4章・2ミリアムの秘密
とうとうアンディの休暇が今日で終わってしまう。今、マッシモが来ていて、二人で明日からの仕事の話をしているみたい。
わたしも明日から学校へ行く。ひとりで屋敷にいても退屈だからわたしのお休みも今日までと決めた。
だからミリアムの部屋で彼女と打ち合わせ。
小さいころに約束をしていた。学校に入ったら、同じ髪型をして登校しましょ、どちらがどちらと当ててもらいましょ、と。わたしが言い出したことだったけど、ミリアムも賛成してくれていた。
残念なのはあのころほど瓜二つではないこと。
呪いのとけたわたしは、その前より更に女の子っぽくなった。けれどもミリアムと身長は少しちがうし、胸のサイズはだいぶちがう。どちらもわたしのほうが小さい。
背丈なんて学園に入学したときはわたしのほうが大きかったのに、今では小さい。レティよりも小さいから、仲間内で一番のミニマムになってしまった。
顔も似ているけれど、わたしのほうが幼さがある。ゲームではクール系美青年設定だったのにね。
もしかしたら呪いがわたしの成長を妨げたのかもしれないと、ゲインズブールが話しているそうだ。
筋トレをいくらがんばっても筋肉がつかなかったのも、そのせいかもしれないって。
そっくりではなくなってしまったけれど、あしたは約束を果たす。ミリアムはそのために長い髪をわたしと同じ長さに切った。
元々わたしのために伸ばしていたから、切るのにまったく躊躇はないと笑っていた。
だけどなぜかわたしは泣いてしまった。切られた髪をもらい、きれいな箱にしまった。
これで、ミリアムがアルの元へ行ってしまっても、わたしの半身はそばにいてくれる。
わたしたちはあしたの髪型を決めてロゼッタたち侍女にお願いをした。そっくりにしてね!と。
わたしが女の子として学校へ行くことに、とても不安を感じていることを知っているミリアムなりの励ましなんだよね。
きのうはアル、レティ、ジョー、バレンが揃って遊びに来てくれた。なにも言わなかったけれど、やっぱり励ましに来てくれたのだと思う。
ウォルフは目覚めたとき以来、ずっと会っていない。助けてもらったお礼すら言えてないのだ。女の子になったわたしに会いたくないのかと心配だけど、単純に忙しいだけだとみんな言う。だけど今までウォルフが忙しさを理由にしたことなんてないから、ちょっと心配だ。
あしたの話が落ちつくとミリアムは、あのね、と言いながら服の下にしていたネックレスを首から外した。アンディがバレンタインのお返しにプレゼントした指輪が下がっているやつだ。
それをコトリと卓上においた。
「これはヴィアンカが選んでくれたのよね。素敵なものをありがとう」
「どういたしまして」
「申し訳ないけれど、身につけるのはやめるわ」
「どうして?」
「だって」とミリアムははにかんだ顔をした。「アンディとはいえほかの男の人からもらったものを、こんな風に身につけているのはアルに失礼だと思うの」
そうか。いやだ、なんでわたしはそんなことも分からないのだろう。当然だよね。
「そうだね。そうしたほうがいいね」
「お守りとして大事にするわ」
侍女が小さな飾り箱を持ってくる。ミリアムはそれに丁寧にしまった。
「だけれど本当にミリアムの恋が叶ってよかった」とわたし。「とても嬉しいよ」
ミリアムは真っ赤な顔でありがとうと言う。
「みんな初恋が叶ったね。レティもジョーもアルも」
「…わたしはちがうわ」
「え?」
その言葉に驚く。
「ミリアム、アルではないの?」
ふふと笑うミリアム。
「ちがうわ」
そんなこと、初耳だ!わたしはてっきりアルだと思っていた。
「誰なの?ジョー?」
「内緒!」
「えぇ!?どうして?」
「内緒にしたいからよ」
ミリアムは可愛らしい顔で笑っている。
「そうね、おばあさんになったころ、ヴィアンカがまだ知りたかったら教えるわ」
「なあにそれ!」
「わたしたち双子の新しい約束よ」
とても気になるけれど、新しい約束をするのも楽しい。
「わかった、約束ね」
わたしたちは指切りをする。
「だけれどそうなると、いつからアルのことが好きだったの?」
素朴な疑問にミリアムは目を反らした。
「初恋の人は内緒なのだもの。この質問には答えてほしいな」
わたしが言うと、侍女がクスクス笑う声がした。
「失敗しましたね、ミリアムさま」と笑っている。
「ね、教えてミリアム」
「ヴィアンカ。わたしまだ、あなたの好きなひとを教えてもらってないわ」
「だっていないもの。そのときは一番に教えるよ」
侍女がさらにクスクス笑っている。
「…絶対よ」
「もちろん!」
「洗いざらい、すべてを教えてもらうわよ!」
「…どうしたの、ミリアム?」
「そのときがきたら、すべての質問に答えてもらうわ。いいかしら?約束してくれるなら、わたしも話すわ」
なんだかミリアムがキンバリー先生みたいな表情をしている。だけど。
「約束する」
ミリアムはにっこりと笑った。なんだろう。やっぱりキンバリー先生みたい。
「わたしがアルを好きになったのわね」とミリアム。
「うんうん」
「ペソアに留学すると聞いたときよ」
「?」
なんだそれは。
キュンポイントがわからない。
わたしがきょとんとしていると、ミリアムは思い出したのか、泣きそうな顔になった。
「アルがね、手をこまねいていられない。自分でペソアへ行ってヴィアンカの呪いについて調べてくる。絶対に入学までに女の子に戻すから、って言ったのよ」
アル…。
「それを聞いて、思ったの。こんなにヴィアンカのためにがんばってくれるなんて、嬉しいって。気づいたら好きだったわ」
ふふふとおしとやかに笑うミリアム。
もう、どこまでわたしを好きなの。
手を伸ばしてミリアムの細い手を握りしめる。
「大好きよ、ミリアム」
「わたしもよ、ヴィアンカ」
「正直に話したわ」とミリアム。「約束を忘れないでね」
「忘れないけれど、好きなひとができるかな。そんな気がまったくしないよ」
「ヴィアンカ。あなたはとても可愛いわ。でもさすがに心配よ」
ため息をつくミリアム。
「この様子だと、あしたはあなたの前に求婚者の列ができてしまうわね」
「そんなことないよ。ミリアムったら贔屓目すぎ。元男子に求婚する物好きなんていないよ」
ミリアムはまたため息をついた。
「心配だわ!」
と、執事が現れた。
「ヴィアンカ様」
「わたし?」
「はい。ウォルフガング・ブラン様がお会いしたいとのことですが、いかがなさいますか?」
「ウォルフガング!?来ているの?」
「はい」
二週間ぶりだ!よかった、このままあした学校で会うのは少し不安だったんだ。
「もちろん会うよ」
立ち上がる。
けれどミリアムは座ったまま、いってらっしゃいと言った。
「行かないの?」
「だって、ヴィアンカに会いに来たと言っていたわ。用があったら呼んでね」
微笑むミリアム。
「そう。それなら行ってくるね」




