

 僕なんてエレノアを好きだと気づいたときは、すぐさま誰よりも先に打ち明けたのに、ひどい仕打ちだ。


 ようやくあいつの口から聞きたかった言葉が聞けたのは、ヴィアンカへの告白が済んだ後だ。腹が立つ!


 その晩夜通し質問攻めにしてやった。

 なんで全てが終わったにも関わらず、僕に打ち明けてくれなかったのか。

 答えは簡単だった。ヴィアンカにとって自分は兄だ。なのに自分はそうじゃない。それを僕が知ったら板挟みになって悩むと思ったそうだ。


 馬鹿馬鹿しい。

 ひとりで抱え込むなと言い続けてきたのに、あいつは子供の頃から何も変わっていない。そんな悩みなら幾らでも歓迎だ。いや悩みすらしない。惜しみ無く協力するに決まっているじゃないか。


 というか、そもそも僕は気づいていたぞと言ったら、あの阿呆は驚愕していた。よくもあれで隠せていると思っていたもんだ。



 いつから好きだったのかとの質問には、去年の秋頃との答えだった。僕もその頃に、もしやと思ったのだった。



 …あの馬鹿は、最高位の解呪の呪文の存在を知ったとき、迷うことなく自分でやる決意をしたそうだ。その時はまだ、マリアンナは見つかっていなかった。シュシュノン王家の抱える《癒す者》たちはみな、それをやりたくなくて何年にも渡って揉めていた。そもそもあいつは《癒す者》たちよりも魔力が強かった。


 だから。即決したあいつは大師に師事して魔力を最大限に引き上げて、僕たちが悲しむことがないよう秘密裏にことを進めるための綿密な計画を、時間をかけて練り上げた。


 そんなあいつのたったひとつの誤算が、ヴィアンカを好きになってしまったことだったそうだ。

 自分の気持ちに気づいたときは相当狼狽えたらしい。それが僕がもしやと思うことに繋がった。


 ずっとまともな恋愛ができないことが悩みだったのに、まさかこんなことになるなんて、とあの阿呆は苦笑していた。




「それよりお前」とマッシモが行儀悪くフォークを僕に向けてニヤニヤ笑う。「アンディの告白を覗き見していたんだってな。さすが馬鹿兄のすることは違う」

 またこいつは、いらぬことを知っている。なんであいつはベラベラ喋っているんだ。

「仕方ないだろう。僕だって苛々していたんだ。このまま兄を続ける気なのかとな。まったくあの馬鹿が」


 なぜグダグダしていたかも聞き出した。自分を兄と慕っているヴィアンカに実は好きなんだなんて告白をして、彼女がどう感じるのか。他人の感情を感じる魔力をなくしたあいつには、それがもう判らない。だから躊躇っていたそうだ。

 つまり臆病で自信のない馬鹿者だったんだ。


 …まあ。生まれたときから当たり前にわかっていた他人の感情が、まったくわからなくなったのだ。戸惑い慎重になるのはわからなくもない。だけどやっぱり腹は立つ。



「だからって覗くか」とマッシモ。

「だいたいあの阿保、あんなのはヴィアンカから告白したようなもんだ。意気地無しめ」

「俺もあいつがあそこまで鈍感だとは思わなかった。どう見たってヴィアンカはあいつを好きなのに、気づかないなんてな。まったく、どこに目がついてるんだか」

 本当にその通りだ。

「ヴィアンカは自分であいつを兄だと思い込んでいたみたいだからな。感情の表面は、それしかなかったんだろう。あの阿保はそればかりに気をとられて、彼女の態度を見てなかったんだ」

 マッシモも、そうだったんだろうなと同意した。



 キンバリーが昔言っていた通り、本当に鈍感だ。当人たち以外は、ヴィアンカの気持ちを知っていたのに。

 確かに以前はアンディを兄のように思っていただろうけど、やはり去年の秋ぐらいから徐々に変わっていくのが目に見えてわかった。だから僕は何度もあいつに、ヴィアンカの思いが本当に兄へのものなのか確認したんだ。いい加減気づいてやってくれとの気持ちをこめて。


 ヴィアンカがお前を好きなことぐらいミリアムも父も、ウォルフガングだって気づいていたと告げたらあの馬鹿は、心底驚いていた。


 今まで歴代の彼女たちとうまくいかなかったのは、特殊魔力のせいだけじゃなくて、あいつの鈍感さにも原因があったんじゃないか?

 キンバリーにそう言ったら、そんなのとっくの昔に気づいていたけど?と呆れ顔で返された。



「…というかいつヴィアンカに会った?」

 僕は手にしていたパンを置く。そんな話は聞いてない。最近うちの屋敷に出入りし始めたけど、それ以前には、見かける程度のことはあっても、じっくり会う機会はなかったはずだ。


「出た、馬鹿兄だよ」とうんざり顔のマッシモ。「詳しくは言わないぞ。ヴィアンカが自分の呪いを知ってアンディを頼ったときだよ。以上」

 …ヴィアンカがそれを知って真っ先に頼ったのがアンディだと聞いた。勿論僕は嫉妬したさ。そのときにこいつまでいたなんて。しかもヴィアンカが、秘密をバラした相手を庇っているそうで、その辺りの詳細だけ、親友も教えてくれない。


 ちなみにヴィアンカの頼みで、彼女が真実を知っていたことは誰にも話していない。ミリアムにも、父にも。

 彼女と親友、僕、マッシモ、キンバリーの五人だけの秘密だ。



「面白くないな」と僕。「ヴィアンカが僕を頼ってくれなかったのもそうだけど、なんで僕だけ蚊帳の外なんだ」

 マッシモは肩をすくめる。

「お前がシスコンの変態だからじゃないか」

 それから何か思い出したのか、ニヤリと笑った。

「なんで遠乗りのときにアンディがお前を拒まず連れて行ったか聞いたか?」

「…なんだそれは。理由があるのか?」


 僕は何も聞いてない。

 そもそも一緒に行くつもりなんてなかった。

 あの頃、キンバリーに求婚中のはずなのにヴィーをいとおしそうに見ているあいつの本心が見えなくて、僕は苛々していたし、同時にあいつを慕っているヴィーが心配でならなかった。

 どんなにあいつに質問しても、求婚は本気、ヴィーは可愛い弟との意見を変えることはなかった。

 遠乗りに僕も一緒に行くと言えばきっとあいつは嫌がるだろうから、そうしたらそれを取っ掛かりに本心を暴いてやるつもりだったのだ。


 それなのに予想に反してあいつは、僕の同行を喜んだ。やはり僕の勘違いで、あいつの本命はキンバリーなのか。そう思った。

 それなのに、あれには理由があったというのか?


「情けなくて笑えるぞ」とニヤケ顔のマッシモ。

 …なるほど。

 ここ二週間ほどのあの意気地無しの素振りを考えれば、なんとなく想像がつく。だけど。

「なんでお前がそんなことを知っているんだ」

 マッシモは更にニヤニヤする。

「そりゃ、聞いていたからな。あいつがヴィアンカを好きなこと」

「何!」


 思わずテーブルを叩いて立ち上がると、カトラリーが音を立てて床に落ちた。周りの客の視線が痛い。

 給仕がやってきて新しいものを置く。僕はすまんと謝り椅子にすわった。


「本当、お前って溺愛してる相手はとことん溺愛するよな」

 極端すぎるぜと呟くマッシモ。


「なんでだ、僕は聞いてなかったのに」ニヤニヤ笑いのマッシモ。「その気持ち悪い顔面に拳を叩きこんでやろうか」

「昨日は父親で今日は息子が乱闘か?愛しいエレノアと可愛い双子が心配するんじゃないか?」

 そうだな。こいつ相手に無傷では済まない。

「いつから知っていた」

「年末かな」

 半年も前じゃないか!

「何故だ!親友は僕なのに!もっと殴っておくべきった!」


 その間僕なんて、キンバリーに求婚しただなんて嘘をつかれていたのに。その嘘がどんなにショックだったことか。ヴィーのことを思ってかなり悩んだんだぞ。


 僕の激しい責め立てに、あいつはひたすら床に頭をこすりつけて謝っていた。だけどあいつはあいつなりに、僕たち兄妹を思って秘密裏に解呪することに全身全霊をかけていたようだから、赦してやったんだ。

 でも、これは赦せん。



「知りたいか?」

「何をだよ」

「あいつの情けないエピソードの数々」


 僕はムッとする。なんでそれを親友の僕が話す側でなくて聞く側なんだ。おかしいだろ。

 ここにあいつがいたら、腹に一発決めてやるのに。


「…そういえば、あいつはなんでいなかったんだ。まさかまた仕事を詰め込まれているのか」

「いいや。ブラン商会に行ってる」

「なんでそんなところに」

「せめてもの罪滅ぼしに、ウォルフガングの上半期のノルマ分の買い物をしてくるってさ。夕方だと本人がいるかもしれないから、気を使って今行ってるんだ」

「…聞いてない」

「そりゃ昼前に思い付いたばかりだからな」


 ウォルフガングも、まあまあいい男だ。アンディが本当に駄目なら、考えてやるつもりだった。


 …あの阿呆は。計画を胸に秘めてペソアから帰国したとき、ヴィアンカにとって彼が最高の友達になっていたこと、僕がエレノアとレオノールに骨抜きになっていたこと(!)から、自分に万が一があった場合に、彼女を任せられるのはウォルフガングだと決めたそうだ。


 あんなにウォルフガングを推しまくって、ヴィアンカの呪いが犠牲なく解けた場合はどうするつもりだったんだと、問いただしたら。


 呪いが自然に解ける可能性は、様々な文献を検討した結果、ほぼゼロだと大師から言われていたという。

 だからヴィアンカが真実を知る前は、兄と弟のままでいいから彼女を連れてどこか遠くへ行ってしまいたいと、何度となく考えたそうだ。


 あの馬鹿は計画の全貌を白状したとき散々、死ぬ気は微塵もなかったと言っていたのだが、本心では…。


 …まあ、もう、それはいい。無事でいてくれてよかった。



 それにしても一昨日、ウォルフガングがヴィアンカに求婚に来てくれたことは助かった。おかげであのノロマがようやく焦ってくれたし、ヴィアンカもしっかり考えてくれた。彼には感謝しかない。


 後で知ったことだが、あの阿呆もさすがにあの晩には求婚するつもりだったらしい。あんなにグズグズしていながらも、ウォルフガングがいつ来るか、内心では恐れていたという。


 あの馬鹿はウォルフガングが屋敷に来ないことを、ヴィアンカが女の子の自分に慣れるのを待っているからだと考えていたそうだ。確かにヴィアンカの戸惑いは大きかったけれど。だからといって、鈍感にもほどがある。

 ウォルフガングが、目覚めたヴィアンカをあの馬鹿の元へ連れてきてくれたとき、どんな気持ちでいたことか。僕ですら切なくなったというのに。まったく呆れるばかりだ。



 それにしたって、あんなに休みがあって、朝から晩までくっついて過ごしていたくせに。ヴィアンカの気持ちには気づかないし。求婚ひとつ出来ないし。

 間抜けだし。阿呆だし。鈍感だし。愚図だし。いつもいつも、なんでもかんでも、ひとりで抱えこむし。あんな面倒なヤツを貰ってくれるのは、きっとヴィアンカしかいないぞ!



「お、フェルディナンド」騎士団の制服を着た同級生二人が通りすがりに声をかけてきた。「妹たち、結婚が決まったんだってな」

「ありがとう」と僕は澄ました顔を装う。

「兄馬鹿!邪魔をすんなよ!」

「シスコン!ちゃんと送り出せよ!」

 マッシモが腹を抱えて笑う。



 みんな誤解をしている。

 可愛い妹たはちの結婚は確かに面白くない。

 だけど僕は彼女たちの幸せを心の底から願っている。10年も苦しんだ分、ひとの何倍もの幸福に浴していい筈だ。だから二人の結婚式には最高の笑顔で参列するさ。



「で、兄馬鹿で親友馬鹿のフェルディナンド」とマッシモ。「あいつの笑える話はどうする?焼き餅を焼いて聞き逃すのはもったいないぞ。俺だってあんな計画に巻き込まれて腹が立っているからな。いくらでも暴露してやるぜ」


 ふむ。

 そうだな。今夜はマッシモから聞いたネタであいつをネチネチ責めるのもいいか。


「よし。聞いてやろう」

「なんで上から目線なんだよ」とマッシモ。まあいいかと言ってニヤリとした。「どうして俺が知っていたか、から話してやろう。最上級の情けなさだ」


 おもしろそうだと、僕は身を乗り出した。






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