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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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2章・18 ゲインズブールの不在 2

 

 ◇◇




 キンバリー先生はマリアンナの話をするときによく、『上』と言う。ゲインズブールも使っていた気がする。

 この『上』がなんなのかを以前尋ねた。

 だけど教えてもらうことはできなかった。


「ごめんね。ヴィーちゃんの手助けはするつもり」

 すでにお互い転生者とわかっていたときだ。

「だけど『上』について詳しく教えることはできない。トップシークレットなんだ」


 トップシークレット。

 気にならないと言ったら嘘になる。

 マリアンナはミリアムとレティの敵だ。

 しかも目的のためなら事故を起こすことも辞さない。


 でも先生の仕事上の機密を無理に聞き出してまで、知らなければならないことではないだろう。

 今は十分対処できている。


 そう考えて、引き下がった。


 ◇



 帰りのホームルームはキンバリー先生ではなかった。

 あからさまにがっかりする男子たち。

 なんとなく気になったあたしは 、放課後ミリアムと一緒に医務室へ向かった。だが扉には不在の札。

 通りがかりの先生に尋ねたら、仕事で出ているという。

 余計に気になって置き手紙でもしていこうかと考えていたら、先生が帰ってきた。


 いつもの仕事着じゃない。

 簡素だけど高価な生地で作られた品のいい外出着に、髪も巻き上げられている。ただその顔は疲れて見えた。


 あたしたちを見て笑顔になる先生。

「ヴィーちゃんにミリアム。どうしたの?」

 ちょっと心配で、と言うと先生は医務室の鍵を開けながら

「カッツなら大丈夫。ただの風邪と疲労と栄養失調だって。すぐに治る」

「…それ、大丈夫なのかしら」とミリアムが呟く。

「違うよ。先生が心配だったの。朝、困った顔をしていたから」

 あたしが言うと振り向いた先生は、

「ヴィーちゃんはかわいいねえ」

 と目を細めて笑った。そしてあたしたちを医務室に招き入れると扉を閉めた。


「実はね、朝はまずいかなと思ってたんだよ。マリアンナの特別指導が滞りなく進むように管理するのが先生の仕事だからね」

 特別手当ても出てるし、と言いながら忙しく動き回る先生。

「カッツが病気退場なんて、責任をとらされる」

「自己管理がなってないゲインズブールが悪いんじゃない!栄養失調ってなにさ」

 だよねー、と先生。

「でも『上』には『上』の言い分がある。こってり絞られてきたよ」

「怒られたの?」

「そうだよ。ま、それだけで済んでよかったわ」


 やることが終わったのか、あたしたちの前に戻ってきて、にっこり笑った。

「…理不尽だわ」とミリアム。

「仕方ない。この世界で働く女を快く思わない男は山ほどいるからね。隙を見せたら終わりなんだ。叱責だけで済んでラッキーだよ」

 そんな、とミリアムもあたしも言葉を失う。


 大丈夫だって、と先生は笑う。

「万が一のときはヴィーちゃんに助けてもらうから。ヴィーちゃんが泣きつけばフェルディナンドがなんとかしてくれるでしょ」

「僕!やるよ!先生助けるよ!」

「頼りにしてる」

 笑う先生に胸が痛くなる。

 先生は長いこと、ここで働いているのだ。理不尽なことが今始まった訳ではないだろう。


「そういう訳で、カッツが復帰するまでマリアンナは先生が指導することになってさ」

「ええっ!なんで!?」

「適任者は他にいるんだけどね。ま、都合?だからこれからマリアンナを呼ばないといけないから、悪いけど帰ってもらっていいかな?」


 あたしはミリアムと顔を見合わせた。

「先生、彼女と二人きりで大丈夫?」

「大丈夫。先生、君たちよりだいぶ大人だよ?」

 だとしても。マリアンナはキンバリー先生を見下していたしなあ。

「…僕がいたらまずい?」

「当たり前!…でも、ありがとね。さ、帰った帰った」


 先生に追いたてられて医務室を出る。

「ヴィーちゃん。ミリアム」と先生「先生、これから数日はマリアンナの指導をしなきゃいけない」

「はい」

「解放されるころには、ストレスたまっていると思うんだな」

「かわいそう」

「シュタイン家の美味しい焼き菓子があったら癒されるだろうなあ」

 にんまりとした笑みを浮かべる先生。

「用意してもらうよ!」

「用意してもらうわ!」

 ミリアムと二人同時に叫んでしまい、顔を見合わせて笑った。

「楽しみにしてるよ。かわいい双子ちゃん」


 先生の笑顔に見送られて、医務室を後にした。


 ◇◇



 帰宅する馬車の中で。ミリアムが

「あんな素敵な先生なのに。女性というだけで苦労をしなくちゃいけないなんて」

 と言った。怒っているようだった。


 学園で働いている女性はキンバリー先生以外には、二人の教師と、一人の事務員だけだ。しかも年配。

 女生徒もいる学園に男性教師しかいないのはいかがなものか、という考えのもとで雇われているのだろう。

 魔力はそれなりにあるようだけど、教師としての熱心さは感じられない。


 あの学園で、キンバリー先生はとても異質なのだ。


「女性がもっと気軽に働けたらいいのに」

 ミリアムが働くのは、想像し難いけど。

 そう思うあたしはこの世界に毒されているのかな。

「どうすればいいのかしら」


 あたしの心に名案がむくむくと沸き上がってきた。

 でもそれを口にすべきか悩む。しばらく迷い、一か八か言ってみることにした。

「ミリアムが王妃様になって、変えていけばいいんじゃないかな」


 きょとんとしていたミリアムは。その意味することに気がつくと、途端に真っ赤になった。

「何を言ってるのよ、ヴィー。なろうと思ってなれるものではないでしょう」

「そうかな。アルに相応しい女の子なんて他にいないよ。ミリアムならきっとすべての女子が憧れる素晴らしい王妃様になれるよ」

「お馬鹿さんね、ヴィーったら。それにキンバリー先生には今、助けが必要だわ」

「そうだね。いい案だと思ったんだけどな」


 ミリアムは目を伏せた。

 何を考えているのか、わからない。

 あたしはそれ以上、この話題を続けるのはやめにした。


 どうしてミリアムはあたしに打ち明けてくれないのだろう。


読んで下さってありがとうございます。


今月も土日は21時、22時の2回アップでいきます。

できれば今月中に完結させたいです。

まだ予定は立っていませんが、そのつもりでアップしていきます。

よろしくお願いします。

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