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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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3章・1本当のこと 2

 ペソア王家から絶望的な返事が来ると、国王陛下は内密にあたし対策の部署を立ち上げた。

 求人を出して引退していた魔法学者まで根こそぎ集めて、国内、ペソア、ドードリアで古い魔法書の解読に当たらせた。

 ペソアは自国の王女が犯したことだからと、協力してくれているそうだ。


 それでも王妃がかけた呪いもその解呪方法も、類似の魔法も、いずれも記された魔法書は見つかっていない。


 ヴィアンカが十になるまでには。

 お茶会に出る年頃までには。


 そんな願いに反して、全く解決の兆しが見えないままもうそろそろ十年が経とうとしている。


 外出の制限があったのも、お茶会に出られなかったのも、家族が超絶過保護なのもすべて、あたしを守るためだった。

 何も知らず自分を男の子だと信じ、穏やかに日々を過ごすあたしが外の世界に出て、真実を知り絶望したり、心無い言葉を投げつけられて傷ついたりしないために。


 そもそもこれほど長い年月、あたしが女の子に戻れないなんて誰も考えていなかったのだ。


 あたしがお茶会に参加したいと言い出したとき、父様とフェルは相当悩んだそうだ。

 それでもやはり、許可することはできなかった。

 なぜなら外の世界から守るためだけではなくて。未来のあたしも守りたかったから。


「公爵とフェルディナンドは、お前が女の子に戻ったときのことを常に考えていた。その時に辛い思いをしないように、とな」


 女の子に戻ったとき、男の子だったときの自分をどう思うか。もしかすれば、そのことで苦しむかもしれない。

 あたしがスキーや乗馬を禁止されていたのも、そのため。過保護でケガを恐れていたからではない。男の子がするようなことはさせないと決められていたのだ。


「だからこんなのをフェルディナンドに見つかったら、たとえ俺でも殺されかねない」

 アンディは苦笑した。


 寒かったから長椅子はやめた。

 暖炉の前の床で、アンディの足の間に体育座りをしている。横向きに。すっぽりはまってまるで抱き抱えられている子供だ。

 だって泣きそうなんだ。

 思い切り甘えたい気分なんだよ。

 アンディは、今日だけだぞと言って座らせてくれた。


 だけどたとえ『兄』であるアンディでもあたしが男の人とこんな至近距離で、しかも夜更けに、しかもしかも二人きりで過ごすなんてことは、フェルにしてみれば看過できないことなんだそうだ。

 遠乗りに出るのだって、渋々の許可だったらしい。



 フェルはあたしを『弟』と呼ぶことはなかった。必ず『僕のかわいい双子』と言っていた。

 気づかなかったけれど、あたしはいつだってフェルの『かわいい妹』だったのだ。


 父様とフェルは常にあたしの未来を考えて、アンディは今のあたしを考えていた。だからいつもあたしの味方だったのだ。


 お茶会に出たいと言い張るあたしに、少しはあたしの気持ちを汲んでやれと言うアンディ。父様とフェルが妥協したのが、アルが出立する際のあのお茶会だった。

 それでも父様・フェル・ミリアム・アル・レティ連合はあたしを鉄壁の要塞で守るつもりだった。ところがアンディにそそのかされたジョーがあたしを外の世界へ連れて行ってしまい、騒動が起きてしまったのだ。


 当時あたしの事情は、公然の秘密で貴族社会の大人で知らない人はいなかった。

 けれど子供は違う。

 何も知らなかったウォルフは、よりによって一番危険な地雷を踏んでしまったのだ。


「ウォルフガングはもしかして、ものすごく父様に怒られたのかな?」

「いや、あの後のブラン家の対応は早かった。呼び出しがかかる前に陛下、アルベール殿下、シュタイン公爵に謝罪に回った。相応以上の品を持ってな。先回りしたお陰で事なきを得たんだ」

「それは…どうしよう、申し訳ないないよ」

「気にするな。ウォルフガングにはいい勉強になった。それまであいつはもう少しやんちゃなヤツだった。信頼できるのは確かだったけれどな。あれからより良くなって、今じゃ弱点なしだ。お前があいつをいい男にしたんだぞ」

「ウォルフガングも僕が女の子だって知っているんだよね?」

「ああ」

「アンディに呼び出されて僕に会ったときに『面倒なことになった』って思ったって言ってた。そういうことだったんだ」

 アンディは吹き出した。

「『面倒』ね。だがいい友達になっただろう?」

「うん。…そうだ、今日もずっと踊らないで僕の隣に座っていたんだ。初めて会った時と同じ真っ黒な服を着てカッコつけてたのにさ。もしかして、ウォルフガングも僕を守ってくれてるの?」

「…そうだな」

「そんなの、申し訳ないよ」

「友達を守りたいんだ。いいヤツじゃないか」



 お茶会騒動のあとに陛下は非公式の勅令を出したそうだ。

 ヴィットーリオ・シュタインに真実を伝えた者、もしくはそれに準じた言動をした者はいかなる理由があろうとも禁固に処す、と。


 陛下からしたら、あたしは跡継ぎである王子の恩人だ。

 しかも王子はそのことに強い責任を感じている。

 あたしを守ることは当然とのお気持ちらしい。

 けれどもそのことを快く思わない人間もいる。そもそもあたしの呪いを解くために、それなりの国費が使われている。不満が出るのは仕方ない。


 だから秘密の勅令のあとも、あたしには鉄壁の守りがついていたのだ。

 学園で一人になることがなかったのも、そのためだった。


 アンディには、誰があたしに呪いのことを教えたのか尋ねられたけど、答えなかった。きっとこれはバロック妹を、それこそ悪役令嬢と同じ末路に導くだろうから。


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