4章・3告白
客間に入ると、ウォルフは窓際に立って外を見ていた。
「ウォルフガング!」
振りかえるウォルフ。懐かしさすら感じる。学園に入学して以来、こんなに長い間会わないことはなかった。
「来てくれて嬉しいよ。忙しかったみたいだね」
お礼を言わなくちゃ。
だけどウォルフは難しい顔をして黙っている。
「ウォルフガング?」
「ヴィー」とウォルフ。
あ、ヴィーと呼んでくれた。
「可愛いな」
ん?
そうだ!遊びに来てくれた嬉しさですっかり忘れていたけど、女の子の格好をして会うのは初めてだった。急激に恥ずかしさが込み上げてくる。
「こんなに可愛いヴィーとずっと一緒にいたなんて、本当にムカつく」
まただ。
よくわからないことを言っている。
誰が?
ミリアムが?
どうしてウォルフがムカつくの?
「ヴィー」とウォルフ。「大事な話がある」
「それなら座ろうよ」
「いや、いい」
なんだろう、ウォルフはすごい怖い顔をしている。まさかブラン商会がなにかあったのかな。それで忙しくて遊びに来なかったのかな。
ウォルフがあたしの肩に手をおいた。
あれ?
そして。
頬にキスされる。
文化祭と反対側。
なんで?
あれ?
離れたウォルフは怖い顔のままだ。
「ふざけたんじゃないぞ。だから絶交もしない」
「…うん」
「ヴィー。最初から好きだった。俺と結婚してほしい」
「…」
えーと。
…。
これは。
ウォルフは本気なんだ。
「…友達だと思ってた」
「わかってる」
どうしよう。
そんなこと、考えたこともなかった。
だって友達だもん。
どうしよう。
「俺に好きな子ができたら全力で応援してくれるんだったよな」
「それは!」
だって。まさかそんなこと。あるなんて。
「いい、今のは冗談だ」
見上げると、少しだけ表情が和らいでいた。
「返事は今じゃなくていい。ゆっくり考えてくれ」
「…うん」
「あしたの学校ではいつも通りでいるから。ちゃんと来いよ。委員会もあるからな」
「…うん」
優しい。ウォルフはいいヤツだ。
すごくいいヤツだよ。
「帰るよ。また明日な」
「…うん」
どうすればいいかわからなくて。
立ちつくした。
◇◇
「ヴィアンカ」
声をかけられて顔をあげると、フェルがいた。
「ウォルフガングが来ていたようだな」
「…うん」
「告白された?」
「なんで!?」
聞いていたの?フェルってば、ひどいよ。
「知っていたからね。あいつが君をどう思っているか。だから僕はあまり二人で遊びに行かせたくなかったんだ」
「…そうなの?」
フェルは座りなさいと言って自分も椅子に座った。
「それで、どう答えたのかな?」
「…返事はゆっくり考えてからでいいからって。だから答えてないよ」
そうかとフェルはうなずく。
「正直なところ、おもしろくはない。ヴィアンカは僕の可愛い妹だからね。だけどあいつは真剣だ。君のためにすべての縁談を断ってきた。父親にも正直に話して理解を得ている。だからヴィアンカも、しっかり考えて返事をしなさい」
「…うん」
「人柄は申し分ない。家柄は少し劣るけれど、ブラン商会の力は一目置くものがある。僕も父さんも、ヴィアンカが彼を選ぶならそれで構わないと思っているいるよ」
「…うん」
「ヴィアンカ。顔をあげて」
フェルの顔を見る。優しい顔でわたしを見ている。
「君は女の子に戻ったばかりだ。きっとまだ、色々な感情が追いついていない。急ぐことはないけれど、しっかりと考えなさい。ウォルフガングのことだけじゃない。周りのことも、自分のことも。どんな気持ちを持っているのか、この先どうしたいのか」
わたしは。
アンディが約束を守ってくれればそれで十分なんだけどな。
それじゃダメなのかな。
「僕の話はこれでおしまい。行っていいよ」
「…うん」
立ち上がる。
「そうだ、ヴィアンカ」
「なあに」
フェルは微笑んでいる。
「君の幸せを願っているよ。君が誰を選ぼうとね。僕は紛れもなく本物の兄だから」




