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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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4章・1七日後 2

 ロゼッタに付き添われて女の子の装いでこっそりと庭に出る。

 剣がかち合う音が響いているほうへ向かう。

 植栽の影からうかがうと、すっかり元気になったアンディと、マッシモが手合わせをしていた。


 アンディはあと一週間のお休み。ここ数ヶ月働かせすぎだと父様が抗議をし、またフェルがそもそもペソア滞在から帰ったあとの休みがアンディだけ異常に短かったと猛攻撃をして勝ち取った休暇だそうだ。

 そして当然、休み中はうちにいる。だってわたしの兄だもん。


 アンディの父君は怒り狂っているそうだけどね。

 昏睡状態のときには何度か夫妻で様子を見にいらっしゃったらしい。だけどアンディが目覚めた後は、父君が高圧的に怒る一方なものだから父様が激昂して追い出して、その後出入り禁止となっている。


 おかげであたしは毎日アンディと一緒。

 こんなに長い間一緒にいられるのは初めて。

 もちろん目覚めたその日はめちゃくちゃ怒っておいた。ひたすらごめんと謝られた。それであの件についてはおしまい。



 医務室でわたしが遊んでいたパズルは、10年前、アルの誕生会から帰ったらアンディと一緒にやる約束をしていたパズルだった。ずっとアンディが持っていたんだって。いつか約束を果たすために。


 だからあの日、医務室へ持って来たのだそう。女の子に戻ったわたしと一緒にやるために。

 それはアンディの小さな願掛けだった。


 あの時途中で目が覚めたのは、きっとパズルのせいだと思う。

 アンディはわたしが最中に目を開いたことに気がついていて、心臓が止まるほど驚いたと苦笑していたけど。それはわたしのセリフだよ!まったくもう!


 でも怒ったのは本当に初日だけ。次の日からは、楽しく過ごしている。パズルは二人で完成させて、わたしの部屋に飾った。



 剣の音が止んだ。

 声をかけようかな。どうしようかな。

 迷っているとロゼッタが咳をした。

 なんでこのタイミングでするのさ!


「ヴィー?」

 ほら、気づかれちゃったじゃない。

「…うん」

 アンディがやってくる。

「可愛いじゃないか。よく似合っている」

「そうかな?変じゃない?」

「変なものか。可愛いぞ。うん。可愛い」

 アンディはマッシモを振り返って、可愛いよな、と確認している。恥ずかしい。可愛いと連発しすぎじゃない?わざとらしいよ。

 マッシモも可愛いなと言ってくれる。

 だけどなんでだろう。ジュリエットの扮装よりも恥ずかしいよ。

 マッシモはロゼッタに飲み物が欲しいなと声をかけて、二人で取りに行ってしまった。

 なんで置いてくのさ。ひどいよ。


「可愛いぞ、ヴィー」

 アンディめ、また言うか!

「あのさ!」

「なんだ?」

「ここはわしゃわしゃするところ!」

 アンディはそうかと笑ってあたしの頭をわしゃわしゃっとする。


 アンディは魔力をほとんどなくしてしまった。

 他人の感情はもうわからない。

 あたしには、嫌いな能力だったからちょうど良かったと笑っていたけれど。

 フェルには、あんなに嫌だったのに、いざなくなると相手の気持ちがわからなくて怖いとこぼしていたそうだ。

 きっと、どっちも本音なんだろうな。



 マリアンナも同じく、ほとんどの魔力をなくした。

 本来ならあたしとアンディがお礼にうかがうべきだけど、今のあたしは寮に行けないのでキンバリー先生が今日の午前中に、連れてきてくれた。


 マリアンナは挨拶も抜きに開口一番、

「なんでまだ男の服を着ているのよ」

 と怒った。だって慣れないんだよと返したら、本当にバカなのねと呆れられた。

 助けてくれたお礼を言うと彼女は、ふんっと鼻を鳴らして

「これでチャラにしなさいよ」

 と言った。

「チャラ?なにを?」

「あなたにした色んなことに決まってるじゃない!」

 うーん。

「マリアンナの方が不利じゃない?」

 だってあんなに自慢していた魔力がほぼゼロになったんだよ。もう《癒す者》にはなれないから、王宮への就職話も貴族の家に養女に入る話もなくなった。

「ほんと、お人好しね。いいわ、じゃあヴィアンカ、あなたの結婚式に呼びなさいよ。参列用のドレスもプレゼントして。とびきりセンスがいいやつをね」

「ドレスはプレゼントするけど…」

 わたしは考えてみた。

「なによ」とマリアンナ。

「結婚はしないと思うよ。ちょっと想像できないもん」

 彼女は眉根を寄せた。あたしを見て、アンディを見て、またあたしを見た。

「…ねえ、ヴィアンカのお兄さん」

「…なんだ?」

「バカなの?」

「お人好しとかバカとか、ひどいよ。もうちょっと普通だと思うんだけど」とわたし。

「バカよ!…まあ、いいわ。約束しなさいよね」

「わかったよ。もしその時が来たらね」

「そんなにバカじゃないことを祈ってあげるわよ。感謝しなさいよね」

 そしてなぜか盛大なため息をついて、ほだされたあたしが一番のバカかとの言葉を残して帰っていった。


 ずっと黙って座っていたキンバリー先生は、ニヤニヤしながら

「可愛いね、ヴィーちゃん!」

 とだけ言って去った。



 そうそう。わたしがペソアの刺客に襲われた事件。実は亡きものにしたい理由がもうひとつあったんだそう。それがマリアンナ。


 ペソアの王家の人々は、長年大師の力に頼って生きてきたけど、その大臣も高齢になり、あとに続く強力な《癒す者》もいない。困っていたときに、シュシュノンで強大な魔力を持つ少女がみつかったとの知らせが入り、一部の王族は彼女をほしいと考えたそうだ。

 だけどその少女は、呪いを解く要員としてシュシュノン王家に命を買われたという。

 それならば要員としての必要がなくなればいい。

 そんな三段論法で、わたしは殺されかけたそうだ。


 人の命をなんだと思っているんだ!

 そんなんだから大師の性格も歪んでしまったんじゃないの?

 マリアンナがペソアに行っていたら、大変なことになっていたかもしれないよね。


 彼女はもう《癒す者》にはなれないから、さぞかしペソアの一部の王族とやらは残念がっているんでしょうね。




「マリアンナ、明日の学校は大丈夫かな」

 わたしの質問にアンディは

「あの性格なら問題ないだろう」

 と答える。あまり興味はなさそう。命の恩人だよ。もうちょっと心配しようよ。


 ちなみに、わたしの魔力も失われたまま。残念だけど回復することはなかった。アルたちの魔力は無事だったから、よしとしないとね。


 アル、レティ、ジョーにももちろん助けてくれたお礼は言ったのだけど。逆に、10年もだましていて申し訳なかったと謝られてしまった。お礼と謝罪のやり取りを何往復かして。笑いあって、この話はおしまいになった。これからもわたしたち幼なじみ五人は変わらず仲良しだ。





 ところで、あたしはアンディと庭を歩く練習中。

 ジュリエットをしたときにスカートをはいたけれど、外は歩いていない。足が隠れる丈だから、地面を擦ってしまう。気になってしょうがない。誰が洗うんだ?わたしじゃない。だから汚したくない。洗う仕事の人がかわいそうだもん。


「それにしてもさ、アルってば今日どこで言うんだと思う?うちに来るのかな?」

「プロポーズか?」

 うんとうなずく。


 昨日、アルから尋ねられた。ミリアムに求婚したいけれど、いいだろうかと。

『ありがとう!踊りだしたいくらいに嬉しい!』…と言いたかったけれど、がんばって平静な表情を保った。

 そして

「もちろんだよ。ミリアムがいい返事をしてくれるといいね」

 とかっこよく決めておいた。

 アンディが言うには、わたしはにやけていて全くさまになってなかったらしいけどさ。

 えへへ。良かったね、ミリアム。

 早く素敵な報告を聞きたいなぁ。




 そういえば、アンディがずっと結婚を拒んでいたのは、わたしの呪いを解いたあとに、自分がどうなるかわからなかったかららしい。

 もしものことがあったら、奥さんもしくは婚約者に申し訳ないからと考えていたそうだ。

 フェルが教えてくれた。


 じゃあもうなんの心配もないし、結婚しちゃうのかなと尋ねるとフェルは、自分で本人に訊きなさいと言った。


 父君が決めた期限まであと二ヶ月しかない。

 アンディなら、たった二ヶ月でもお相手を見つけられると思う。

 どうするつもりなのか。

 まだ訊けていない。


 約束を守ってくれなかったらどうしよう。

 だって約束があるのに、アンディはいなくなってしまうかもしれないことをした。

 もしかしたら全部、わたしに真実を知られないための、嘘だったのかもしれない。


 フェルの話だとアンディは、自分に万が一のことがあってもわたしの件とは別のことだと認識されるように、精緻な計画を立てていたそうだ。そのための嘘をたくさんつかれたとフェルは憤慨していた。


 わたしもそう。だって呪いが解ければ、あたしからみんなへの告白は必要なくなる。それをわかっていながら、告白の段取りを話し合っていたのだ。

 アンディは解呪を秘密裏に遂行するために、どうしても告白をしてほしくなかったそうだ。


 他にもある。詳しく教えてくれなかったけれど、その計画の一環で、厄除けの指輪もなくしたことにしていたそうだ。

 今は戻ってきて、首から下げているらしい。以前の場所にはわたしがプレゼントした新しい指輪がはまっているからね。父君の指輪よりわたしのを優先してくれたんだ。しっかり厄を払ってくれたし、なにより嘘をついてわたしに買わせてしまったからだって。


 嘘はキライ。だけどアンディと二人であれこれ相談していたのは、実は楽しかった。指輪も気を使ってもらえたのは嬉しい。だからこの二つの嘘は許してあげたよ。




「ヴィー」

「なあに?」

 裾を気にしながら歩くのって、難しいな。やっぱり庭に出るにはズボンがいいんじゃないかな。

「あのな、ヴィー」

 うん、とわたしは裾をあきらめてアンディの顔を見上げた。なんだか怖い表情だ。

 なんだろう。イヤな話だったらどうしよう。

 もし、約束はなしな、って言われたら。

「その、な、」

 アンディが歯切れが悪いなんて珍しい。

 やっぱり言いにくいことなんだ。

 旅は行かないなんて言ったら、殴ってやる。

 ぼこぼこにするもん。

「あのな、ヴィー」

 もう、長いな!


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