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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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3章・4バッドエンド考察

 怯えるマリアンナを、現在逮捕されていないし、アルにそんな気もないからと宥めた。

 もしそんな動きが見られたら、教えてあげる。さすがに可哀想だから、味方してあげてもいいよ。との約束もした。


 何度も、絶対によ!と繰り返す彼女を、ゲインズブールの特別指導に無理矢理向かわせて、医務室にキンバリー先生と二人きりになると、あたしは大きくため息をついた。


 マリアンナの話をどう捉えればいいのだろう。


 彼女から詳しくバッドエンドを聞いてみたところ、まず、

 今年の夏の根拠は、エンディングロールでアル達が着ていたのが夏服の制服だったから。

 マリアンナがする呪いの種類・相手は不明。そのシーンがあるけど、場所も不明。

 命を落とすのは確実。彼女の名前の入った墓が出てくる。

 墓碑に『その功績により、王子アルベールが建立』と小さく彫られている。


 アルが誰かを呪うとは考えられない。

 よしんば呪うとして、それは国を背負う者としての仕事だろう。だけど陛下がいるのに、そんなブラックな仕事をアルがやるってどんな状況?


 …そんなことよりも。あたしの呪いを解くためと考えるほうが、現実的ではないだろうか。



「ヴィーちゃん?どうした?」

 いつの間にか、さっきまではなかった焼き菓子が盛られた鉢が目の前に置いてある。

 キンバリー先生がマリアンナがいたときとは違う柔らかな表情であたしを見ていた。


 キンバリー先生には自分にかけられた呪いのことを知ったと打ち明ける。


 先生にはあたしが前世の女の子の記憶を持っていることも話してある。誰にもできなかった相談にのってもらっている、とても信頼している。

 だから今回のことも打ち明ける。

 そうアンディに話したら、わかったと言ってくれた。


 今日その予定ではなかったけれど、ちょうどいい機会だ。


「先生。秘密の話があるの。誰にも知られたくない、重要な話」

「オッケー」

 先生は数秒ほど廊下に繋がる扉を見つめた。

「よし、これで誰も入って来れないよ」

 マリアンナもやっていた魔法だ。


 どんな原理なのか聞いたら、風系魔法の応用らしい。到底あたしにはできそうにない高度な魔法だ。

 同じ転生者なのに、羨ましい。


 とはいえ先生の場合、槍が刺さっての瀕死状態から劇的に蘇生をしたら、魔力が爆発的に高まっていたんだそうだ。それまでは弱かったらしいから、あたしとは逆パターンだ。


 呪いが解けたら魔力も回復する可能性もあるみたいだけど、期待しないでおく。

 そもそもこの呪いがどうなるかだって、わからないんだしね。


「で、秘密の話ってなに?好きな人でもできた?」

 にこにこ顔のキンバリー先生。

「呪われて男子になったって知ったよ」

 途端に先生の顔から笑顔が消えた。

 付き合いの短い先生にとっても衝撃的なことなんだ。突然告白されたアンディが、あれほど動揺するのは無理もないことだったんだ。


 長い間あたしの顔を見つめていた先生は、長い息を吐くと小さな声で、そっかと言った。

「誰から聞いたの?」

「内緒」

 先生は瞬くと、

「…ヴィーちゃん。大丈夫なの?」

 と不思議そうな表情になった。

「僕の精神状態が、ってことなら大丈夫。さすがに最初はショックだったけどさ。でもアンディに全部教えてもらったから、不思議と落ち着いてるよ」

 先生は居ずまいを正した。

「…経緯を教えてもらえるかな?」

「経緯って言っても。そのことを知って、アンディに事実かを確かめただけ」

「…いつの話?」

「…アンディに聞いたのは金曜日」


 先生は黙ってあたしの顔を見る。

 パーティーの後、学校で知ったとバレちゃうかな。

「詳しく話したくないんだね?」

 うんと答えると、先生はわかったと頷いてくれた。


「それで今、このことを知っているのはアンディの他に誰?」

「先生」

「アンディと先生だけ?」

「そう。みんなに打ち明ける前に、まず僕の気持ちを落ち着けた方がいいって、アンディが言うんだ」

「そうだね」

「みんなにとってもショックなことみたいだから、タイミングを見計らいたい」

 先生はもう一度そうだねと言うと目をつぶった。

「ごめん、ちょっと待ってね。頭を整理している」


 その顔を見つめる。

 …先生は目を閉じていても美人だ。

 美しい鼻梁に形の良い唇。

 睫毛もすごく長くて綺麗なカーブを描いている。この世界にビューラーはないよね?

 普段は大袈裟なぐらい表情がが豊かだから、見逃してしまうけれどとても綺麗。

 あたしも女の子に戻ったら先生みたいな美人な大人になれるかな。


 結構長い時間、先生は考えこんでいた。そうして。

「あのさ、」と先生。「アンディから聞かされた訳ではないんだね?」

「違う」

 自分でも驚くほど強い口調になってしまった。

 先生が目を開いて、ごめんと言う。



「…全然僕と関係ない人からだよ。だから信用できなくて、アンディに尋ねたんだ。そうしたらものすごく動揺しちゃって。…悪いことをしたよ。アンディなら真実をきちんと教えてくれると思ったんだ」

「ヴィーちゃん」先生は優しくあたしの名前を呼んだ。「この件で動揺しない人はいないよ。ヴィーちゃんはミリアムに尋ねなかっただけ上出来。あの子にはワンクッション必要だから」

「僕もそう思う」


 先生はひと息つくとお茶を飲んだ。つられてあたしも飲む。

 ついでにお菓子もひとつ。無心でもぐもぐしていたら、どことなく毛羽立っていた心が落ち着いてきた。


「先生に打ち明けることを彼には話してあるの?」

「うん。といっても今日は予定外。まさかマリアンナに呼び出されるなんて思ってなかったから」

 そうだねと同意する先生。

「どう思う?さっきの話。マリアンナがやらされる呪い」

「ゲームのエンディングだしね。あり得ないよ」

「呪いじゃなくて、僕の呪いを解く、が正解じゃないかな」

 先生は手にしていたマグカップを置くと、真剣な顔をして言った。

「あり得ないんだ。ヴィーちゃんのことがあったから、呪いについての研究は専門部所でしている。危険な魔法だから、身元が確かで信頼できる人間だけが携わっているんだよ。マリアンナがいくら強力な魔力の保持者でも、あんな自己中心的性格の子に呪いは教えられない」

「…そうなんだ」


 ほっとした。

 マリアンナのことは好きじゃないけど、もしあたしのせいで死ぬことになったらと思うと怖かった。

 よかった。


「じゃあ、バッドエンドの展開は…」

「ないでしょ。そもそもこの世界がゲーム通りに進んでいない。似ている別の世界って考えたほうがいいよ」

 先生は目を伏せた。

「ヴィーちゃんの呪いが解けることを願っているよ。でもマリアンナもバッドエンドも関係ないと思う」

「先生…」

 あたしは先生の手をとった。ほっそりしていて綺麗な手だ。

「ありがとう。大好き」

 先生は大きなため息をついた。


「…だからね、君は先生をクビにしたいのかな?」

「そうだったー…ってこの部屋、入れないんだよね?」

「入れなかろうがなんだろうが、ヴィーちゃんてばすぐ、『先生大好き』って言うじゃないか」

「ミリアムにも言うよ」

「ミリアムは妹!先生は他人!」

「ケチー」

「嬉しいけどね。先生にそんなことを言ってくれるのはヴィーちゃんとミリアムだけだよ」

 そんなことないと思うけどな。こんな素敵な先生を好きになる男の人がいないなんておかしい。

 まあ、それは置いておいて今はマリアンナの話だ。


「マリアンナ、夏って言ってたでしょ?」

 頷く先生。

「6月にペソアの偉い人たちが来るし、関係があるのかと思ったんだよ」

 先生は腕組みをしてうーんとうなった。

「確かに夏服の時期だけど。今までのことからいって、まるっきり関係がないかどうかは、その時にならないとわからないかな。ただ、ペソアの調査チームとは定期的に情報交換をしていて、今時点では進捗はないと聞いてるよ」

「先生も僕の件に詳しいの?」

「いや、アンディ情報。ヴィーちゃんと仲良くなったからね。たまにどんな状況なのか教えてもらってる」

「気にかけてくれてありがとう」

 にやりとする先生。

「代わりに学園の様子を伝えている」


 そうだった。先生もあたしの見守り隊だった。

「ご苦労かけます」

 ぺこりと頭を下げたら、先生が吹き出した。

「そこは怒るとこじゃない?」

「あれ、そう?」

「ヴィーちゃんはおもしろいなあ」

「…僕もまっさらな16歳だったら怒ったかもしれないよね。でも二回目だしさ。生きてるだけラッキーだし、みんなが心配してくれるのって、すごくありがたいことだって分かるからなあ」

 先生はそうだね、と頷いた。


「でもね、元々のヴィーちゃんがそういう子なんだよ」

「なんで?」

「だって」と先生は笑った。「前世の記憶を取り戻したのは10歳でしょ?その前からフェルディナンドもアンディも双子を溺愛してたよ。よく話を聞かされた」


 あたしが10歳のとき二人は17。学園の二年生だ。

 そうか先生はあたしになる前のヴィーを間接的に知っているんだ。なんだかわからないけど、恥ずかしい。


 そういえば記憶を取り戻した直後は自分の兄と親友のイケメンぶりに慣れなくてワタワタしていたっけ。

 それを先生に告白したら大笑いされた。

「確かにあの頃の二人は美少年だったわー」

 だって。学生の頃の二人はどんな感じだったのだろう。あたしの話をよく聞かされていたのなら、仲がよかったのだろう。その頃のあたしは屋敷にいる二人しか知らない。


 キンバリー先生のことが少しだけ羨ましくなった。


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