幕間・王子とクリスマス
第二王子アルベールの話です。
学園のクリスマス会翌日、終業式が終わると、僕たちはシュタイン家へ直行した。
ミリアムとヴィーのほかは、レティ、ジョー、バレン、ウォルフガングと僕だ。
シュタイン家でクリスマスを祝うためだ。
本当のクリスマスは昨日だったけれど、バレンとウォルフガングがそれぞれの友達と約束があり、みんなが揃うのが一日遅れの今日だったのだ。
去年の僕はペソアで、表面上の友人たちとつまらないクリスマスを過ごした。
それに比べて今年のクリスマスはなんて魅力的なクリスマスなのだろう。
普段の悩みは一時忘れて、楽しもう。
◇◇
シュタイン邸の中ではやや小ぶりな広間に、天井まで届く立派なもみの木が置かれ、美しく飾られていた。
いつの頃からかこのもみの木に、願い事を書いた星を飾っている。ヴィーの発案だった。何故そんなことを思い付いたのかはわからないが、僕たちには恒例となっている。
バレンは渡された星を手にしばらく逡巡していたけれど、ペソア語で平穏と書いていた。
本人は強気だったけれど。兄君の件で、彼のペソア王家での立場が悪くならないことを、祈るばかりだ。
ウォルフガングは一言、勝つ、と書いて、ジョーに去年と一緒じゃないかと突っ込まれていた。そもそも何に勝つつもりなのだか。去年いなかった僕にはわからない。
ジョーとレティはお揃いのハートを書いていた。すっかりラブラブだ。二人が幸せそうで、嬉しいような妬ましいような。
ミリアムは探し物がみつかりますようにと書き、ヴィーはアンディとキンバリー先生が幸せでいられますようにと書いた。
すでにフェルディナンドたちのものが飾られていたので、みんなで読んでしまった。
レオノールが健やかに育ちますようにと書かれたものは、エレノアだろう。
馬鹿者に幸あれとあるのは、フェルディナンドに決まっている。
双子が楽しく学園生活を送れますようにはアンディだ。
それを見たジョーが、嘘でも結婚できますようにって書けよと笑っていた。
みんなで輪になってプレゼント交換をして(これもヴィーの発案だったはずだ)、素晴らしいご馳走を食べて。カードゲームをしたり楽しく過ごしていると、ふいにヴィーが、
「あ!願い事、もう一つあったんだ」
と叫んだ。
「ガキは欲張りだ」とバレンがすかさず意地悪く返す。ヴィーはガキじゃないよと律儀に返答してから、
「僕もお泊まり会をしたいんだ」
と言った。
僕たちは驚いてそれぞれの顔を伺った。
「だってミリアムは時々レティの所へ泊まって女子会するでしょ?僕もやってみたいんだ」
「…男だけでやって楽しいかな?」
僕はそろっと反論してみる。
「兄さまもそう言ってるのよ」とミリアム。
「やってみなくちゃ分からないよ」とヴィー。
僕はジョーと顔を見合わせた。
「お泊まり会をして、具体的にはどう過ごすつもりだ?」とバレン。「どうせお前のことだから、美味しいお菓子と夜食を用意することしか考えてないだろう」
言葉につまるヴィー。図星だったらしい。
「そんなことないよ。寝落ちするまでゲームしたり、恋バナしたり…」
ウォルフガングが、女子か、と呟く。
「…枕投げしたり…」
枕投げってなんだ?とバレンが僕に聞く。僕もわからない。
「…き、肝試しとか!?」
「お、楽しそう」とジョーが反応し、レティにこっそり肘鉄をくらっている。
「でも、それはお泊まり会ではなくてみんなでやりたいよ」と僕はやんわりと否定してみる。
ヴィーは
「みんなは興味ないのか…」
と悲しそうな顔をした。ヴィーを除いた全員が視線を交わす。
お泊まり会なんて、絶対にフェルディナンドが許さない。ヴィーを傷つけずに諦めさせたい。どうしよう。
いや、フェルディナンドがしっかり諦めさせておかないのが悪い!
「お、集まっているね」
と図ったようなタイミングで開けはなたれたままの扉から顔を出したのは、当のフェルディナンドだった。
「お帰り!フェル、アンディ」
とたんに嬉しそうな顔をしたヴィーが駆け寄る。
アンディも『お帰り』なのかい、という顔をウォルフガングとジョーがしている。
ヴィーはまるで猫がされるかのように頭をアンディに撫でてもらって、今にもゴロゴロ喉を鳴らしそうな顔になっている。
昔からアンディはヴィーに甘かったけれど、帰国してから更に重篤になった。
駄目だ、あっちの兄は頼りにならない。やはりここは本物の兄であるフェルディナンドにびしっと言ってもらう。
ひととおりの挨拶を済ませると、二人の兄は広間を出て行こうとしたのだが、すかさず呼び止めたのは、ヴィーだった。
悲しそうな表情のヴィーは
「みんなお泊まり会に興味はないって」
とフェルディナンドに訴えた。
「だから言っただろう」とフェルディナンド。「男子はしないよ」
「でもアンディなんてしょっちゅう、うちに泊まっていたじゃないか。フェルだって行っていたし」
「…それはお泊まり会じゃない」
苦しい言い訳だな。さすがのフェルディナンドもやや目が泳いでいる。
ヴィーがなぜか僕を見た。目が合うと、悲しそうな顔のまま、目を伏せる。
どうしてだ?僕がやんわりと反論したからだろうか。あんな顔をされたら心が痛む。
しっかりしてくれよ、フェルディナンド。
「ヴィーはね、アルがまだ自由な学生のうちにたくさん遊びたいのよ」
ため息混じりのミリアムの言葉にヴィーがこくりと頷く。
僕は驚いてミリアム、ヴィーと見て、それからフェルディナンドを見た。彼も知っていたのだろう、困った顔をしている。かといって許可したくもないのだろう。
僕はそんなヴィーの気持ちも知らずに、反対してしまったのか。
「…お泊まり会…」
勢いで口にしたものの、どうしようか。
「年越しパーティーしようぜ」
そう言ったのはバレンだった。
「シュシュノンではやらないって聞いたけど、ペソアはやるぜ。真夜中を過ぎたら新年を祝うんだ。枕投げも肝試しも全部やって、みんなで騒ごうぜ。それなら女子も一緒にできるだろ?」
「いいな、それ」とジョー。
顔をあげたヴィーの目がキラキラしている。
そうだ、すっかり忘れていたけれど、確かにペソアにいたときに僕も参加した。
バレン、すごいぞお前。見直した。
みんな口々にバレンの案に賛成する
「ねえ、フェル、それならいいでしょ?」
ヴィーに問われたフェルディナンドは吐息した。
「わかった、いいよ」
やったあとヴィーは、ミリアムと一緒に手を繋いで無邪気に喜んでいる。
「ヴィー」
僕の呼び掛けに振り向いたヴィーに、
「ありがとう、色々考えてくれて」
と礼を言う。
「ちがうよ。僕がアルとたくさん遊びたいんだよ」
えへへと笑うヴィーに、僕は先程星に書いた願い事を思う。
来年こそは全てがうまくいきますように。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回、本編に戻ります。




