2章・21 三学期の始まり
冬休みも、夏休み同様遊び惚けて過ごした。
シュタイン邸でのクリスマス会、王宮での年越しパーティー、と二つの大イベントがあった。
年越しパーティーはバレンが開催してくれて、ペソアでは恒例行事らしい。いつもの七人だけじゃなくて、委員会の仲間も加わって、大騒ぎをした。
王宮の怖い侍従長が様子を見にきたときに、能面のような顔のままこめかみに青筋を立てていたから雷を落とされると肝を冷したのだけど。
慌ててみんなで紳士淑女風におとなしく振る舞ったら、なぜか何も言わずに出て言った。
かえって恐ろしいとあたしたちは震えたものの、後日にお小言をもらうこともなく、今のところ何事もない。不思議だ。
そのほかにも、クラスの友達とお茶会をしたり観劇に行ったり、キンバリー先生とみんなでお食事に行ったり。楽しく過ごした。
大雪の日はアンディとウォルフの二人が協力して、橇遊び用の斜面を作ってくれた。
つたい歩きを始めたばかりのレオノールを橇に乗せたら、きゃっきゃと声をあげて喜んでいた。これはいい仲間になるぞとほくそえんでいると、ミリアムにみつかってこってり叱られた。エレノアは笑っていたんだけどな。
でも今年に入ってからフェルもアンディも(ついでに父様も)、仕事が忙しくなって一緒に過ごす時間が取れなくなってきた。
この六月で先の王妃さまがお亡くなりになってちょうど十年になるらしい。そのために王妃さまの出身国、ペソアから司教がいらっしゃって慰霊祭をするそうだ。
他に現・国王陛下の実弟である大公殿下やらペソアの至宝と呼ばれる大師さまが来国予定とのこと。
その準備が本格化して、王宮も政務庁も騎士団本部も、慌ただしいようだ。
アンディの結婚期限が八月末であるのも、この重大な行事が終わり落ち着くまで、と考えてのことらしい。
もっとも当人はまったく結婚相手を探している様子がなくて、父君と喧嘩が耐えないようだ。
あたしは心配ではあるけれど。本音としては、一緒に旅するのが楽しみだから、このまま独身でいてほしい。
キンバリー先生は、年末年始は実家に帰ったそうだ。幾つものお見合いを勧められて辟易したと怒っている。
「子供を産めないアラサーだから仕方ないけどさ。どれも子持ちだよ。いきなり母親になんかなれるはずないじゃない。こっちはバリキャリだよ?結婚なんかに逃げるもんか」
だってさ。
確かに先生はお見合いで良妻賢母になるってイメージではないかな。似合いのとんでもなくいい男を自分で捕まえてきそうだ。
このまま先生も独身だったら、あたしとアンディの旅に誘おう。すごく楽しそうだ。考えるだけでニヤニヤしてしまう。
この世界の主役、かもしれないマリアンナは冬休みも帰省しなかった。それがどうも、実家から帰ってこなくていいと言われたようだ。
停学による莫大な罰金の支払いをさせられたことを、両親が憤慨しているらしい。
魔法オタクで出世の欲にも取りつかれているゲインズブールですらも、年末年始は自邸に帰ったそうだ。
だからマリアンナにも帰省の許可が出ていたらしいのだけど、半泣きで帰る所がないと言ってたみたい。
マリアンナはけっして好きではないけれど。
なんだかなあ。
とはいえ。
年が明けて、ゲームのエンディングまであと二ヶ月もない。
今の状況なら、何も恐れることはないと思う。
この世界がゲームの世界なのか、たまたま似ている近い世界なのかは分からないけれど。ミリアムとレティは断罪されるようなことは何もしていない。
ただそれでも一抹の不安はある。
どうか、何事も起きませんように。
マリアンナがおかしなことをしませんように。
◇◇
三学期が始まり、学内は二月に行われるフェヴリエ・パーティーの話題でもちきりだ。
三年生は卒業祝いのパーティーだから当然盛り上がる。
この国の社交界デビューは、18歳になる年度の5月と決まっている。だから二年生にとっては社交界デビュー直前の、前哨戦のようなものだ。
一年生は初めての本格的パーティー。しかも今年度はクリスマス会が制服着用だったので、ドレスやジュストコールを着て出る初めての正式なパーティーだ。
お仕立て代がない生徒のためには、一時金貸与システムも、貸衣装もある。
気合いが入らない生徒はいない、一大イベントなのだ。
生徒はみんな授業なんてそっちのけで浮き足だっている。
そんな中でひとり、浮かない表情をしているのはマリアンナ。
キンバリー先生情報によると、アルと友達になることもできず、クリスマス会で踊ることもできず、相当に落ち込んでいるらしい。
まだ、あたしは主人公だし、と強気発言はしているそう。でも空元気らしい。
冬休みに、帰省を家族に断られたことも尾をひいているようだ。あるときポツリと、やり方を間違えたみたいと、呟いたそうだ。
ただ、良いこともひとつある。心の変化のせいなのか、癒し魔法は上達し始めたそうだ。それに関してはマリアンナも喜び安堵しているみたい。
ついでにゲインズブールも。
そういえば始業式の日に、ゲインズブールの弟を見かけた。
放課後みんなで医務室に遊びに行ったら、ちょうど出て来たのだ。
白髪赤瞳の兄と違ってダークブラウンの髪と瞳で、しかも落ち着いた物腰の『いい男』だった。
キンバリー先生の話では毎始業式に、菓子折りを持って必ず挨拶に来るそうだ。不肖の兄がお世話になります、と。
お菓子はいらないからまともな人間に育て直せ、って思うよねー、と先生は笑っていた。
その通りだとは思うけど。
まともでない人間が担任ってどうなんだ?とのジョーの言葉にみんなでうなずいてしまったよ。
けど魔法オタクで魔法にしか興味のないゲインズブールは、生徒を放置ぎみで口うるさくもない。
しかも教師陣の中では最も若くてイケメンだ。
だから、毎年フェヴリエ・パーティーで、何人かの女子がゲインズブールにダンスを申し込むのだと、キンバリー先生が教えてくれた。
それを聞いてあたしは思いだした。
ゲインズブールルートとバレンルートの悪役令嬢がわからない、ということを。
まあ、今さらなことだけどね。




