幕間・兄の動揺 3
兄フェルディナンドの話です。
医務室に雪崩れ込むと、そこは恐ろしいほどの魔力が渦巻いていた。こんなに感じるのは生まれて初めてだ。
その魔力の中心にアンディが立って、なにかを詠唱している。
その向こうにきっとヴィーがいるのだ。
そうだ、魔力の中心はアンディじゃない。ヴィーだ。アンディからヴィーに膨大な魔力が引き込まれている。
「お前たち、アンディに魔力を送れ!」
なぜここにいるのかわからないゲインズブールが叫ぶ。
よく見れば部屋の隅でマッシモが大師を縛り上げている。どうやらムジーク大公の読みは当たっていたらしい。
なぜかあのクズの小娘がアンディの背に手を翳して魔力を送っている。
「早くしろ!」叫ぶゲインズブール。
「やったことないぞ!」とジョシュア。
「死に物狂いでやれ!集中しろ!でなければヴィットーリオもアンディも死ぬ!呪文に魔力が全然足りてなくて危険なんだ!」
僕は慌てて手を翳す。やったことはないけれど、そんなことは言ってられない。
「フェルディナンド、お前はダメだ!ミリアム、お前もだ!キンバリーと、三人は癒し用に魔力を温存しろ!」
手を下ろすとミリアムの腕を掴んで、邪魔にならないようキンバリーのそばに寄った。彼女は手を組んで祈っているようだ。
誰もが必死の形相で僕の可愛い妹と大切な親友のために魔力を送ってくれている。やったこともない、自分がどうなるかもわからない魔法なのに。
目がかすむ。
アルベール殿下。
レティシア殿下。
ジョシュア。
ウォルフガング。
バレン。
ついでに小娘。
ありがとう。
レオノール。頼む。
みんなを助けてくれ。
僕たちはみんなで生きたいんだ。
誰もかけることなく、幸せになりたいんだ。
君に頼むのは酷なことかもしれないけれど。
お願いだ。助けてくれ。
レオノール。
その瞬間。
全ての魔力が引き込まれるような感覚があった。そして部屋中に金色のモヤが広がったかと思うと急速に収縮してヴィーに吸い込まれていった。
凪。
音も魔力もない。
はっとした。
アンディが倒れている。
駆け寄る。
真っ白な生気の感じられない顔をしている。恐る恐る口に耳を寄せる。息をしている。
「息をしているわ!」
ヴィーのそばでミリアムが叫ぶ。
「アンディもだ!」
振りかえると、アルベール殿下、レティシア殿下、ジョシュア、ウォルフガング、バレンは座りこんではいるけれど、しっかり目を見開いて肩で息をしている。
「よかった」とアルベール殿下が呟く。
僕は急いでアンディに癒し魔法を施す。息はしているけれど、弱々しい。頼む、回復してくれ。
ミリアムもヴィーに同じことをしている。
そうだ、小娘。見ればキンバリーが癒している。
大丈夫。僕はアンディに集中して平気だ。
馬鹿が。
また視界が霞む。
目が覚めたら殴ってやる。
一発で済ますものか。
気が済むまでぼこぼこに殴ってやる。
腹なんかじゃない。
顔をやってやる。
歯がなくなるぐらい、顔の形が戻らなくなるぐらいだ。
僕の手の骨が全て折れても殴り続けてやる。
覚悟しやがれ。
だから、頼む。
目覚めてくれ。




